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第2章
待つ人
しおりを挟むまもりさんが、そこに立っていた。
一瞬、幻かと思った。
私がぼうっと突っ立っていると、彼はやっとこちらに気づいたようで、
「絵馬ちゃん」
と、いつになく掠れた声で言った。
数日ぶりに見た彼の顔は、どことなく青白い。
ほんのりと垂れ下がった目尻からは、どこか疲れたような印象を受ける。
「まもりさん。どうしたんですか、そんな所で」
私が駆け寄ると、彼は疲れた表情のまま、ふっと頬を緩ませた。
「君のことを待ってたんだよ」
「え?」
いきなり冗談のようなことを言われて、私は面食らった。
「最近来てくれないから、寂しくてね。ここで待っていれば会えるかなと思って」
「……そんな」
たとえ冗談でも、嬉しいと思った。
まもりさんがそんなことを言ってくれるなんて。
でも、彼がずっと待っている相手は、私ではない――それを思い出して、私は浮かれそうになっていた思考を慌てて振り払う。
彼が待っているのは私ではなく、私の知らない、彼にとって特別な人なのだ。
こうして珍しく森の外に立っているのもきっと、たまたま外の空気を吸いに出てきただけだろう。
けれどまもりさんはそんなことをおくびにも出さず、まるで本当に私のことを待ってくれていたかのように話を続けた。
「本当に寂しかったんだよ。少し前までは毎日ここへ寄ってくれていたのに、いきなり来なくなっちゃったから」
「す、すみません……」
思わず謝ると、まもりさんは穏やかな笑みを浮かべたままゆっくりと頭を振る。
「君が謝ることじゃないよ。だって君は……僕のためを思って、ここに来なかったんでしょ?」
「え?」
どうやらその件については、すでに流星さんから聞き出していたらしい。
あの日、車の中で私と流星さんがどんな会話をしたのかはすべて筒抜けのようだった。
「謝るのは僕の方だよ。君に余計な気を遣わせてしまったからね」
「そんな。私は別に」
まもりさんが謝ることなんてない。私はただ、怖くなって逃げ出しただけだ。
私のせいで、彼が死んでしまうかもしれない――それが怖くて、私は自らこの店を離れようとした。
それはただ私が楽になるためだけの、勝手な行動だった。
けれどまもりさんは、まるですべての責任が自分の方にあったかのように言う。
「本当に、自分が情けないよ。僕の魔法が未熟でなければ……僕の心が『穢れて』さえいなければ、最初からこんな風に君を不安にさせることもなかったのに」
「え……?」
彼の口から漏れたその言葉の意味を、私はすぐに理解することができなかった。
(心が、穢れている?)
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