ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母と母と私

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 祖母と母は最後までうまくいかなかった。

 祖母は気性が荒く僻みっぽい面はあったが、少なくとも底意地の悪い人間ではなかった。母への意地悪も口だけだったが、そうはいっても母の若い頃から「町から嫁に来た余所者」扱いで近所にも悪口を触れ回っていたそうだから、母も相当肝に据えかねたり神経が参ったりしたことだろう。

 そのうち「ほにまあ、あっただきがねぇあんな気の強いお婆ちゃんを、よぐ見でけでるもんだ面倒を見てあげているものだ」と母の方に同情が集まるようになったらしいーー母の他にも、家の庭や敷地の境界の事で独自の思い込みを抱えており、ご近所にもちょくちょく揉め事の種をばら撒きがちな祖母だったので。

 嫁姑問題において、父が一貫して母の味方であったのも、息子として祖母の性格についていけない部分があったのかもしれない。お陰で私達姉弟きょうだいは母子家庭で育たずに済んだ。

 前時代の家長的価値観が薄っすらと残っている田舎で、父と母が標準値以上のお人好しだったから祖母も最期まで家族と暮らせたのだと思う。これが今住んでいるニュータウンの辺りなら、子どもが何人いようと間違いなく孤立老人一直線だ。

 とは言え忍耐強い母にも、時々首を傾げるようなところはある。

 母も祖母も花が好きで、家の前の庭にそれぞれ自分の花壇を持っていた。田舎の典型的な土地余りの庭で、お洒落な柵や意匠を凝らした石垣など設けるだけまだなのだが、本人達の間にだけは境界線があった。

 母は長年、自分の花壇の方に祖母が除草剤や雑草の種をこっそり撒いているのではないかと疑っていて父にも私にもそう話していた。母も少し潔癖性気味なところがあるので話半分に聞いて

「夏の雑草なんていくらでも生えてくるでしょ。種が十年も生きるって言うんだから」

 と、相手にはしなかった。

 夏に私達が帰省していて忙しくしている時期も、母は暇さえあれば「草取んねえば」と繰り返していた。子や孫の事を考えて、安易に除草剤に頼らない方針を貫いている事には感謝したいのだが。
 母は昨年、ついに根を上げて花壇以外の除草を町のシルバー人材センターに頼むことに決めたという。それを聞いた時には内心ほっとした。が、どうしても仕上がりが納得できないらしく自分でやり直したりしている。

「シルバー(人材センター)の人どうぁ、仕事が欲しくて草の種っコでも播いでったんてねぇべが。こないだもその人が通りがかったが、そろそろ仕事さなるべぇがど様子を見に来たんでぁねぇべが」

 とこぼすに至っては、私も内心狼狽えた。被害妄想とは人から人へ伝染するのだろうか?
 もしかすると無駄に広いだけの庭でいたちごっこのような雑草取りに追われて、軽い強迫症になりかけているのでは?

 だがある時、母の花壇の一角にある花が突然枯れてしまったのは私も見たことがある。母は祖母が農業用の除草剤を撒いたのではないかと疑っていた。
 だが、花壇の花が全部枯れてしまったわけではないし、祖母が何かしている現場を母も私も見たわけではない。害虫や病気など別な原因で枯れた可能性も否定できない。
 花壇疑惑は「疑わしきは罰せず」で事の真相は永遠に藪の中だ。

 ところで、君子蘭盗難事件の時は不思議と誰も祖母を疑わなかったーーまあ何かやらかすには物が大きすぎるのだが。
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