太陽になれない月は暗闇の公爵を照らす

しーしび

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1章 はじまりの月

1−4

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 そしてお茶会当日。

「わぁ! 素敵! 」

 ソルはセレーナの姿を見ると歓声をあげた。
 黄色と橙色のドレスを身に纏ったソルはまさしく小さな太陽のようだった。

「それ、ソルとお揃いのドレスだったわよね? 」

 しかし、公爵夫人は怪訝な顔をしてセレーナに近づく。

 セレーナは、前よりも簡素になったドレスを身に纏っていた。
 例のドレスは、まん丸い大きな袖と愛らしすぎるフリルは一掃し、清楚なレースや刺繍を組み合わせることで、色味も形も全体的に大人っぽいものに様変わりしていた。
 元のドレスに手を加えるだけならと侍女達も協力してくれ、なんとかお茶会に間に合った。 

 セレーナは、一瞬だけ俯きそうになったが、ふとデジレ夫人の事を思い出す。
 今のままではダメな気がして、ぐっと胸を張った。
 どうせ何をしても公爵夫人はセレーナを責める。
 何をしても気に入らないのなら、弱くなる必要などないのなら、せめて堂々としよう。

「はい」
「せっかくお揃いなのにそんなことをして。ソルに申し訳ないと思わないの? ソルの気持ちを踏み躙ったのよ? 」

 公爵夫人は、ため息まじりに呟き、非難めいた目でセレーナを見る。
 セレーナはそれから逸らすことはしなかったが、簡単に人は変われない。
 返す言葉はすぐには思い浮かばなかった。
 ただ黙って公爵夫人の非難を受け止める他なかった。
 それを止めたのはソルだった。

「でも、素敵! お揃いじゃ無くなったのは悲しいけど、セレーナがとっても大人っぽくなるね! 」

 ソルは嬉しそうに、公爵夫人に賛同を求める。
 そうとなれば、公爵夫人はすぐに笑顔を見せた。

「そうね。ソルの言う通りだわ」

 ソルがいいなら、母は何も言わない。
 ころりと変わってみせるその態度にはセレーナは慣れっこだ。
 セレーナは公爵夫人に隠れて、ほっと胸を撫で下ろした。

「さ、いきましょう」

 母に促されてセレーナ達は馬車に乗り込む。
 弟は今日は家でお留守番だ。

 ソルの様に分かりやすくではないが、セレーナは本当は少しだけ期待していた。
 人が多くいるのは苦手だけど、新しい服に新しい場所。
 父のいる王宮にセレーナは思いを馳せた。





 王宮に着くと、予想以上の人混みにセレーナは目が回りそうだった。
 公爵家も人が多いが、それとは比べ物にならない。
 煌びやかな空間で、誰も彼もが着飾っていて、目がチカチカする。

「わぁ! すごい! 」

 ソルは相変わらず感情のままに声を上げる。
 セレーナは人前で令嬢がそんなことをしてもいいのかと、ヒヤリとしたが周りは特に気にしてはいないよう。
 同じデジレ夫人の授業を受けてるはずのソルはたまにセレーナには予測できない行動をすることがある。

 セレーナは、初めて対面する貴族達に萎縮してしまいそうだったが、デジレ夫人の言葉を思い出す。

──お母様には何も言い返せなかったけど、胸を張っているだけで少しだけ落ち着けたもの。堂々と、堂々と・・・

 セレーナは呪文を心の中で唱えながら、デジレ夫人に習った姿勢でゆったりと歩く。
 決してそれはセレーナの弱さを拭うものではなかったが、冷静に周りを見ることができる気がする。
 煌めくばかりでぼやけていた城の建物は、こんな姿だったのかと、今ははっきりとその姿を捉えることができた。
 先程よりよく見える周りにセレーナは心を躍らせた。

「さ、こっちよ」

 母がソルの手を引っ張って歩く。
 セレーナもそれについていくと、同じ年くらいの子ども達が多くいる場所に着いた。
 セレーナ達が行くと、バッと皆が振り返る。
 ソル以外で初めて同じ年の子と触れ合う。
 セレーナは緊張しながらも、挨拶をする。
 
「テッサロニキ公爵家のセレーナです」

 ピレウス伯爵夫人に教え込まれた作法を披露する。
 そこにいる子どもは、その完璧な作法と、セレーナの美しい容姿に見入った。

「ソルだよ! 」

 しかし、そこに晴れやかな明るい声が勢いよく被さった。
 その存在感は皆の興味をかっさらっていく。
 穢れのない輝かしいソルは、礼儀作法など気にすることなく声を出す。
 あれだけ授業をさぼっていたらこうなるのも仕方ない。
 だが、ソルは他の者と違う。
 太陽の様な笑顔と、その愛らしい容姿はすっと人の心の中へ入っていく。

「わたくしは──」
「僕は──」

 次々と子供達はソルに応えて声を出す。
 大人の様にきっちりと挨拶したセレーナには愛想程度、皆、親しみやすいソルに向かって笑ってる。

「友達がいっぱいだ! 」

 あっけらかんと笑っているソル。
 彼女が太陽であるのは屋敷の中だけではないことをセレーナは痛感した。
 王宮という初めての場所でも、直ぐに場の中心となり、変わらぬ光景を作り出す。
 セレーナは「やっぱり」と思った。
 そうなるのでではないかと、心の隅では思っていた。

「双子、なのですよね? 」

 一人の令嬢が声をかけてきた。
 少し年上の様に見える。

「はい」
「あまり似ておられませんね」
「・・・ソルは太陽の様な子です」

 相手の意図はわからないが、セレーナは思った事を慎重に口にした。

 そのまま2人で話していると、何人かの子供が集まってきた。
 すると、セレーナが返事をせずとも会話が回り始める。
 セレーナは、時々相槌を打ちながら、静かにその話を聞いていた。

 公爵夫人は、大勢に囲まれているソルを見ながら満足げだった。
 そこに集まっている子ども達の親と思われる大人がその周りにはいた。

──子どものお茶会ってなわけでもなさそうだし

 セレーナは、集まっている大人たちが何か期待するような眼差しをしているように感じ、話に耳を傾けながら考えた。
 公爵は同じ年ぐらいの子どもを集めていると言っていたが、それはどんな意図なのだろうか。
 ただ、屋敷から出たことのない子どものセレーナには分かるはずもなく、大人の事情なのだろうと注意深く見ていた。

 しばらくすると、王族がやってきた。
 かつては多くの民族が混ざり合い共和政をとっていたこの国も、王政が定着して久しい。
 貴族全員が直ぐに最上級の挨拶の姿勢をとると、セレーナもそれに倣ったが、ソルは大丈夫かと不安になる。
 横目で見ると、ソルも周りの子に合わせて不格好ながらも臣下の礼をとっていて、セレーナはほっと胸を撫で下ろす。

 王族の挨拶が終わると、それぞれにお菓子やお茶が配られ、本格的なお茶会が始まった。
 子ども用のテーブルには招待れた貴族の子息令嬢がずらりと並び、上座には次期国王で国王の唯一の子である王子がいた。
 吊り気味の大きな目と一文字に結ばれた顔を見てセレーナは猫のようだと思った。
 燃えるように赤い髪色は反抗的なその目にピッタリ。

「今日は楽しんでくれ」

 言わされている感満載で王子は、不満そうな顔で言った。
 セレーナはなんとなくそれに共感を持ちながらも、周りの話に耳を傾ける。

「殿下、素敵ですわね」

 令嬢たちが黄色い声を上げていた。
 確かに整った容姿をしている王子。

「殿下、これ美味しいですわよ」
「今日は良い天気ですわね」
「私のお家はですね──」

 親に何か言われたのか、それとも王子という存在に憧れを抱いているのか、幾人かの令嬢が我先にと王子へ駆け寄って話す。
 他のまだそんな感情を知らない無垢な令嬢や、子息達はただただこの会を楽しんでいた。
 そしてソルは当たり前のように後者。
 お城自体には夢を持っても、王子が出てくるお姫様の物語りには興味がないようだった。
 大人たちは別の場所で楽しんでいるようで公爵夫人はここにはいないが、普段からソルを唯一のお姫様という彼女なら、ソルト王子を縁付けたいとでも思っているのかもしれないと、セレーナは考える。

 なんだかんだと賑わいはじめたお茶会を眺めながら、セレーナは自分だけが完全に浮いているように感じた。
 完全に傍観者のような自分が変に思える。

 人の話を聞くのは好きだが、どうもこの空気感は苦手だ。
 だが、デジレ夫人がこういう場から逃げてはいけないと言っていた。
 だからその教えを守るべくこの場にいたセレーナ。

 けれど段々と気の合うものを見つけた彼らは無意識にセレーナをその輪から弾き出す。
 セレーナもあえてその輪に入り込もうとはしなかった。
 セレーナは誰にも気づかれないようにそっとその場を抜け出した。
 そして、背後にあった庭の奥へと足を運ぶ。

──少しだけ休憩させてください

 流石に疲れを感じたセレーナは、心の中でデジレ夫人に謝る。
 まるで迷路のように入り組む庭園はセレーナにとって逃げ場として最適だった。
 迷わないようにいくつかの目印を確認しながら歩みを進める。 
 そしてちょうどいい木陰を見つけると、セレーナはそこに腰をおろす。
 少し垣根があるだけで、会場のうるささが遠くにある様で、セレーナはほっとする。

──気持ちいい

 心地よい風がセレーナの髪を弄ぶ。
 会場の独特の熱や緊張がセレーナから抜けていく。
 セレーナは目を閉じて、束の間の安らぎを堪能していた。

カサッ

 すると、突然何かが落ちたような音が聞こえた。
 セレーナはゆっくりと目をあけ、音のする方へ顔を向ける。

「・・・殿下?」

 そこには令嬢に囲まれていたはずの王子が、真っ赤な顔で尻餅をついていた。
 そして、ガッツリとセレーナを見ていた。
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