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07 泡沫の月夜
その3
しおりを挟むブラックコーヒーを楽しむつもりが誤ってミルクを一滴垂らしてしまったかのように、ほの暗い部屋の中へ何かが垂れ落ちてきてすじ雲のように広がってゆく。
唇と唇を重ねる以上に時間をかける上唇そして下唇への優しい甘噛みは唇が二つに分かれている理由を教えてくれる泡沫の恋のしるしであるのに、ココロもカラダも溶けてゆかない。
上唇と下唇の間からねじり込まれた舌の動きを感じていても、電話へ向けて「仕事」と言った男の声がいつまでも耳に残っていて、その言葉が奥の奥の底から繰り返し聞こえてくる。
下着と素肌の隙間へ滑り込んだ大きな右手が胸をゆっくり揉み上げる動きを感じていても、レストランのレジ前で「領収書をお願いします」と言った男の横顔が瞼の裏に浮かびあがり消えてくれなくて、その冷たい表情が奥の奥の底から熱を奪ってゆく。
キスしたら、いくら?
胸を揉んだら、いくら?
カラダを重ね合わせたら、いくら?
黒と白のマーブル模様は崩れてゆきながら複雑に入り交じり、ぼやけて一体となってカラダに張り付いてくる。
男の身体を両手で押しのけ、ベッドから立ち上がった。
外されたブラウスのボタンを淡々とはめてゆく。
「ごめんなさい。今日は帰る」
キョトンと不思議そうな表情の男をベッドの上へ残したまま、少し痺れた脚で靴を履く。
無音のままの部屋にココロが割れそうになる。
振り向きたいのをこらえて、思っていた以上に大きく重く真っ黒な扉を開けるために力を入れた。
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