ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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八戸のデパートの思い出 2

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 過疎地の昭和の子どもだった私達は、現代的な消費の喜びやキラキライベントに飢えていて年に一度か二度、両親に八戸のデパートに連れて行ってもらうのが人生で一番の楽しみだった。
 出かける前日と当日なんて、テーマパーク慣れしている今の子どもの何十倍もきっとハイテンションだったのではないか。

 夢と魔法の国ならぬ、夢の街へのドライブの時は母が必ずバスケットを持参し、りんごを剥いてくれるのも謎の恒例行事だった。

 いよいよデパートに到着するとまず、メインのおもちゃ売り場を目指す。町のおもちゃ屋より広くて品数の多い売り場には、晃夫と二人で何時間でもいられた。展望窓のあるレストランでお子さまランチを食べ、屋上の遊園地や動物園で遊んだ。

「三春屋」「緑屋」「丸光」「長崎屋」「ニチイ」「イトーヨーカドー」ーー昭和の高度経済成長から続くデパート全盛期の頃、八戸市内には一体幾つのデパートがあったのだろう。
 最上階から見渡す市街地のあちこちにまた別なデパートの看板がいくつも見えるーー文字通りの別世界だった。

 デパートのハシゴをしたりしながら、父も母も合間にそれぞれ自分の買い物をしていたのだと思う。

 私のもう一つの隠れたお気に入りは実は、実演販売のおじさんだった。
 催事場や食器売り場のエスカレーター脇などに陣取り、リズミカルな口上で上手にお客さんの笑いを取りながら商品のスライサーを使い、なんの変哲もない見慣れた野菜を花や星の形に鮮やかに生まれ変わらせるーーこれだって故郷の町ではまず見る事のできない都会の大道芸的アトラクションだった。

「え?しーちゃん、デパート行きたいの?」

「いやいや、さすがに今はいいや。懐かしくてちょっと思い出しただけ」

「二人だけならショッピングとランチでもいいけどさ。海鮮センターは?水揚げされたての魚貝をお土産に送れるよ」

 お土産に魚かぁ……豊が送ったら喜びそうだけど、誰が捌くわけ?……と、チラッと思った。

「そこの炭火焼き定食ってね、買ったのをその場で焼いて食べられるの」

「確かに美味しそうだけど、わざわざ八戸行かなくても新鮮な魚ならここの市場でだって帰るじゃん」

「だよねぇ」

「炭火焼きは捨てがたいけどな」

「じゃあ夏にバーベキューやろうよ。どっちかの家で、どっちか呼んで」

「いいね、それ。あ、じゃあさ、スケートリンクはどう?」

 小学生の頃の頃、本町の伯父一家に何度かついて行って基礎を教わった事があるが、それ以来だ。

「貸靴もあるし、平日だからきっと空いてるよ」

「颯也も私もたぶん滑れないよ。十代は反射神経いいから何とかなるかもしれないけど、おばさんがヨタヨタして転んでばかりじゃ他の人に迷惑でしょ」

「大丈夫、手すりもあるし、上手い人は真ん中で滑ってるから」

「でもなあ……帰る前に怪我でもしたらシャレにならないもん。せめてあと十年若かったら再挑戦してみるんだけど」

「ねえ明日、どっか行くの?」

 茶の間でテレビを観ていた颯也が、会話を聞きかじって期待一杯の顔で飛んできた。

「そうだよ。颯也はどこか行ってみたいとこある?」

 実家の電話機をスピーカーホンにして聞き返した。颯也は少し考えて「海に行きたい」と答えた。
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