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第2章
大事な人
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二人きりの車内は静かだった。
お互いに何も話さず、道案内の機械的な声だけが、私の家へと的確に指示を出してくれる。
私は窓の外を流れていく黒い景色を見つめながら、先ほどの二人のやり取りを思い出していた。
――まだ、待ってるんだろ?
あの言動からして、流星さんはきっと、まもりさんが誰かを待っていることを知っている。
そして、その相手が誰なのかも、きっと。
(どんな人なんだろう……)
聞いてみたい、と思った。
流星さんに聞けば、まもりさんが誰を、何のために待っているのかもわかるかもしれない。
けれど、それではまもりさんのプライベートを勝手に詮索することになる。
本人が未だに話してくれない情報を、第三者から探ろうとするのは失礼な気もする。
やっぱり、まもりさんが自分から話してくれるのを待つしかないか――と、小さく溜息を吐いたとき。
「お前、まもりのことは大事か?」
と、それまで沈黙を続けていた流星さんが唐突に口を開いた。
「え、大事……?」
大事、という言葉の意味を計りかねた私は、少しだけ反応が遅れた。
さっき店にいたときには「好きなのか」という質問だったけれど、今回は「大事」という言葉を使っている。
ということは、今回と前回の質問とでは微妙にニュアンスが違うようだ。
「お前があいつを大事だと思うのなら、あの店にはもう二度と行くな」
「えっ?」
続けられた言葉に、私は驚きを隠せなかった。
どうして、と尋ねようとした私の声を遮るように、流星さんは再び口を開く。
「お前も、あいつの魔法を見たんだろ? あいつは困ってる人間を見たら形振り構わず魔法を使っちまう。今日だって、近所の悪ガキが母親の私物を壊しちまったから直せとか言ってきやがったんだ」
その言葉で、私は例の男の子のことを思い出した。
ちょうど、私がお店へやってきたときに入れ替わりで出ていった、あの男の子。
その腕には確かドールハウスのようなものが抱かれていたと思うが、やはり今回もまた、まもりさんを頼ってきたらしい。
「今回のは簡単に直せるやつだったから、俺が修理してやったけどな。普段はまもりが魔法で直してやってるらしい。あんなのが入り浸ってるんじゃ、まもりの身体が持たねーだろ。魔法を使うのはタダじゃ済まねーんだから」
「それは……」
私も、同じことを考えていた。
けれど、
「でも、だからこそ、何かあったときのためにも、まもりさんのそばには誰かがいた方がいいんじゃないですか? 私、何の役にも立てないかもしれませんけど……でも、まもりさんが本当に危険な魔法を使おうとしていたら、そのときは私だって止めに入りますし」
「わかってねーなあ」
いつにも増して不機嫌な声が、車内に響いた。
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