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第4章
優しいあの人
しおりを挟むそうだ。
やっと思い出した。
ずっと胸の奥でモヤモヤとしていたもの。
思い出せなかった記憶。
それは……――あの人との思い出だった。
九年前にこの場所で、私はあの人と出会った。
彼は私の幼馴染である、いのりちゃんのお兄さんだったのだ。
名前は、瀬良まもり。
一緒にいたピアスの男の子は、従兄弟の流星さんだ。
そうだ。
どうして忘れていたんだろう?
あの肝試しのことがあってから、私はいのりちゃんの家へ遊びに行く度に、何度もまもりさんと会っていた。
そして、彼のあの優しい笑顔に何度も助けられてきた。
たまにタイミングが良ければ、流星さんとも遊ぶ機会があった。
そうして段々と仲良くなって、いつからか、流星さんの実家のお店にもお邪魔するようになったのだ。
あんなに、楽しい思い出をたくさん作ってきたのに。
私は、どうして忘れてしまったのだろう?
その理由が思い出せない。
やはり今回もまた、まもりさんが魔法を使ったのだろうか。
彼はいつも、誰かのために魔法を使う。
こうして私が彼のことを忘れてしまったのも、彼の優しさのせいなのかもしれない――。
「……雨、止まないね」
そんな声がすぐ近くから聞こえて、ハッと我に返った。
見ると、私の隣にはいつのまにか、いのりちゃんがいた。
いつもの長いポニーテール。
その姿は『いま現在』のもの――私と同じ、高校一年生のいのりちゃんだった。
気がつくと私は、現実の世界に戻っていた。
さっきまでのあれは、白昼夢か何かだったのだろうか?
念のためにスマホを確認してみると、日付もちゃんと元に戻っている。
そして、
(あ……)
それまで何気なく見ていたホーム画面の背景。
そこに、見覚えのある写真が設定されていた。
私と、いのりちゃんと、流星さんと、そして、まもりさん。
四人が笑顔で寄り添い、それぞれポーズを決めている。
これは、以前流星さんのお店の前で撮ったものだ。
そうだ。
彼らとの思い出の証は、周りを見渡せばいくらでもあったのだ。
一緒に撮った写真、メッセージのやり取り、誕生日に貰った物、贈った物……。
それらはすぐ目の前にあったはずなのに、なぜ今まで気づかなかったのだろう。
いや。
見えるはずのモノが、見えていなかったのだ。
まもりさんの魔法によって、大切な記憶に蓋をしてしまっていたから。
「絵馬ちゃん、どうかしたの?」
いのりちゃんの声で、私は再び我に返った。
改めて周囲を見渡すと、先程いのりちゃんが言った通り、今は雨が降っていた。
夕立ちだった。
外にいると濡れてしまうので、今は一時的に例の洋館に避難している。
森の中は相変わらず薄暗いけれど、高い木々の隙間から見える曇り空は、まだ太陽の光を残していた。
このまま日が落ちて、雨が止んだら、今年もまた肝試し大会が開かれる。
「ねえ、いのりちゃん。今年は……まもりさんは来ないの?」
確認の意味も込めて、私はそう尋ねてみた。
私は今、まもりさんの存在を確かに思い出した。
けれど、いのりちゃんは?
ここ最近の彼女の反応を見ていると、とてもまもりさんのことを覚えているとは思えない。
「? まもり? って、誰のこと?」
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