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第三章
第三章3 〈領都へ〉
しおりを挟む「どうなっても知らんからな! 覚悟しておけ!」
そう言い捨ててエンドレスサマーを出ていくのは、レイモンド伯爵家執事のセバスだ。
護衛の騎士二人が、何故か俺に深々と頭を下げてからセバスの後を追う。
この二人もやはり騎士団銀の翼の団員なのだろうか?
それに、ふむ……やはり騎士達はセバスの態度に思うところがありそうだ。
外にいた団長のティルトンもそうだった。
「おとといきやがれだぞ! バーロー!!」
そう言って海の家カモメの厨房から、勝手に持って来た塩を撒いているのはタロだ。
本当にコイツのこういう知識はどこから得ているんだろう?
それともこの世界にも、日本と同じで塩を撒く文化でもあるのだろうか。
そんな事を考えていると、厨房の塩を勝手に使われた事に気付いたアイラさんが、タロのグレイプニールの首輪を掴んで連行して行った。
その姿に、なんだかトゲトゲしくなっていた気持ちが少しだけ癒される。
『ユウタ様』
マスコがとても心配した声のトーンで話しかけて来た。
マスコは人形の身体に憑依しているので、表情からは感情を察する事が出来ない。
そもそもマスターコアに感情があるのか? という話になるかもしれないが、俺は今までマスコと接して来て、他のダンジョンのマスターコアはどうだか分からないが、少なくともマスコには感情があると思っている。
「帰るのが遅くなってごめんな」
『いえ……それよりどうされるおつもりですか? 素直に言う事を聞く義務はないと思いますが?』
そうなんだよね、そうなんだけどレイモンド伯爵なる人物の思惑がわからないんだよね。
わからない以上、最初から敵対するわけにもいかない。
「まあ領内の人間から徴税するってのは分からない話でもないしな。税率は無茶苦茶だけど……だから真意を確かめに行くよ」
『やはりレイモンド伯爵に会われると?』
「うん。伯爵がどんな人かは知らないけど、上手く立ち回ればもしかしたら後ろ盾になってくれるかもしれないしね」
『わかりました。留守の間は私とジロで責任を持ってエンドレスサマーを守ります』
「ありがとう。ジョルジュやギル達にも頼っていいんだからな」
『はい』
俺はその後、レナに会いにロッジ・メルビンに向かうが、海の家カモメの横を通りかかった時、勝手に使った塩の弁償として掃除をさせられているタロが見えた。
……本当にアイツはフェンリルなんだろうか?
泣きながら床にブラシかけてるよ。
「こんちは~」
挨拶をしながら扉を開けると、奥からこのロッジ・メルビンの亭主バンチがすぐ出てきてくれた。
あいも変わらずの筋肉だ。
「レナに聞いたけど大変だったみたいだね」
「本当にどうなることやら……」
「徴税されるとなると、ウチも無関係じゃないからね……まあ税を払うのは当然の義務なんだけどね」
「いやいや、バンチやアイラさん達に迷惑かからないよう何とかしてみますよ。それでレナっている?」
「台所で怒りながらお茶してる」
バンチと一緒にロッジ・メルビンの台所に入ると、いつもは冷静なレナが茶菓子をやけ食いしていた。
「あ、ユウタ! さっきのアイツなんなの! 偉いのはレイモンド伯爵で執事じゃないでしょっての!」
「まあまあ」
バンチと二人でレナを宥める。
レナも初めはレイモンド伯爵の使者と聞いて、内心ビビっていたらしいのだが、セバスの態度が悪過ぎて俺同様にキレていたらしい。
「ユウタもよく手を出さずに我慢したわよ」
「いや……さすがに手を出そうとは思わんかったけど? それよりレイモンド伯爵ってどんな人なの?」
俺にはこの世界のそう言った知識が全くない。
だからこういう時は知っている人に教えてもらうしかない。
「私もレイモンド伯爵領の人間だけど、領都に住んだ事ないし、貴族とは関わりがほぼないからね……噂で聞く程度の事しか分からないわよ?」
そう前置きをしてからレナが説明してくれた。
「国王の懐刀と呼ばれているバルディリス侯爵っていう人がいるんだけど、レイモンド伯爵はバルディリス侯爵の右腕と呼ばれてる人なんだよね……」
国王の懐刀の右腕か……なんだかややこしいけど、かなりの権力者だって事だよな?
そんな人の領土にエンドレスサマーはあったのか。
「うーん……よその貴族の領土より税率も低くしてくれてたり、領民からも慕われてる人なんだけどなぁ」
「あそっか。バンチのが詳しいわよね。貴族だし」
───ふぁ!?
バンチが貴族!?
「やめてよレナ。貴族って言っても爵位も無い貧乏貴族の三男だし」
貧乏貴族の長男以外が、家を出て冒険者になったりするのは漫画やアニメと同じなんだな。
「ジョルジュもそうよね?」
「ジョルジュの家は男爵家だからね。ウチとは違うよ」
───ふぁ~!?
ジョルジュまで貴族だと!?
「でも幼馴染なんでしょ?」
「まあ親同士が仲良かったからね。てか、今そんな話はどうだっていいじゃない」
いつか掘り下げて聞いてやろう。
「だからさっきレナに聞いた時は信じられなかったよ」
バンチとレナに礼を言い、ロッジ・メルビンを後にする。
バンチはレイモンド伯爵の世間の評判と、今日の書状のイメージがどうにも重ならないらしい。
……ふむ、これはよく調べてから事に当たったほうが良さそうだ。
って言っても、レイモンド伯爵の住む領都に行かない事には何も始まらない。
レナとバンチの話では、領都はエンドレスサマーから、西に300km程行った場所にあるらしい。
商業都市国家グローブとの国境が、領都からなら割と近いらしく、今回の事が、事なきを得たら寄ってみようかなんて考えてもいる。
歩きながら横目で海の家カモメを見ると、タロはまだ掃除させられている。
なんとも笑える光景だ。
それから俺は【思念通信】を使える者一人一人に連絡をしてゆく。
ジロには、俺不在時の守護を。
ジュルジュ達冒険者パーティーには警備を。
トミーにはジロの指示に従えと。
ナイトウルフ達には引き続き送迎と、常にグロックと何頭かはエンドレスサマーに残って、警備をするジュルジュ達の補佐を頼んでおく。
そしてマスコには全体の統括と、万が一騎士団が強制接収に攻めて来た場合、マスコの判断で入り口を塞げと言ってある。
あのレイモンド伯爵からの書状が、俺をダンジョンから引き離すのが目的かもしれないから、常に警戒を怠るなと指示しておく。
俺がいない間に、騎士団に攻め込まれてジロが負けてしまいましたじゃお粗末すぎて話にならないからだ。
そしてリリルとタロとギルには、俺と一緒にレイモンド伯爵の住む領都に向かってもらう事にした。
何故ギルも一緒なのかというと、なんとギルは領都の生まれらしく土地勘があるというのだ。
これは渡りに船とばかりに同行を頼むと、親分の為なら喜んでと二つ返事で引き受けくれた。
だが親分はヤメロ。
そして【思念通信】の使えないアイラさんとマルチナさんにはマスコとジロに従う様に言っておいた。
「じゃあ後は頼む。何かあったらすぐ連絡してくれ」
ジロ達に留守を任せ、フルサイズ化したタロに俺とリリルとギルが乗り込む。
『よし……では行くぞ。飛ばすからしっかり捕まっておれ』
そう言って凄まじい加速をしてタロは走り出す。
目指すはレイモンド伯爵領領都グライシングだ。
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