愛しのお兄ちゃん

kinmokusei

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お兄ちゃんの笑顔

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あたしはお父様の部屋の前から足音を立てないようにそっと離れて自分の部屋に戻った。


一体どう言うことなのか?


お兄ちゃんはわざとあたしの嫌われ役をかってでたってことよね?


あたしはお兄ちゃんの笑顔を思い出し、今までの習い事や、バイトのことを考えていた。


どれも考えてみれば、この神崎グループを継ぐための試練だと思えば、妙に納得がいった。


お兄ちゃんはあたしを神崎グループの跡取りに鍛え上げるために来たんだ。


それなのにあたしは、、、。


お兄ちゃんが乗っ取りを考えているなんて邪推して。


お兄ちゃんの笑顔が眩しい。


お兄ちゃんはあたしを神崎グループを継ぐのにふさわしい人間になったらきっとあたしの前から去ってしまう。


お兄ちゃんの性格だ。


間違いない。


いい知れぬ寂しさに、あたしは襲われ、頭から布団を被った。






いつのまにか寝てしまったのか、あたしはエミに起こされた。


「かんな様。朝食の時間でございます。」


「う、うん。」


あたしは目をこすりながら起き上がった。


「お兄ちゃんは?」


「彩音様はもうお待ちでございます。」


「そう、、、。」


あたしは起き上がって制服に着替える。


顔を洗い、お兄ちゃんの待つリビングに向かった。






「遅いぞ!早くしろ!」


お兄ちゃんの小言。


いつもだったら言い返すあたしだけでど。


「ごめん。」


あたしはボソッと言う。


「なんだ?今日はやけに素直だな?」


この言動もあたしのため。


そう思うと怒る気にはなれない。


あたしは何も言わず椅子に座る。


「元気ないな?何かあったか?」


心配そうな顔をするお兄ちゃん。


あたしは心が痛んだ。


「おかしいな?今日は習い事休むか?」


「ううん。行く。」


今日は社交ダンスの日。


お兄ちゃん。


心が痛いよ。


あたしは心の中でお兄ちゃんに言った。






「かんな?」


あたしは学校に着いても、ボーっとしていた。


「ねぇ?かんなってば!!」


「えー、、?」


「えーっじゃないわよ!今日はスパルタ社交ダンスの日よ?そんなボーっとしてたら小野寺の奴になんて言われるか。本当に根性ひねくれてるのよ!」


「小野寺さんのこと悪く言わないで!!」


あたしは思わず美春を怒鳴ってしまっていた。



「な、、、」


美春は本当に驚いた様子で口をパクパクさせている。



「おに、、じゃなくて、小野寺さんは真面目なだけだと思う。怒るのはあたしたちのためを思ってよ?誰かに嫌われてまであんなに熱心に、、、。」


あたしは泣き出していた。


「ちょっと、、、!かんな?どうしたのよ?」


「小野寺さんは、、、小野寺さんは、、、」


あたしの大切なお兄ちゃん。


あたしは泣きながら心の中でつぶやいた。


「かんな、、、もしかして小野寺さんのこと好きなの?」


え、、、?


好き?



あたしは美春の問いかけに驚いた。






「そ、そそ、そんなんじゃないわよ!!なんであたしがあんな意地悪なお兄ちゃんなんか、、、」


「お兄ちゃん??小野寺さんの話してるのよ?」


美春はけげんな顔をした。


「いや、だから、、、!」


「かんな?あたしに隠し事してなぁい?」


「そ、そう言う美春だってあたしに隠して社交ダンス教室に通ってるじゃない!」


「いや、、、それは、、、。」


お互い気まずい沈黙が流れた。


「仕方ないかー。ごめん。話すよ、かんな。だからかんなもあたしに話して。」


少しして、美春はため息をついて、言った。


「聖夜さんはあたしの婚約者なの。」


「え?!」


あたしは驚いた。


「お父様が勝手に見合い話を決めてきて、見合いをしたのよ、あたし。」


「は?」


またも驚くあたし。


「で、社会勉強として社交ダンスに誘われて、今に至るわけ。」


「そ、そう、、、。」


「あたしは話したわよ?今度はかんなの番よ?」


「う、うん。」


あたしはお兄ちゃんのことをポツリポツリと話し出した。






「へー。そうなんだ?あの小野寺さんがかんなのお兄様なのね?」


あたしの話を全部聞き終えて美春は言った。


「あの態度の悪さもかんなのためだった訳か?」


「いや、別にあたしだけのためにじゃなくて、お兄ちゃん不器用なだけで、、、」


あたしの言葉に美春はニヤリと笑った。


「それで好きになっちゃったんだ?」


「ち、違うわよ!!好きとかそう言うんじゃないから!!ただ憎まれ役をしてくれてて、誤解してて、だから、お兄ちゃんは本当は優しい人で、ってあれ?」


「好きなんでしょ?」


美春は優しく笑った。


「もう!!美春こそどうなのよ?聖夜さんのこと好きなの?」


あたしは話題を変えた。


これ以上言われたらお兄ちゃんのこと意識しちゃう。


そう思って。


すると美春は言った。


「ええ。好きよ?ライバルは多いけれどね。」



照れながら言った美春はとても可愛いかった。


素直な美春がなんだか、あたしは羨ましいと思った。






「美春が見合いねぇー?でも藤堂グループともなればそういう歳なのかもね?聖夜さん良い人そうだし、好きなら良かったじゃない?」


「うーん。それはそうなんだけど、、、」


美春は歯切れが悪い。


「何よ?何が問題でもあるの?」


「あのねぇ?社交ダンス通い出してもう結構経つよねぇ?聖夜さんモテモテであたし近づくことすらできないのよ?あの雰囲気分からなかったの?」


美春がジロリとあたしを見る。


「婚約者なんだから、聖夜さんにとって美春は特別じゃない。不安になることないと思うけどなー。」


「かんなはまだ恋してないのね?小野寺さんと若葉さん見てヤキモチ妬かないなんて!!」


「はぁ?」


さっきはお兄ちゃんのことあたしが好きだって言ってたのに。


美春は勝手だ。


「小野寺さんの笑顔見たことある?」


美春はいきなり話を変えた。


「え?あるよ。」


「違う違う!若葉さんに対しての笑顔。あたし少しびっくりしたのよね。ちょっと気持ちが揺らいだっていうか。」



「え?どういうこと?」


「小野寺さんは若葉さんが好きなのよ。」


え、、、?





「ヤダ、何言ってるの?お兄ちゃんは、、、」


あたしはそこで言葉につまった。


あたしはお兄ちゃんのことを何も知らない。


あのお墓だって、多分お兄ちゃんの身内だろうけど詳しく知らないし。


お兄ちゃんの目的が、あたしを神崎グループの後継者にすることだということしか知らないのだ。


プライベートで若葉さんと会ってるのかもしれないし、働いてるって言ってだけど、やっぱり詳しく知らない。


「若葉さんもまんざらでもないのよ?どう?妬ける?」


美春はニヤリと笑った。


「べ、別に!!あたしはお兄ちゃんなんか好きじゃないし。」


「そんなこと言ってると小野寺さん取られるわよ?あたしは好きじゃないけど、あの鬼のようなシゴキについていく女の子も結構いるんだから。」


まぁ、性格に少し問題があるけど、顔だけ見ればカッコいいかも、、、?


「社交ダンスの名物なのよ。飴とムチ。ふふふ。」


「はぁ?」


「聖夜さんが飴で、小野寺さんがムチ。漫才やってるみたいでおもしろいのよ?」


美春はそう言って笑った。


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