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第2章
珍しい客
しおりを挟む私の声を遮ったそれは、男の人のものだった。
まもりさんのものではない、どすの効いた声。
見ると、店内には珍しく人がいた。
たった一人だけだけれど、まもりさんと向かい合うようにして立っている。
背の高い人だった。
こちらに背を向けているため、その顔は見えない。
けれどその出で立ちから、まもりさんと同じくらいの年代の男性だと予想がつく。
淡い色のシャツにパンツ姿のそのシルエットは、細いながらもほどよい筋肉が付いているのがわかる。
肌は日焼けして、長く伸びた髪は明るい。
ピアスなどのアクセサリーをじゃらじゃら付けているところを見ると、『チャラ男』なんて言葉が似合いそうだ。
この店に、お客さんがいる?
いや。
(もしかして、まもりさんが待っている相手って)
こんな場所に、何の関係もない普通の人がやってくるとは思えない。
ということはもしかすると、この人が例のまもりさんの待っていた相手なのかもしれない。
(待っていた相手って、男の人だったの……?)
てっきり女の人だとばかり思っていたのだけれど、まもりさんにとっての大切な人というのは、まさかのまさかで同性の人、なのか?
「まもり、さん……?」
私は恐る恐る声を掛けた。
途端、まもりさんはハッとしたような目をこちらに向けた。
どうやら私が店に入ってきたことを知らなかったようだ。
そんな彼の反応に釣られるようにして、今度は向かいの男性もこちらに顔を向ける。
首だけを動かして「ああん?」と威圧的な声を漏らしながら、斜めに私を睨みつける。
眉間にシワを寄せたその顔は、私の予想に反して整っていた。
チャラそうな印象はやはり拭えないけれど、彫りの深いその顔立ちはどう見ても『イケメン』の類に入る。
そして何より、恐い。
顔が整っているからこそ出せる威圧感、とでも言えばいいだろうか。
私は震えそうになる足を必死に踏ん張る。
すると、
「お、お前。なんでここに」
私を睨みつけていた男性の目が、はっと見開かれた。
「えっ?」
私はぽかんとしたまま彼を見つめ返す。
彼のその反応は、まるで私を見知っているかのようだった。
けれど私は、彼の顔に見覚えがない。
「流星。絵馬ちゃんのこと、知ってるの?」
まもりさんが聞いた。
流星と呼ばれたその男性は、
「いや……。何でもねえ。人違いだ」
と、歯切れの悪い声を漏らす。
私はその様子を不思議に思いながらも、改めて店の中へと足を踏み入れた。
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