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第2章
繋がり
しおりを挟む「え。従兄弟って、あの……親戚同士ってことですか? じゃあ、まもりさんの待っている人っていうのは、流星さんのことじゃなかったんですか?」
そんな私の反応を見て、まもりさんは少しだけ驚いたような顔をしていたけれど、すぐにいつもの穏やかな笑顔に戻り、
「僕がわざわざ待っていなくても、流星は勝手にやってくるよ。こう見えて彼はおせっかいだからね。僕の代わりに、掃除や洗濯をしにここまで来てくれるんだ」
「なんだよ。嫌ならもう来てやんねーぞ」
相変わらず恐い声で言う流星さん。
けれど、本気で怒っているわけではないということが私にも段々とわかってきた。
彼の言葉の端々には、確かな思いやりの心が窺える。
彼はまもりさんのことを大事にしている。
けれどそれは恋愛的なものではなくて、あくまでも家族や友人に向けるような愛情からくるもののようだ。
(な、なんだ。よかった)
思わずホッとする。
って、なんで私がホッとする必要があるんだろう?
〇
それからまもりさんは、流星さんについて色んなことを教えてくれた。
流星さんとは昔から仲が良かったこと。
家はここから少し遠いこと。
ご両親のお店は海水浴場にある海の家であること。
そこで食べる焼きそばが格別に美味しいこと、などなど。
まもりさんが話している間、流星さんはほとんど口を開かなかった。
ぶすっとした表情のまま、部屋のあちこちを不満そうに眺めている。
そうして時折、私の持ってきた高校のカバンに目を留める。
一体何を見ているのだろう――と私も釣られて目をやると、そこに見えたのは例のストラップだった。
いのりちゃんからもらった、テディベアのストラップ。
流星さんの恐い顔からはイメージしにくいけれど、意外とこういう可愛いものが好きだったりするんだろうか?
……なんて言ったら怒られそうなので、口にはしないけれど。
そのうち、時計の針は夜の七時を回った。
辺りは段々と暗くなって、テーブルにはキャンドルの火が灯される。
そろそろ帰らなければ、と私が席を立つと、
「俺が送る。車を出すからちょっと待ってろ」
と、まさかの流星さんが言った。
「え。送る……?」
「なんだよ。嫌なのか?」
じろりと睨まれて、私は慌てて頭を振る。
「僕も一緒に行くよ」
まもりさんが腰を上げながら言った。
その声に私はホッと胸を撫で下ろす。
送ってくれるのはありがたいのだけれど、さすがに流星さんと二人きりで車に乗るのはちょっと緊張する。
しかし、
「お前は店番してろ。閉店まではまだ時間があるんだろ」
そう流星さんが言って、まもりさんは苦笑した。
そういえば、お店が閉まるのは確か二十時だったはず。
あまりにもお客さんが入って来ないので忘れそうになるけれど、ここはただの家ではなく、立派なカフェなのだ。
私のために営業時間を短縮させるわけにはいかない。
けれどまもりさんは、
「ちょっとくらい早めに閉めたって大丈夫だよ。どうせ開けていても、お客さんが来る可能性は限りなくゼロに近いからね」
そう、当たり前のことのように言う。
「だめだ。閉店時間まではここにいろ」
有無を言わさぬ声で流星さんが制する。
そして、
「まだ、『待ってる』んだろ?」
何かを含んだような声で、そう付け足した。
途端、まもりさんの穏やかな表情がわずかに強張ったように、私の目には映った。
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