あばらやカフェの魔法使い

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第4章

夏の日の思い出

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 その声の主は、さっきの呻き声の人のものだった。
 そのことに私はすぐに気づいたけれど、あまりの恐怖に涙が止まらなくなって、なかなか顔を上げることができなかった。

「ほんと、毎年この洋館の前でチビどもが泣くんだよなあ」

 呻き声の人は、そう不機嫌な声で言った。

「確かにそうだね。この洋館、そんなに怖いのかな?」

 優しげな声は不思議そうに返す。

 そのやり取りを聞く限り、どうやらこの二人はお互いに知り合いのようだった。
 彼らの会話を耳にしながら、幼い私は少しずつ心を落ち着かせていった。

 涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔を、手の甲で乱暴に拭う。
 そうして再び顔を上げようとした、ちょうどそのとき。

「って、おい。やめろ、まもりっ……!」

 それまで不機嫌そうだった声が突如、焦りの色を見せた。

 一体どうしたのだろう、と不思議に思って私が目を開けると、

「……ふわぁ……」

 その目に飛び込んできた光景に、思わず溜め息が漏れた。

 暗い森の中で、一際不気味な雰囲気を放っていた古い洋館。
 それがいつのまにか、色とりどりの明るい電飾に包まれていた。

 まるでクリスマスのイルミネーションのようだった。
 明るい光に包まれたそこは、ともすればどこか遠い国の、幻想的なカフェのようにも見える。
 その楽しげな雰囲気に、私は目を輝かせていた。

「おまっ……。こんなことで簡単に魔法を使ってんじゃねーよ!」

 その声に気づいて私が隣を見ると、それまで声だけでしか認識できなかった男の子の姿が目に入った。

 さっきの中性的な男の子よりも、少しだけ背の高い、やはり中学生くらいの男の子。
 髪の色は明るく、唇にピアスを付けている。

 なんだか変わった格好の子だな――と考えていると。

 その子の隣で優しげな笑みを浮かべていた男の子は、急に胸の辺りを押さえて苦しみ始めたのだった。

「? おにいちゃん、どうしたの?」

 私は心配になって、その子に問いかけた。

 前のめりになって胸を押さえるその姿は、とてもつらそうだった。
 何か、堪え難い激痛に耐えている――そんな仕草だった。

「ど、どうしよう。えっと、こういうときは、えっと……」

 私はぐるぐると頭を働かせた後、男の子の胸にそっと手を当てて、

「痛いの痛いの、とんでけーっ!」

 自分の母親がそうしていたように、呪文を唱えてみせた。

 子ども騙しのおまじない。

 ピアスを付けた男の子は「そんなんで治るわけねーだろ!」と怒っていたけれど、

「……あれ?」

 それまで胸を押さえていた男の子は、ふっと顔を上げて、ゆっくりと身体を起こした。

「……痛みが、おさまった」
「はあッ!? ……まじでっ?」

 ピアスの男の子は納得がいかないようだったけれど、優しい男の子は静かにこちらを見下ろして、

「君は、一体……」

 不思議そうな目で、私のことを見つめていたのだった。

 
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