恋をしたから終わりにしよう

夏目流羽

文字の大きさ
18 / 22
SS

なんでもない夜の話2

しおりを挟む
湊人とのセックスの後は、そのまま飛んでしまいそうな意識を繋ぎ止めるために煙草をふかす。
何度繰り返しても……いや、繰り返すたびに快感が増していくようなセックスなんて初めてだ
それが不思議で、でも気持ち良くて
自分が“男”とのセックスにハマるなんて考えてもみなかった。

隣にはくったりとシーツに埋もれて眠っている湊人
泣いて喘いで俺に縋り付いて乱れる湊人は、疲れ果てるのかセックスの後いつも少し眠る。
でもそれは本当に少しの間で、ほんのわずかな刺激にも目を覚ましてしまうからーーーできるだけ音を立てずに眺めるようにしている
だって、ちょっと汗を拭ったり頰を撫でたりするだけで起きるんだ。いつも眠りが浅いのかな。
起きたらすぐにシャワーを浴びて帰ろうとするから、最近ではどれだけ起こさずにいられるかゲームのようになっている

静かな部屋でぼんやりと煙草をふかしながら湊人を眺めるーーーその時間が、なんとなく好きで。
まだ上気したままの頰や目尻に残る涙
汗に濡れた艶やかな髪に触れたい衝動を、じわりと押し込めているのに

「ん……」

紅い唇から微かな声が零れて綺麗な形の眉が少し寄った。

あぁ、起きる

触ってもいないのに、なんで


「……っ、悠……」
「うん」
「ごめん、また寝ちゃった」
「別にいいよ」
「シャワー、借りていい?」

ーーーダメって言ったら、どうするんだろう

なんて、言うわけないけど。

「いちいち聞かなくていいって」
「そういうわけにはいかないよ」

よいしょと上半身を起こしてから、ふとこちらを見た湊人が苦笑混じりに囁く

「煙草、やめなよ」

それもう何回聞いたかな

「やだ」
「身体に悪いよ」
「でも色々役に立つ」
「ふっ、なんの役に立つの」

眠気を覚ましたり、余計な言動を押し込めたり、口寂しさを紛らわしてくれる……なんて、くすくす笑っている湊人にはわからないだろうから言わない

「湊人は煙草嫌いだね。匂い?煙?」
「別に嫌いじゃないけど、悠の身体が心配なんだよ」

せめて、本数減らしたら?と俺のくわえた煙草を自然に取って灰皿に押し付けた指先
そのまま小さく笑ってベッドを降りようとするから、咄嗟に腕を掴んで引き寄せた。
しっとりと馴染む素肌の心地良さに目を細め、少し開いた唇を柔く食んだらーーーもう、止められない
深く、深く。溶け合うように絡ませる舌
もっともっと、このまま、ずっと

「は、ぁ……も、悠……」 
「ん、湊人、口開けて」
「だ、んぅ、ふ……っ」

繰り返すたびに快感が増していく感覚
それは、セックスだけじゃないみたいだ
唇を押し付けて、舌を掬って、吐息も唾液もなにもかも溶け合わせるような湊人とのキス
それはいつだって

「甘い……」
「はぁ……ん、なに……?」
「なんでこんなに甘いんだろう」

濡れ光るふっくらとした唇を舐めれば、やっぱり甘く感じる
砂糖っていうより、蜜って感じの甘さかな
“美味しい”よりも“クセになる”ような。

「煙草のせいじゃない?」
「煙草?」
「うん。喫煙者は非喫煙者とのキスを甘く感じるらしいよ」
「……へぇ」

でも、湊人以外とのキスで甘いと感じたことはないけど。多分、非喫煙者もいたはずだけど。
……まぁ、いいけど。

「じゃあ非喫煙者は喫煙者とのキスをどう感じるの?」
「うーん。苦い、かな」
「……そうなんだ」

それは、知らなかった
俺は湊人とのキスを甘く感じているのに、湊人にとっては“苦い”キスなんだ
それは、なんか、嫌だな……

「ふふっ、そんな顔しないでよ」
「……どんな顔」
「苦くても嫌いじゃないよ」
「…………」
「クセになる苦さ、かな」

だからもう少しだけキスしよう?

そう囁いた湊人がそっと唇を重ねてきたから、俺は目を瞑ってそれを受け入れた。
角度を変え何度も唇を食んで、舌を絡めては離しまた絡める
歯を食い込ませたくなるような柔らかい唇も
器用に動く熱い舌も、欲情を煽る吐息も
合間に見つめ合うその濡れた瞳や俺の肌をなぞる指先だってぜんぶぜんぶ、甘いのに

「湊人、やっぱり苦い?」
「……うん。苦い」
「……そう」
「苦いよ」

もう一度呟いた湊人の瞳から、ぽろりとこぼれた綺麗な雫
頰を伝うそれを啄ばんだ唇がじわりと熱をもつ
押し付けるように唇を合わせてから見つめれば、見つめ返す瞳が少し寂しげに揺れるから

いつか湊人も、甘く感じてくれればいいのに……なんて

くだらない想いをかき消すように頰を撫で、目尻をなぞり、艶やかな髪に指を絡めながらキスをした。

そんな、なんでもない夜の話ーーー
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

死の予言をされたから、君に愛を誓う。

ぽぽ
BL
「ねえ、俺のこと好きになった?」 八雲啓太(ヤクモケイタ)はごく平凡な大学二年生。 容姿も平凡。成績も平凡であれば、運動能力も平凡、おまけに家庭環境も平凡。 そんな平凡ばかりの啓太の人生を変える出来事が訪れる。 友人の付き添いで訪れた占い館で占い師から「もう一つの世界があなたを呼んでいるわ」とつげられ、初めは何をいっているのかわからなかったが、その日に死を予兆させる出来事ばかり起きた。 もしかしてもう一つの世界って死の世界ってこと? そんなことを思った啓太は死ぬ前にやりたいことをリストアップした。その中の一番願い。 『5年以上片思いしていた相手、水瀬勇気(ミナセユウキ)と大恋愛をする。』 勇気に告白するも、結果はあっけない「ごめん」で終わってしまう。 理由は、忘れられない元恋人の存在だった。 それでも啓太は諦めきれず死の運命が迫るなか、啓太は人生最初で最後の恋にすべてを賭ける。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

処理中です...