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第2章
選んだ道
しおりを挟む「あいつは困ってる奴を見ると放っとけねーんだよ。あのガキんちょだけじゃねえ。俺やお前のためにだって、あいつは魔法を使っちまうんだ。だから、誰かと一緒にいるだけであいつは必ず危険な目に遭う。あいつが平穏無事に暮らしていくためには、一人にさせておくのが一番なんだよ。それに――」
溜まっていたものを吐き出すようにして、流星さんは言う。
「あいつはな、今まで何度も人の記憶を魔法で消してきたんだ。友達も、知り合いも、みんなあいつのことを忘れちまうようにな。それがどれだけ覚悟のいることだか、お前にわかるか?」
その言葉で、私は先日のことを思い出す。
まもりさんに、私の記憶を消されそうになったときのことだ。
――僕と一緒にいると、君はきっと、僕のために何度も泣いてしまうだろう?
私が泣いてしまうから。
私を泣かせないために、まもりさんは私の記憶を消そうとした。
そして、
「……今まで、何度も?」
流星さんの言うことが本当なら、まもりさんはそれを何度も繰り返しているのだ。
友達も、知り合いもみんな、まもりさんのことを忘れてしまう。
「そんな……どうして。それじゃあまもりさんは、いつもひとりぼっちになってしまうじゃないですか。そんなの、絶対に寂しいはずなのに、どうして」
「あいつの性格を見てりゃわかるだろ? 周りに心配をかけないようにするためだよ。こうでもしなきゃ、お前みたいに、あいつを心配する奴がいくらでも増えちまう。かといって、あいつに魔法を使うな、なんて言っても無駄だろうし。だから――」
言いながら、流星さんはどこか後悔するような苦い顔をした。
「……だから、俺も同意したんだ。魔法で記憶を消すって。そうでもしなきゃ、あいつはきっと生きていけねえ。……今まで、どれだけ寂しい思いをさせたかもわからねえ。けど、俺にはそれしか方法が見つからなかったんだ。あんなひと気のねえ森に住まわせてるのも、俺の指示だ。客なんて来なくていい。ただ、あいつが生きていてくれさえすれば……」
悔しげに語る流星さんの横顔を見ながら、私は何も言い返せなかった。
流星さんはそんな風に考えていたんだ――と、まるで予想していなかった彼の思いにただ戸惑うばかりだった。
私がいると、まもりさんが魔法を使ってしまうかもしれない。
そう考えたとき、真っ先に思い出されたのは、私が初めてまもりさんと会った日のことだった。
あの雨の日に、大事なストラップを失くして泣いていた私。
それを助けてくれたのはまさに、まもりさんの魔法による力だった。
「あいつのそばに誰かがいると、あいつはいつか死ぬかもしれねえ。わかったなら、もう関わるな」
そこから何も話せないまま、やがて車は私の家へとたどり着いた。
静寂の中で、私たちは別れた。
「……話してくれて、ありがとうございました」
小さく礼を述べた私の声は、走り去る車の音にかき消された。
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