太陽になれない月は暗闇の公爵を照らす

しーしび

文字の大きさ
27 / 36
3章 暗闇と月

3−6

しおりを挟む
いつも読んで下さりありがとうございます。
しーしびと申します。
はじめに、3-5で魔法や魔力の内容が、他の話の記述と異なっていた為、一部変更しました。
手探りで設定を作っていますので、拙い部分は多々あると思いますが、何卒ご容赦ください。
どうぞ、最後までお付き合いくだされば幸いです。
━━━━━━━━━━━━━


 そして、次の日、セレーナはいつもより早めに目が覚めた。
 だが、あまり眠れてない。
 あまりにも醜い自分が嫌だったが、今日が楽しみな自分もいて──
 そうグルグル考えながら浅い眠りを繰り返し、いつの間にか朝になっていた。

 ただ、あれはただの噂話。
 嘘が混じっていることだって十分しているセレーナ。

──エレンから直接言われたわけじゃないもの

 だからと言って、あの楽しい時間が消えるわけではない。

『お月様』

 エレンはそう言ってくれた。
 あれがお世辞でも、嘘でもないとセレーナは分かっている。
 ただ、エレンがセレーにくれた言葉はどれも煌めいていて、セレーナの心を一瞬で晴れやかにする。

 だから、これ以上は考えるのをやめよう。
 せっかく、楽しみな時間ができたのに、余計な事で汚したくない。

 いつも考え込むセレーナにしては珍しい事だったが、その方がいいと判断した。
 一晩考え込んでいたが、考えてもどうしようないことはある。

 セレーナは気持ちを切り替えて起き上がる。
 寝不足なんて今のセレーナにはなんの問題にもならない。
 10歳になり、新しい生活がスタートした気分のセレーナ。
 今日のセレーナ担当の侍女も「おめでとうございます」とにこやかに言ってくれて、セレーナの気分はさらに上がった。

 着替え終わると、すぐに部屋を飛び出した。
 とは言っても、デジレ夫人の指導が身についているので、いつもより少し早い程度。
 右往左往している使用人達の事は目に入らなかった。

 厨房に行くと、料理長が待ってましたとばかりに現れた。
 彼は周りを見渡すと、セレーナを厨房から連れ出し、廊下の隅に連れて行く。

「お嬢様、お約束したものです」

 彼はセレーナにも持ちやすい小さなバスケットを差し出す。
 中身が気になって、セレーナが少しだけ蓋を開けると、クッキーと言っても色とりどりにデコレーションされていて、まるで宝石箱のようだった。
 ジャム入りに、飴のようなものが流し込んであるもの、色の付いた生地を組み合わせて模様になっているものに、上に絵が描いてあるものもあった。
 形も全て違っていて、いつもお皿に乗って出てくる上品なスイーツ達とはまた違うときめきがある。
 セレーナはこれが隙間時間で作ったものには見えない。

──あ

 そしてセレーナは気づいた。
 三日月の形と、ケーキを模した形のクッキー。
 ケーキには『10』の数字が書いてあり、セレーナは思わず料理長を見上げる。

「おめでとうございます」

 料理長は後頭部をかきながら、はにかんで言った。
 セレーナも少しむず痒くなる。
 バレていたのかと、セレーナは少し恥ずかしくなった。

「ありがとうございます」

 セレーナは、いつもより余計にこぼれ落ちそうな嬉しさを噛み締めながら、彼に伝えた。





──いつ、書庫に行こうかしら?

 セレーナは机の上に置いたバスケットを見ながら考える。
 今日は午前にデジレ夫人の授業があって、その後だろうか。
 いや、ソルの件で今日は騒がしいかもしれ来から、夕方にしようか。
 けれど、このクッキーを食べると夕食が困るだろう。
 そんな事を考えるのさえ、セレーナは楽しくていけない。

 けれど、時間というのはあっという間で、授業の時間になってしまった。
 セレーナは、いつも通りデジレ夫人の待っている部屋へと向かった。

「今日もソル様はお休みですか?」

 呆れた表情のデジレ夫人。
 昨日の今日なら、あの護衛の言葉が効いて来ているかと思ったが、一向に姿を現さない。
 セレーナは連れて来るべきだと腰を浮かせば、デジレ夫人がそれを手で制した。

「結構です。ソル様には私の授業はその程度ということでしょうから」

 セレーナにはいい言葉が思いつかなかった。
 公爵は再三ソルに授業を受けるように注意はしているのだ。
 だからその時はソルは大人しくするのだが、すぐに忘れて好きなことに明け暮れる。
 公爵はあまり家にいないし、公爵夫人がそれを容認している為、改善しない。
 公爵は何度もそれではダメだと公爵夫人に説得いている姿をセレーナは見たが、それは一向に改善される気配はない。

「まぁ、今日は好都合ですので」

 デジレ夫人はそう言って、荷物をまとめ始めた。
 セレーナは、彼女が怒って帰ってしまうのかと慌てたが、デジレ夫人はセレーナに「あなたも支度をして来なさい」と言った。

「本日は外で授業を行います」

 初めての課外授業となった。





「先程、耳にしましたが、ソル様は騎士になると? 」

 どこに向かうのか分からない馬車の中でデジレ夫人がセレーナに問いかけた。
 お出かけ用の服にしかえたセレーナは、大きな花帽を手で押さえながら頷いた。

「孤児を守るためにと言っていました」
「公爵家で受け入れたという子どものことですか」
「はい。彼のような子がたくさんいると聞いて、どうにかしたいようです」

 太陽のようなソルらしい考えだとセレーナは思った。
 だから、ソルは色んな人に好かれる。
 彼女の正義感は尊いものだから。

「ですが、それもあなたも同じなのでは? 」

 俯きかけていたセレーナにデジレ夫人が言った。
 セレーナは瞬時にその言葉が理解できなくて、呆けた顔でデジレ夫人を見つめる。

「どうにかできるものならしたいという顔をしていますよ」

 そう言われて、セレーナは思わず自分の顔に触れた。
 表情があまり変わらない方だとセレーナは思っていた。
 デジレ夫人も無闇に感情を表すべきではないと言っていたし、セレーナはそれができていると思っていたのだが──

「何かをするには知る必要があります」

 デジレ夫人は困惑するセレーナを厳しい目で見つめた。

「想像ならいくらでもできるでしょう。口で言うのも同様です。ですが、見識を広げ理解した上で想像し、口にするものはそう簡単にできるものではありません」

 セレーナはこれが授業であることを思い出し、真剣にその言葉に耳を傾ける。
 一言して逃してはいけない気がした。

「そのために世界を広げなさい。あなたが考えれるように」

 すると、走っていた馬車が止まった。

「では、授業を始めましょう」

 デジレ夫人はそう言って、馬車の扉を開けた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

剣士に扮した男爵令嬢は、幽居の公子の自由を願う

石月 和花
恋愛
 両親が亡くなって男爵家を叔父に乗っ取られた令嬢のアンナは、騎士だった父から受けた手解きのお陰で、剣を手に取り冒険者として日銭を稼ぎながら弟を育てていた。  そんなある日、ひょんな事から訳ありそうな冒険者ルーフェスと知り合ったのだった。  アンナは、いつも自分の事を助けてくれるルーフェスに、段々と心が惹かれていったが、彼女にはその想いを素直に認められなかった。  何故ならアンナの目標は、叔父に乗っ取られた男爵位を取り返して身分を回復し、弟に爵位を継がせる事だったから。この願いが叶うと、冒険者のルーフェスとは会えなくなるのだ。  貴族の身分を取り戻したい気持ちと、冒険者としてルーフェスの隣に居たい気持ちの間で悩み葛藤するそんな中で、アンナはルーフェスの重大な秘密を知ってしまうのであった…… ## ファンタジー小説大賞にエントリーしています。気に入って頂けましたら、応援よろしくお願いします! ## この話は、別タイトルで小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...