27 / 75
第二章 エンドレスサマー
第二章12 〈アルファベット部隊〉
しおりを挟む────バァン!!
けたたましい音と共にタロが店に突入する。
仕方なしにタロを追いかけて俺も突入する。
だがタロよ……ハンドサインを何も決めてないのにやった俺も悪いけど、何となく雰囲気で分かるじゃん?
せっかく敵に見つかって無いのに音立てて突入するか?
隠密行動が台無しだよ。
「セルジオー! 出てこーい!」
夜中に突入して来た侵入者が、そんな風に呼んだって出て来るわけないだろ!
これで出てきたら、余程のバカかただのバカだよ。
「こんな時間に何者だ!? 営業時間外なのがわからないのか!?」
あ、セルジオ出て来た……余程のバカかただのバカだ。
「ジーとトミーとかいう雑魚をモヤに送り込んだのはお前だな?」
「はて? 何のことやら……」
「とぼけたって無駄ですよ。アンタが雇って寄越したチンピラなら玄関脇でグッスリ寝てんぞ」
「チ……役立たずめ……だがまぁいい。奴らなど所詮は捨て駒。他にもまだ駒ならあるんだからな!! 皆の者……出合え出合え!」
時代劇かよ。
さすがファンタジー版越後屋だな。
セルジオの掛け声と共に奥の部屋からゾロゾロと用心棒やチンピラみたいなのがたくさん出て来た。
前に来た時にいた美人秘書っぽい人もいる。
あの美人秘書さんも護衛かなんかだったのか。
「くくく……バカな侵入者め、この人数を相手に出来るかな?」
「ここに侵入者がいるって事はGの奴失敗したのか? セルジオ様に拾ってもらいGの位まで与えられたと言うのに……」
なんだなんだ?
ジーってGだったの? 名前じゃなかったんだ。
て事はここにいる奴らは残りのアルファベットか!?
序列はどっちが上なんだろ?
Aかな? それともZかな?
AからZまでのセルジオの私設部隊ってとこか?
「ユウタ、オイラがやっていい?」
「いや……ここは俺がやる。サトゥルさんの恨みを晴らしてあげたいからね。……てか名前を呼ぶんじゃねーよ!」
カララララ────。
神剣エクスカリバルを鞘から抜く……なんだかすごく久しぶりに抜く気がする。
すると刀身に刻まれている字がぼんやりと光っているように見えた。
〈Si Vis Pacem, Para Bellum〉
前は読めなかったのに今はスキル【言語理解】のおかげでちゃんと意味が判る。
〈汝平和を欲さば、戦への備えをせよ〉
つまり平和でいたければ、戦う準備をしておけって事か……深い……深いが残念ながら今から戦うところなんだよな。
まあ、平和でいたければ、戦う事も必要って事にしておいて、肝に銘じておくとしよう。
さて……、敵さんはどう動くかな?
「オイオイ、Wよ……やっこさんこの人数とヤルつもりだぜ?」
「ふふ……そうねT。ボウヤは自分が英雄か何かと勘違いしているみたいね」
「AからFはGの仇でも討ってやったらどうだ?」
「チッ……Jの野郎、調子に乗りやがって」
いやいやいやいや、全く分からん!
とりあえず美人秘書風のお姉さんがWって事と、序列がZに向かうほど高いって事しか分からん!
JだのTだのまどろっこしい。
ただ外で転がってるGより序列が上の奴が、え~とABCDEFG……WXYZだから19人。
20人近くいるってことか……まあ何とかなるっしょ。
「あの~……もう面倒なんで全員で一気に来てください」
「ほう? 面白い事を言う奴だな」
「Z!」
「お望み通り全員でやってやるよ」
「お前たち万が一取り逃がすような事があったら、わかっているな?」
「わかってるさオヤッサン。お前ら、やるぞ」
Zと呼ばれる奴の一言で全員が戦闘態勢に入った。
「タロ。セルジオを絶対逃すなよ」
「タロ頭巾に失敗はないぞ」
「よし、行くぞ」
「散!」
……本当にこの狼は……何が「散!」だよ。
タロに一呼吸遅れて、俺も敵に突っ込んだ。
「な!? 奴ら消えたぞ!?」
「各自索敵!」
「ぐわっ!?」
「ぬわぁ!」
「な……何が起こっておるんだ。私の最強の私設部隊が……」
「ユウタに一方的に蹂躙されてるんだぞ」
「ヒッ……」
「動いちゃダメだぞ。動いたら電撃でビリビリさせちゃうぞ」
タロに「散!」って言われた後、とりあえず近くにいる奴から峰打ちで倒してゆく。
ジョブスキル【剣を奏でる者】のお陰で、Gを除いたアルファベット部隊も難なく倒せてしまう。
ハッキリ言って弱い。
神様チートのお陰で俺が強いのか、単にアルファベット部隊が弱いだけなのかは分からないが、一人で楽勝で制圧出来そうだ。
神様、またまたサンキューです!
すると脳裏にまたもやサムズアップする神様が浮かんだ気がするが、きっと気のせいだろう。
自分がこの世界の人間でどれくらい強いのか分からないが、アルファベット部隊はアッサリと全員気絶させる事に成功した。
「ふう……一先ずこれで静かになるな」
「ユウタ、中々の動きだったぞ」
「ユウタ? さっきから引っかかっていたが、なるほどユウタか。あの時の生意気な小僧本人が乗り込んでくるとは……」
どうやらセルジオに正体がバレたようだ。
「お前たち、この儂にこんな事をしてタダで済むと思っておるのか?」
「アンタこそ、卑怯にもサトゥルさんに嫌がらせしやがって……俺を怒らせるとどうなるのか分かってるのか?」
「クク……お前のような新米冒険者を怒らせたからと言って何が出来るのだ」
「アンタのお粗末な私設部隊を一人で制圧するくらいは楽勝だったけど?」
「く……私のバックには貴族の中でも有力なお方が付いているんだぞ!? お前達はそのお方も敵に回した事になるのがいいのか!?」
「上等上等……本当にそんな有力なお方がバックについてるんなら、俺の周りの人間に嫌がらせなんてせずに、直接俺を狙いに来いや」
そう言って俺はエクスカリバルをセルジオの首元に突き付けた。
「ひ、ひぃぃぃ」
実際に傷つけるつもりはないけど、これくらいの脅しをかけておかないと、この手の奴は反省しないからね。
「わかったのか? 次はオイラが喉元に噛みついちゃうぞ」
「わ、わかった。この件からは手を引く……もうモヤの換金所には絶対手出ししたりしない……だから命だけは……」
ま、こんなところかな。
「せいぜい今の言葉を忘れない事だね。じゃあタロ、帰るか」
「だな~。夜じゃなけりゃヤキメン食ってから帰りたいとこだけどな」
「また今度買ってやるって」
「約束だぞ」
「ま、待ってくれ!」
帰ろうとしたらセルジオに呼び止められた。
「なに?」
「ずっと気になってたんだが、その連れの生き物は何なんだ!?」
そりゃそうか。
知らないセルジオからしたら、頭巾を被って人間の言葉を話して、二足歩行する獣っぽい生き物としか分からないもんな。
「正義の味方タロ頭巾さ」
こうしてサトゥルさんに対する嫌がらせをしていたセルジオの成敗は成功した。
あとはエンドレスサマーに戻ってサトゥルさんに事の顚末を話して終了だな。
帰りがけに玄関脇で気絶しているGとトミーの拘束を解いてから帰るのも忘れない。
「────と、いう事でもう大丈夫です。俺の不用意な一言で本っ当にご迷惑をお掛けしました」
俺は頭が砂浜にめり込むくらいの土下座をサトゥルさんにしていた。
「そんなっ……頭を上げて下さい。こういう商売をしていたら少なからずトラブルは付いて回るので……それにこんな素敵な場所が村の近くにあるなんて思いもよりませんでしたよ」
「こんな場所で良ければいつでも遊びに来てください」
「そうよ! せっかく仲良くなれたんだしね」
「そうだな。サトゥルならいつでも歓迎だぜ」
『またのご来訪を心よりお待ちしております』
俺とタロがいない間に、サトゥルさんはリリル達とずいぶん打ち解けたようだ。
「みんなにもオイラの活躍見せてあげたかったな~」
「はいはい」
「どうせ馬車代わりだろ!?」
「なんだと~!?」
『フフフ』
「ユウタさん、ここは本当に素敵な場所ですね。人間もモンスターも関係ない……夢のような場所ですよ! 私で良ければ何でも力になりますので、いつでも頼って下さい」
「ありがとうございます、その時はお願いしますね。じゃあ明るくなってくる頃合いだしタロ! 送っていくぞ~」
「は~い」
「ほら見ろ馬車代わりだ!」
「今回は私も着いていくからね!」
「じゃあマスコ、ジロ、すぐ戻るけど行ってきます」
「おう」
『いってらっしゃい』
この後サトゥルさんを無事にモヤに送り届けて、エンドレスサマーに戻ってから、サトゥルさんにアイテムを換金してもらっていない事に気付いたけど、夜通し動いてたから眠すぎて、俺とタロは爆睡した。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる