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第2章
待ち人
しおりを挟む暗い森の奥にあるボロボロの洋館。
そこでひっそりとカフェを営むまもりさん。
彼は、いのりちゃんと同じ『瀬良』という名字を持っていた。
もしかしたら親戚同士なんじゃないか――なんて考えたこともあったけれど、本人に確認してみたところ、きっぱりと否定されてしまった。
――たまたま同じだけだよ。少なくとも僕の知る限りでは、この街に親戚はいないからね。
すでに実家を出て独り立ちしている彼は、あの洋館の二階に住んでいるらしい。
もともと他の街からやってきたという彼は、この辺りには家族も友人もいないのだという。
寂しくないんですか、と私が聞くと、彼は寂しくないと微笑して答えた。
その儚げな笑みが、私にはどこか寂しげに見えた。
――僕は、人を待っているからね。
故郷を出て、知らない街でひっそりと店を開けているまもりさん。
そんな彼は、誰かの訪れを待っているという。
(お客さんは来ないし、知り合いもいないのに……一体誰を待っているんだろう?)
待ち人の相手については、私はまだ尋ねたことがない。
彼が「待っている」と発言したのは、ほとんど独り言のようだった。
だから私は、彼がその話を自分からしてくれるまでは触れないようにしようと思った。
というよりも、安易に触れてはいけないような気がしたのだ。
彼が店を開けている理由が本当にその人のためだというのなら、その人はきっと、まもりさんにとってとても大切な人だから。
(なんだか、悔しいなあ)
私はまもりさんに毎日会いに行っているのに。
なかなか顔を見せないその人はきっと、私の何倍も、何十倍も、まもりさんにとって大きな存在なのだ。
〇
森の入り口までやってきたとき、ちょうど森の奥から一人の男の子が飛び出してきた。
危うくぶつかりそうになって咄嗟に避けると、男の子は私には目もくれずに走り去っていく。
一瞬だけ見えた横顔には見覚えがあった。
以前、まもりさんに人形の修理を頼みに来たあの男の子だ。
満面の笑みを浮かべた男の子の腕には、ドールハウスのようなものが抱かれている。
私は嫌な予感がした。
(まさか)
今回は、あのドールハウスを直してくれと頼みに来たのだろうか。
だとすれば今頃、魔法を使ったまもりさんはその代償を受けている可能性がある。
「まもりさん……!」
私は弾かれたようにその場から駆け出して、彼の店のドアを乱暴に開けた。
「まもりさん! 大丈夫――」
「だから何度も言ってるだろう!!」
いきなり、怒号が飛んできた。
反射的に、私はびくりと身体を強張らせる。
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