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1章 はじまりの月
1−1
しおりを挟む神を信じ、大陸にある数多の国が教皇に忠誠を誓っていた時代。
小国でありながら長く存続してきた国があった。
その国は、歴史書には殆ど登場しないような存在の薄い国。
山々に囲まれ閉ざされた場所で、他国との交流も希薄だった。
特に資源に富んでいる訳でも、豊かな国でもない。
突出した特徴も殆どない小さな国だが、多くの歴史家はその国が存続してきた理由に、隔離された土地柄以外にもう一つあると語る。
かつて多くの民族を受け入れてきたこと、それが、この国の根幹だと。
その小さな国は、迫害された民の最後の砦だった。
彼らは居場所を奪われまいと、その力を振り絞り国を存続させ続けた。
国内は様々なルーツが入りじまっていたが、確かに一つの国として成り立っていた。
そんな小さな国の公爵家で、双子が生まれた。
双子はとても対照的。
この国では、人はそれぞれがもつ魔力の特徴を、神たちと結びつけ、天から与えられた“加護”として区別していた。
その由来は様々な文化が入りじまっているこの国特有のもので、双子たちはその中でも貴重とされる始原神の加護がそれぞれに授けらた。
一人は、第十二始原神である月の神からの加護。
もう一人には、第一始原神である太陽の神からの加護が与えられた。
月の加護が与えられたその双子の姉は、月の様に大人しく、人前に出ることを苦手としていた。
反対に、太陽の加護が与えられたの妹は、太陽の様に明るく天真爛漫な性格だった。
彼女達は、顔立ちも全く違った。
姉は、幼いながらも、落ち着いた美しい顔立ちで、品があるが、表情が乏しく冷たい印象がある。
対して妹は、美しいというよりは愛らしい顔立ちで、常に笑顔の絶えない子だった。
まさしく太陽と月。
2人はそのプラチナブロンドの髪色が似ているだけで、瞳も姉は闇を思わせる深い青色、妹は太陽に照らせれる新緑の様に美しい黄緑色の瞳をしていた。
その双子はそれぞれその加護を受けた神の名前からとって、姉はセレーナ、妹はソルと名付けられた。
*
「見て見て~」
この国の小さな太陽が、青々と葉が茂る枝の間から顔を出した。
「お嬢様っ、またそんなところでっ」
侍女が驚いた様子で木の下であたふたしている。
「ほらほら~、ここに鳥の巣がある。セレーナ! 私が言った通りでしょ? 」
ソルは嬉しそうに、開けっぱなししてある窓に向かって叫んだ。
窓際で読書をしていたセレーナはだるそうにそれを見た。
「ほら! 」
腕を目一杯伸ばして指差す姿は子供らしく、好奇心に溢れている。
なんでも自分で確かめたいたちのソルは、後先考えず突っ走る所があった。
最近は、その興味は屋敷内に留まらず、外にまで広がっているようで、使用人を振り回しながら街に繰り出している。
反対に、セレーナは特に何かに興味を示すことはない。
煌めくソルの笑顔を目の前にしても、表情を崩すことはしないし、むしろ読書の邪魔をされて煩わしそうにも見える。
常に大人しく、親に決められた事をこなすのみのセレーナ。
「危ないわ。もう降りたら? 」
どう考えても、大人に注意されるような行動ばかりするソルを理解できない。
セレーナははっきりとした声で注意した。
その声は、子どもにしては落ち着いていて可愛げがない。
「大丈夫よ。ほら、可愛いでしょ? 」
けれど、大股を開いて気に登っているソルはそんなことお構いなしに人に好かれやすい笑みを浮かべるばかり。
もうすぐ10歳になるというのに、その仕草は令嬢らしさなどは皆無だが、快活な姿は見る者の気分を爽快にさせる。
セレーナには絶対にできないことだった。
「この雛が大きくなるのが楽しみね!」
太陽の様な笑顔でソルは言った。
もし、人々がこの光景を見れば、誰もが、ソルが御伽噺の主人公の様に思うだろう。
そして、それを感情のない瞳で見つめるセレーナにいい感情を抱かない。
セレーナはソルを無視して、窓から離れた。
自分が何を言おうと無駄だとセレーナは分かっていた。
ソルはセレーナのいうことなど聞く気がない。
たとえ理屈を通した説明をしたとして、温度のない声で語るセレーナにソルはいつでも反抗する。
「お母様、ソルが木に登っています」
セレーナは居間で刺繍をしていた母に言った。
二人の母である公爵夫人は顔色を変えて立ち上がる。
「なんで早くに言わないのっ!」
そう叫ぶと、慌てて外へ出た。
本当はそのまま部屋に戻りたかったが、ことの成り行きを見届けるため、ゆっくりと歩きながら後を追う。
庭では公爵夫人がソルを降そうと懸命に宥めていた。
しばらくして、やっとそれに同意したソルが渋々降りてくると、公爵夫人は追いついたセレーナを見るなり叱責する。
「曲がりなりにも姉ならちゃんと止めるべきだわ。ソルが怪我をすれば責任が取れるの? あの子は唯一無二の第一始原神の子なのよ?」
始原神にもランクがある。
付けられた番号は、この地に降りたとされる順番で、その中でもソルの加護である太陽神はすべての神々を統治する最高神として崇められている。
だからなのか、公爵夫人はソルが第一。
セレーナはおまけで、ソルを支える僕のように扱う。
──言ったけど、ソルが私の言うことを聞かなかったのよ、お母様
その言葉をセレーナは飲み込んだ。
もしかしたら、母は自分のことを“おまけ”とも思っていないかもしれない。
そんな不安で、「口答えするな」と叱られる事に怯えていた。
いつもそうだ。
ソルはこの家に笑顔をもたらすが、セレーナは何ももたらさない。
むしろ、公爵夫人はセレーナが近づくとあからさまに嫌な顔をするし、気分によってはいない者のように扱うこともある。
公爵夫人のお気に入りの温室も、ソルや2つ年下の弟は出入りが許されているのに、セレーナだけは絶対に許してもらえないし、食事の時みセレーナが近づく事を毛嫌いする。
ソルは失敗さえもこの家を笑顔にするというのに、まるで自分は疫病神のように公爵夫人を不機嫌にさせてしまう。
月の加護など本当は嘘なのではと思う程だった。
「大丈夫よ。鳥を見る方法なんていくらでもあるんだから」
そう言って公爵夫人は不貞腐れるソルに優しい母の声をかける。
彼女はこの家の太陽。
彼女達を眺める使用人達でさえ、眩しそうに微笑んでいた。
セレーナだけがそれを無表情にじっと見つめていた。
セレーナが公爵夫人からよくかけられる言葉がある。
「貴方はソルの姉なのよ」
双子でほぼ同時に生まれたのにも関わらず、常にソルに譲る姿勢を求められた。
双子でありながら、その役割を押し付けられたセレーナは、望まれた姿になれば公爵夫人も自分に振り向いてくれるのではと期待していた。
いくら表情が乏しくて子どもらしさがなくとも、中身は幼い少女。
飢えていた母の愛にしがみつこうとしていた。
しかし、少しずつ成長を始めたセレーナはそれに違和感を感じ始める。
セレーナがサボれば咎められるお稽古は、ソルが「嫌だ」といえば許される。
令嬢らしくない振る舞いをセレーナがすれば咎められるが、ソルがすれば「仕方ないわね」と笑って許す。
セレーナには、咎められるか静寂かの二択だった。
──ソルはこの家の太陽だから
セレーナはそれで納得しようとした。
公爵夫人がそう言っていたから。
けれど期待はいつしか諦めに変わった。
セレーナは、自分の義務さえこなせばいいと思い始めた。
ソルのように愛を求めるなど無理なのだ。
期待なんてするから、公爵夫人に求めてしまうからダメなんだ。
求められたことだけしていれば自分の周りはきっと静寂になる。
10歳にも満たない少女がそんな事を考えていた。
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