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1章 はじまりの月
幕間ーテッサロニキ公爵
しおりを挟む「一体、これはどういうことですか」
静かな怒りを抱えテッサロニキ公爵は、屋敷に帰ってくるなりインペリウム伯爵を問いただす。
「連絡もなく来られるのは迷惑だとお伝えしたはずです」
たまたま時間が空き着替えに帰ってきて見れば、まるで自分の屋敷のように振る舞うインペリウム伯爵がいた。
しかもそこには、妻と子ども達がいたが、一人だけ足りない。
当たり前のように広がるその光景に、これが常習的なものだと悟ったのはすぐだった。
「娘と孫の顔を見るだけに、其方の許可が必要なのか? 」
インペリウム伯爵は、他人事のような顔をしてグラスを回した。
公爵は唇を噛み締める。
──あの子を傷つけておいて・・・
自然と拳に力が入る。
あの日、知らせを受け慌てて帰って見た我が子の姿が忘れらない。
傷一つなかった柔らかで白いその肌にできた生々しいもの。
そんな娘の姿を見たくなくて、けれど側から離れたくなくて、無力な自分に悔いた。
今にでも彼に殴りかかりたかったが、そうすれば彼と同じ土俵に立ってしまう。
今は我慢するしかない。
「5年前に、この屋敷の敷居を跨がないでいただきたいと伝えたはずです」
「はて、記憶にないな。皆快く受け入れてくれたが」
「伯爵」
「そう声を荒げるな。大切な孫が怯えている」
インペリウム伯爵に言われて、公爵はハッとした。
足元には不安げに自分を見上げる子どもたち。
公爵は怒りを押し込め、息子ともう一人の娘の頭をくしゃりと撫でた。
「すまないが、二人ともお部屋に戻ってくれ」
「お父様、どうしたの? 」
ソルが首を傾げ公爵に説明を求めるが、それを笑顔で誤魔化す。
「なんでもない。少しお祖父様たちと話がある。ソル、ウーノを連れて部屋にいてくれるかい? 」
「でも・・・」
「お願いだ」
静かな父の圧に、ソルも抵抗できずに頷いた。
「あと、セレーナが一人で寂しがっているはずだから、セレーナも一緒にな」
「セレーナ姉様はお部屋にいないよ」
8歳のウーノが無邪気に言った。
瞬時に公爵の顔が固まった。
「いない、だと? 」
「そうだよ。セレーナ、どっかに隠れてるの。呼んでも出てこないみたい」
今度はソルが答える。
「いつから? 」
「お祖父様が来てからだよ。朝から見てないもん」
「食事はどうした」
「知らない。セレーナいないんだもん」
ソルの返答を聞き、公爵は信じられない気持ちで妻の顔を見た。
妻はインペリウム伯爵にそっくりの平然とした顔をしている。
「君は、それでも母親か? 」
「あら、あの子の母親になったつもりはないわ」
愕然とした公爵。
けれど、その感情を彼らにぶつける暇などなかった。
公爵は2人を睨んだ後、部屋を飛び出した。
──セレーナ
公爵はもう一人の娘の姿を探した。
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