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第二章 エンドレスサマー
第二章13 〈ジョルジュ2〉
しおりを挟むサトゥルさんが巻き込まれてしまったセルジオ事変から早一週間。
エンドレスサマーでは、とてものんびりとした平和な時間が流れていた。
この一週間であった事は、バルおじが更衣室や酒場、宿泊施設を建てる場所の測量に来たついでに、海で泳ぎまくり、こんがりと肌を焼いていたこと。
パントさんに依頼していたリゾートパラソルが完成し、ビーチベッドやビーチチェアー周りが南国テイスト満載になったこと。
サトゥルさんのお店が再開して無事にアイテムを換金に出せた事。
少しずつではあるがダンジョン攻略に来た冒険者を海で遊ばせる事に成功し、喜んで宣伝するよと言って帰って行った事だ。
「うーん……こっちの世界に来て、初めてこんなにノンビリした時間過ごしてるかもなぁ」
ビーチチェアーに座り思いっきり伸びてから脱力する。
思い返せば、俺はダンジョンマスターになってリゾート経営してノンビリしたかったんだよな。
それなのに何かと忙しくて全然ノンビリ出来てなかったわ。
そりゃ経営者ってのは暇そうに見えて忙しいもんなんだろうけど。
とにかく今は出来るだけ長く、このノンビリした時間が続いて欲しいと思う。
「このワンコロ待ちやがれ!」
「や~だ~よ~」
「キャハハハ」
波打ち際でキッズチームが水を掛け合って遊んでいる。
うむ、仲良きことは素晴らしきかな。
『ユウタ様ドリンクをどうぞ』
「マスコありがと~」
このダンジョンのマスターコアであるマスコ。
最近では半ばメイドのようになりつつある。
そういえば、マルチナさんに頼んだマスコの新しい身体はそろそろ出来上がっている頃かな?
ジョルジュ達のスカウトの状況も知りたいし、この前はセルジオ成敗したらすぐ帰って来ちゃったし、後でアルモンティアに行ってみるか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺の名前はジョルジュ。
凄腕のスナイパーだ。
俺は今、とある奴からの依頼を受け、ダンジョンリゾートなる場所で酒場やレストランなどを出店したい奴を探している。
だが、これが中々に難航している。
そもそも俺は人とコミュニケーションをとる事が、得意な方ではないからだ。
俺が気兼ね無く話せるのなんて、家族を除いたら幼馴染み兼冒険者仲間のバンチと、パーティーの紅一点レナくらいのものだ。
まず誰に声を掛ければいいと言うんだ?
まさか憧れのアイラさんに声を掛けるわけにもいかんし……くうぅぅ、こういう時はバンチのコミュ力の高さが羨ましいぜ。
だが、あのコミュ力の高さは脳味噌まで筋肉で出来ていないと無理だろう。
恥という概念が無いんだ概念が!
しかし困った……依頼として金を受け取ってしまったせいで適当にやり過ごす事も出来ない。
とりあえずもう一つの依頼のダンジョンリゾートを噂して宣伝しておくとするか……となると、やはり冒険者ギルドで噂するのがいちばん手っ取り早いだろうな。
冒険者ギルドに入ると、かなりの人数が併設された酒場にいるのが見えた。
今の話題の中心は、何者かにアイテム換金所が襲撃された事だ。
あのいけ好かないタヌキジジイの私設部隊が全滅させられたらしい……金銭面での被害は無いらしいが、あの威張りくさった連中がやられたとなると飯が美味い。
店主の証言じゃ、おかしな頭巾を被った男と二足歩行する変な生き物に襲われたと言っているらしいが、まさかな……。
さすがに奴らも、何もないのに人を襲ったりはしないだろう。
だがいつまでも、その話題で盛り上がられては困る。
エンドレスサマーという海型リゾートがダンジョンにあるらしいと話題にしてもらわねば……さて、どこから攻めようか。
よし! 先ずはあそこのテーブルで呑んでるトマス達から声を掛けるとするか……ゴクリ。
「あ……あの……」
「ジョルジュ~!!」
俺がトマス達に声を掛けようとした瞬間に、例の脳味噌まで筋肉で出来てる男バンチの、脳天気な声が聞こえて来た。
「なんだバンチよ……俺はスカウト活動中だと言うのに」
「それそれスカウト! ヤキメン屋台のアイラさんに話したら興味持ってくれてさ~」
なん……だと?
アイラさんがバンチ如きの話に興味を?
いや、興味を持ったのはエンドレスサマーになんだろうが、俺が後でアイラさんを誘おうと思っていたのに、この筋肉ダルマめ!!
お前の頭の上に※チェリルの実を置いて、俺の弓で射抜けるか挑戦してやろうか!?
だが、一応は話を聞いておく。
(※チェリルの実→サクランボ)
「昼飯にと思ってヤキメン買いに行ったんだけどさ」
それで? それがなぜアイラさんをスカウトする事に繋がる?
「商人ギルドに、アイラさんの屋台の行列が、通行の妨げになってるって苦情が多く来てて、問題になってるんだって」
通行の邪魔だと!?
アイラさんの店の行列は、マナーが良い事で有名なんだぞ!
俺達古参のアイラーがキッチリ指導してきたお陰で、それこそ通行の邪魔にならない様、キッチリと並んで端に寄っているではないか!
「で、店の場所を移動しなくちゃイケナイらしくて困っててさ」
商人ギルドの奴等め!
普段何の役にも立ってないのだから、そんな問題お前達で解決しろってんだ。
アイラさんの店が無くなったら、何人のアイラーが涙に暮れると思ってんだ!
バンチ、お前もお前だ!
そんな話を聞いたなら、その足で商人ギルドに乗り込むくらいやってみせろ!
お前も散々アイラさんのヤキメンにお世話になってきただろーが!
「それで、ダメ元で誘ってみたら、詳しく話聞いてみたいって」
……でかしたバンチ!!
俺はお前が出来る子ってのはガキの頃から知ってるんだ!
本来なら、俺がアイラさんを誘いたかったが仕方ない。
早速アイラさんの店に行こう。
「ユウタ、次いつ来るかな? 連絡手段を考えておくべきだったね~」
奴みたいなタイプは、呼んでもいないのにそのうちヒョッコリ現れるだろう。
アルモンティアに用事があるって言ってたからな。
それよりも早く! アイラさんの店へ!
「ジョルジュは本当にアイラさんが好きなんだね」
「バ……馬鹿野郎、おま……バン……突然何言っ……この野郎! そんなんじゃねえ。俺はヤキメンが大好物なだけだ!!」
「ヤキメンの店なら他にもあるじゃない」
「俺はあの屋台の味じゃなきゃヤキメンって認めてないの!」
「そんなに大差ないと思うけどなぁ」
「バ、バカなこと言ってないで行くぞオラァ!」
「……素直じゃないんだから」
こうして俺とバンチは、冒険者ギルドを出てアイラさんの屋台に向かう。
途中でエンドレスサマーの宣伝活動に勤しんでいたレナとも合流してパーティー勢揃いだ。
アイラさんも、女のレナがいた方が幾分か話しやすいだろうし好都合だ。
「やっぱり並んでるわね~。どうする? もう少し暇な時間帯まで待つか並ぶか」
「並ぶに決まってんだろう!」
「でも行列があるうちは、ゆっくり話せないよ?」
「それもそうね~」
「くっ……」
仕方なく屋台の行列がなくなる頃合いまで、近くのカフェに入って時間を潰すことにした。
「ここなら、屋台も見えるし丁度良いわね」
「そうだね。小腹が減ったから何か食べようっと」
この筋肉の塊は、さっきヤキメン屋台に並んだって言ってなかったか!?
俺とレナはアイスティー、バンチはランチプレートを頼み屋台の行列が少なくなるのを待つ。
バンチがランチプレートを軽く平らげて、追加のフルーツジュースを飲み干した頃、やっと行列に並ぶ人数が少なくなり、そろそろアイラさんの所に行こうかと話していた時だった。
ヤキメン屋台の行列の最後尾に、何やら見覚えのある奴らが並んだのが見えた。
何とも言えない平和ボケした平面顔の男と、まるんとした犬っころ。
ここからは確認出来ないが、きっとピクシーの女の子もいるに違いない。
何で奴らが並んでいやがる……これでは俺が中心となってアイラさんと話が出来ないじゃないか。
何とかして追い払……。
「あ! あれユウタ達じゃない!?」
「本当だ。都合良く来てくれたねー」
……無念。
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