太陽になれない月は暗闇の公爵を照らす

しーしび

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1章 はじまりの月

1−2

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「二人は誕生日に何が欲しいんだい? 」

 セレーナ達が王宮から帰ってきた父──テッサロニキ公爵を迎えに出るとそう尋ねられた。
 大きなあたたかい手がセレーナ達の背中を撫でる。

 父に言われて、セレーナは誕生日が近い事を思い出した。
 最近は勉強に忙しく、誕生日のことなど気にしていなかったが、もうすぐ10歳になる。
 セレーナとて、こどもらしく心を躍らせた。

「そっか、もうすぐお誕生日だ!」

 素直に感情を出すソルに、ホールにいた者全員の頬が緩む。

 こういう所だと、セレーナは思った。
 こんな時、自分とソルの違いを実感する。
 セレーナにはソルの様に脊髄反射で反応することはできない。
 一旦その感情を自分の中で整理するのが常で、その流れに出遅れてしまう。

「わぁ~、何にしようかな」

 ソルは嬉しそうに飛び跳ね始めた。
 感情のままに体を動かせるソルをセレーナは羨ましく思った。

「セレーナは何が欲しい?」

 公爵は穏やかな目で問いかけてくる。
 そこにはセレーナを強張らせるものは一切無い。
 急かす事なくセレーナの答えを待つ父の瞳はとても優しかった。

「・・・もう少し、考えさせてください」
「そうか。焦ることはないさ。セレーナが一番欲しいものが何か、それが分かったらすぐ教えてくれればいいだけだからね」

 公爵はセレーナの頬を突き朗らかに笑った。
 そう言われて、セレーナは少し困ってしまった。
 正直、欲しいものなんてない。
 公爵家の娘であるセレーナ達はなんでも手に入る。
 たとえ、それが特別な日でなくても、たとえ、必要ないものでも、願えばなんだって叶ってしまう。
 だから、あえて欲しいものなんて言われても、セレーナにはこれといって思いつかない。
 だって欲しかったものは手に入らないと知っている。
 何より、セレーナには平穏であれば十分とさえ思っているのだから、他の望みなんてそうそう思い浮かばない。

「えーとね、この前街で見たオルゴールも素敵だったし、綺麗なペンも見つけたの! 」

 ソルは公爵の手を引っ張りながらあれやこれやと語り始めた。
 公爵は、ブラブラと片方の手をソルに遊ばれながらも、空いている方の手をセレーナの背中に回す。
 公爵は決してセレーナを置いて行くことはしない。

「そうか。けれど、その前に二人には聞いてほしい願いがあるんだ」

 公爵はにっこりと笑って双子と同じ視線になるようしゃがみ込んだ。
 アイスブルーの知的な瞳はやっぱり穏やかだった。
 ソルは「なあに? 」と愛らしく首を傾げ、セレーナは父の次の言葉をじっと待っていた。

「実は王宮から招待状が届いてね。セレーナとソルと同じ歳の子が集まって少し遊ぶ事になったんだ」
「王宮って、お父様がお仕事する場所でしょ? ソルたちが言ってもいいの? 」
「もちろん。二人ともお城に来てくれるかい? 」

 父は優しく聞いてくるが、これは拒否権がないやつだとセレーナは感じる。

「お城! 行く! 」

 ソルは元気よく手をあげていたが、セレーナは行きたくないと思ってしまった。
 人が多いのは嫌いだ。
 落ち着かないし、特にソルと一緒になるとなれば気を遣うことが多くなる。
 ただ、ソルの反応にホッとした表情を見せた父の姿に嫌とは言い出せない。
 あまり感情が出ないようにセレーナは無表情を心がけ、なんともない風を装う。
 公爵も声を上げないセレーナを見ると目の端に皺を寄せ、時々見せる不可思議な笑みを見せた。

「セレーナ、すまない」

 公爵はそう言って、セレーナの頭をそっと撫でた。
 好きなその温もりが、少しだけむず痒かった。

「またお揃いのドレスを頼む? 」

 ソルはあどけない笑顔でセレーナに尋ねた。

「お揃いのドレスでお城に行こうよ! 」

 ソルはそう言って太陽の笑顔を浮かべる。
 なんと返事を返せばいいかわからないセレーナはまた黙り込む。

──それは、嫌やだな・・・

 声には出さない思い。
 別にセレーナはソルが嫌いなわけではない。
 どんなに正反対でも、ソルはセレーナの双子の片割れ。
 眩しい彼女をセレーナとて妹として大切に思っている。

 しかし、好きだからと言って、ソルとお揃いにしたいとは思わない。
 セレーナとソルの好みが徹底的に違う。
 そして対称的な二人の容姿は、似合うものも正反対。
 ソルに似合う愛らしいドレスは、セレーナが着ると、無理して幼く見せようとしているようでアンバランス。

 なのに、ソルは直ぐにセレーナとお揃いにしたがる。
 ソルはあれがいい、これは嫌とはっきりと言う為、様子を伺い考え込むセレーナが答えを出す前に全て決まってしまう。
 後になって何を言おうとも、「わがままを言って困らせないで」と、セレーナの意見を求めてない公爵夫人に邪魔者扱いされるのがオチだ。

「私は、今あるものでいい」

 考え抜いた末、セレーナは遠回しに断る。
 だが、そんなな意図がソルに伝わるわけがない。
 お揃いがいいとソルが言いはじめれば、セレーナには選ぶ道が狭まってしまう。

「私の姫たちはそう着飾らなくても今のままで十分だよ」

 そう言って、父は2人同時に抱きしめた。

「それに小さな会だから、わざわざ新調する必要もないさ」
「そうなの? 」
「ああ、こんなに愛らしいんだ。綺麗にしすぎると妖精に連れ去られそうでお父様は不安になってしまうよ」
「ふう~ん。いいよ。ならこの前買ったでレスで我慢してあげる」

 素直なソルは、公爵の言葉で上機嫌になって嬉しそうに公爵の首に飛びついた。
 セレーナは、そうやって直ぐ反応を見せるソルを羨ましくいながらも、父に目を向ける。

──お父様、ありがとう

 心の中で呟いた。
 父はいつでも2人として見てくれる。
 太陽の隣にいる月ではなく、セレーナをきちんと見てくれる。
 公爵は王宮での仕事が忙しくなかなか屋敷に帰ってこない。
 帰ってきてもセレーナ達が寝ているうちに屋敷を出入りしているらしく、こうやって面と向かって話す事は限られていたため、こうやって過ごし時間は、セレーナにとってとても貴重だった。
 はしゃぐソルを相手にしながらも、セレーナの手を引いてくれることを忘れない父。
 だからセレーナは、ソルに振り回されそうな公爵について行こうと懸命に足を進めた。
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