太陽になれない月は暗闇の公爵を照らす

しーしび

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3章 暗闇と月

3−6

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いつも読んで下さりありがとうございます。
しーしびと申します。
はじめに、3-5で魔法や魔力の内容が、他の話の記述と異なっていた為、一部変更しました。
手探りで設定を作っていますので、拙い部分は多々あると思いますが、何卒ご容赦ください。
どうぞ、最後までお付き合いくだされば幸いです。
━━━━━━━━━━━━━


 そして、次の日、セレーナはいつもより早めに目が覚めた。
 だが、あまり眠れてない。
 あまりにも醜い自分が嫌だったが、今日が楽しみな自分もいて──
 そうグルグル考えながら浅い眠りを繰り返し、いつの間にか朝になっていた。

 ただ、あれはただの噂話。
 嘘が混じっていることだって十分しているセレーナ。

──エレンから直接言われたわけじゃないもの

 だからと言って、あの楽しい時間が消えるわけではない。

『お月様』

 エレンはそう言ってくれた。
 あれがお世辞でも、嘘でもないとセレーナは分かっている。
 ただ、エレンがセレーにくれた言葉はどれも煌めいていて、セレーナの心を一瞬で晴れやかにする。

 だから、これ以上は考えるのをやめよう。
 せっかく、楽しみな時間ができたのに、余計な事で汚したくない。

 いつも考え込むセレーナにしては珍しい事だったが、その方がいいと判断した。
 一晩考え込んでいたが、考えてもどうしようないことはある。

 セレーナは気持ちを切り替えて起き上がる。
 寝不足なんて今のセレーナにはなんの問題にもならない。
 10歳になり、新しい生活がスタートした気分のセレーナ。
 今日のセレーナ担当の侍女も「おめでとうございます」とにこやかに言ってくれて、セレーナの気分はさらに上がった。

 着替え終わると、すぐに部屋を飛び出した。
 とは言っても、デジレ夫人の指導が身についているので、いつもより少し早い程度。
 右往左往している使用人達の事は目に入らなかった。

 厨房に行くと、料理長が待ってましたとばかりに現れた。
 彼は周りを見渡すと、セレーナを厨房から連れ出し、廊下の隅に連れて行く。

「お嬢様、お約束したものです」

 彼はセレーナにも持ちやすい小さなバスケットを差し出す。
 中身が気になって、セレーナが少しだけ蓋を開けると、クッキーと言っても色とりどりにデコレーションされていて、まるで宝石箱のようだった。
 ジャム入りに、飴のようなものが流し込んであるもの、色の付いた生地を組み合わせて模様になっているものに、上に絵が描いてあるものもあった。
 形も全て違っていて、いつもお皿に乗って出てくる上品なスイーツ達とはまた違うときめきがある。
 セレーナはこれが隙間時間で作ったものには見えない。

──あ

 そしてセレーナは気づいた。
 三日月の形と、ケーキを模した形のクッキー。
 ケーキには『10』の数字が書いてあり、セレーナは思わず料理長を見上げる。

「おめでとうございます」

 料理長は後頭部をかきながら、はにかんで言った。
 セレーナも少しむず痒くなる。
 バレていたのかと、セレーナは少し恥ずかしくなった。

「ありがとうございます」

 セレーナは、いつもより余計にこぼれ落ちそうな嬉しさを噛み締めながら、彼に伝えた。





──いつ、書庫に行こうかしら?

 セレーナは机の上に置いたバスケットを見ながら考える。
 今日は午前にデジレ夫人の授業があって、その後だろうか。
 いや、ソルの件で今日は騒がしいかもしれ来から、夕方にしようか。
 けれど、このクッキーを食べると夕食が困るだろう。
 そんな事を考えるのさえ、セレーナは楽しくていけない。

 けれど、時間というのはあっという間で、授業の時間になってしまった。
 セレーナは、いつも通りデジレ夫人の待っている部屋へと向かった。

「今日もソル様はお休みですか?」

 呆れた表情のデジレ夫人。
 昨日の今日なら、あの護衛の言葉が効いて来ているかと思ったが、一向に姿を現さない。
 セレーナは連れて来るべきだと腰を浮かせば、デジレ夫人がそれを手で制した。

「結構です。ソル様には私の授業はその程度ということでしょうから」

 セレーナにはいい言葉が思いつかなかった。
 公爵は再三ソルに授業を受けるように注意はしているのだ。
 だからその時はソルは大人しくするのだが、すぐに忘れて好きなことに明け暮れる。
 公爵はあまり家にいないし、公爵夫人がそれを容認している為、改善しない。
 公爵は何度もそれではダメだと公爵夫人に説得いている姿をセレーナは見たが、それは一向に改善される気配はない。

「まぁ、今日は好都合ですので」

 デジレ夫人はそう言って、荷物をまとめ始めた。
 セレーナは、彼女が怒って帰ってしまうのかと慌てたが、デジレ夫人はセレーナに「あなたも支度をして来なさい」と言った。

「本日は外で授業を行います」

 初めての課外授業となった。





「先程、耳にしましたが、ソル様は騎士になると? 」

 どこに向かうのか分からない馬車の中でデジレ夫人がセレーナに問いかけた。
 お出かけ用の服にしかえたセレーナは、大きな花帽を手で押さえながら頷いた。

「孤児を守るためにと言っていました」
「公爵家で受け入れたという子どものことですか」
「はい。彼のような子がたくさんいると聞いて、どうにかしたいようです」

 太陽のようなソルらしい考えだとセレーナは思った。
 だから、ソルは色んな人に好かれる。
 彼女の正義感は尊いものだから。

「ですが、それもあなたも同じなのでは? 」

 俯きかけていたセレーナにデジレ夫人が言った。
 セレーナは瞬時にその言葉が理解できなくて、呆けた顔でデジレ夫人を見つめる。

「どうにかできるものならしたいという顔をしていますよ」

 そう言われて、セレーナは思わず自分の顔に触れた。
 表情があまり変わらない方だとセレーナは思っていた。
 デジレ夫人も無闇に感情を表すべきではないと言っていたし、セレーナはそれができていると思っていたのだが──

「何かをするには知る必要があります」

 デジレ夫人は困惑するセレーナを厳しい目で見つめた。

「想像ならいくらでもできるでしょう。口で言うのも同様です。ですが、見識を広げ理解した上で想像し、口にするものはそう簡単にできるものではありません」

 セレーナはこれが授業であることを思い出し、真剣にその言葉に耳を傾ける。
 一言して逃してはいけない気がした。

「そのために世界を広げなさい。あなたが考えれるように」

 すると、走っていた馬車が止まった。

「では、授業を始めましょう」

 デジレ夫人はそう言って、馬車の扉を開けた。
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