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第2章
廃墟のカフェ
しおりを挟む「ねえ、森の洋館にオープンしたカフェって知ってる?」
高校のクラスメイトたちにさりげなく尋ねてみたものの、返ってくるのは疑わしげな反応ばかりだった。
「森の洋館? って、『お化け屋敷』のこと?」
「あんな所にお店なんて出せないでしょ」
「昼間でも暗いよね、あそこ」
「幽霊でも見たんじゃないの?」
予想はしていたが、ひどい評判だった。
暗い森の奥に佇む、どう見ても廃墟としか思えないあのカフェ。
誰か一人でもあの店のことを知っている人はいないかと期待したのだけれど、そもそもあそこに店が存在すること自体信じてもらえない。
どころか、「もしかして今年の肝試しの前振り?」と、あらぬ誤解まで招く始末だ。
季節はもうじき梅雨を迎える。
梅雨が明けて本格的な夏になれば、あの森では毎年のように肝試し大会が開かれる。
まもりさんの店があるあの洋館も、そのエリア内にあるはずだった。
(本当に、どうしてあんな場所に店を開いたんだろう?)
あんなひと気のない所で店をやっていたって、気づいてくれる人はほとんどいない。
肝試しのシーズンになれば少しは人も訪れるようにはなるけれど、恐怖体験を期待してやってきた人が果たしてそこでお茶をする気になるかどうか。
むしろアピールの仕方を間違えれば気味の悪い店として認知されてしまいそうだ。
あの店の存在を知ってから二週間。
私はほぼ毎日のようにあの場所を訪れている。
けれど、カフェを利用するためにやってくるお客さんの姿は今まで一度も見たことがない。
私があそこに顔を見せるたびに、まもりさんはいつも紅茶とケーキをご馳走してくれる。
その壮絶な味は相変わらずだけれど、「これは僕が勝手にやっているだけだから」と笑って、彼は一向に私からお金を取ろうとしない。
あれでは採算が合わないどころの話じゃない。
まごうことなき赤字で、店が潰れるのも時間の問題だ。
せめて口コミを広げて力になれればと思ったのだけれど、この調子ではかえって悪い噂を流してしまうだけかもしれない。
(こんなとき、いのりちゃんがいてくれたらなぁ)
思わず彼女の優しさに縋ってしまいそうになる。
小学校の頃からの幼馴染であるいのりちゃん。
彼女は私が困っていると、いつも助け船を出してくれた。
(でも、今は……)
彼女とは二週間前にケンカをしてから、一度も口を聞いていない。
「はあ……」
どんよりとした気分を払拭できないまま、放課後がやってくる。
学校を出たその足で、私はいつものようにあの店へと向かった。
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