あばらやカフェの魔法使い

紫音みけ🐾書籍発売中

文字の大きさ
26 / 50
第2章

穢れた心

しおりを挟む
 

 思いがけない言葉だった。
 一体どういう意味だろう?

「穢れている……って、どういうことですか?」

 思わず聞き返していた。

「文字通りの意味だよ。僕の心は穢れている。だからこそ、僕の魔法は未熟なんだ」

「未熟? って、何言ってるんですか。まもりさんの魔法は、全然失敗したりしないじゃないですか」

 私は反論した。

 彼の魔法は完璧だった。
 私のストラップを探してくれたときも、あの小さな男の子の人形を直したときも。
 まもりさんのおかげでストラップは見つかったし、人形の腕も元通りになった。

 けれどまもりさんはどこか暗い顔をしたまま、

「ごめんね。実は、僕は君に一つ嘘を吐いたんだ」

「嘘?」

 どくん、と心臓が跳ねた。

 まもりさんが嘘を吐いた?
 いつ、何を?

 思わず身構える私に、彼は寂しそうな目を向けて言った。

「前に僕は、魔法はタダじゃないと言ったね。魔法を使えばその分だけ、何かしらの代償があると。けれど本当は……魔法を使うときに、僕の心が『穢れて』さえいなければ、報いを受けることなんてないんだ」

「え……?」

 心が穢れてさえいなければ、報いを受けることはない。

「どういう、ことですか? それってつまり……魔法がちゃんと成功すれば、報いを受けなくて済むってことですか?」

 魔法の代償を受けなくて済む方法が、あるかもしれない。

 今までまもりさんが魔法による報いを受けてきたのは、彼の言うように、彼の魔法が『未熟』だったから……なのか?

「そう。僕が報いを受けてしまうのは、それだけ僕の心が穢れていて未熟だからなんだよ」

 『未熟』というのがどの程度のことをいうのかはわからない。
 けれど、『穢れている』という言葉には、私は納得がいかなかった。

 心が穢れている人というのは、自分のことばかり考えて、私利私欲のために他人を蔑ろにするような人のことではないだろうか。

「……何かの、間違いじゃないですか? まもりさんの心が穢れているだなんて、そんな風には思えません。だってまもりさんは、いつも自分のためじゃなくて、人のために魔法を使っているじゃないですか」

 魔法を使う人の心が穢れていたら、その報いを受けてしまう――それが本当なら、なぜ、まもりさんは報いを受けてしまうのだろう?

 彼は常に自分のことよりも、他人のことを優先する。
 魔法を使うときだって、彼は自分のためではなく人のために尽くしているのだ。
 そんな思いやりのある人の心が穢れているだなんて、私には到底思えない。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

没落貴族か修道女、どちらか選べというのなら

藤田菜
キャラ文芸
愛する息子のテオが連れてきた婚約者は、私の苛立つことばかりする。あの娘の何から何まで気に入らない。けれど夫もテオもあの娘に騙されて、まるで私が悪者扱い──何もかも全て、あの娘が悪いのに。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...