恋をしたから終わりにしよう

夏目流羽

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なんでもない夜の話3

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「悠ってさ、好きな人にはどんな感じなの?」

本当に何気なく、素朴な疑問のように問いかけられたそれ
服を脱ごうとした手を止めて見やると、ベッドに腰掛けた湊人が小さく首を傾げていた。

「どんな……って?」
「んー、たとえば案外甘えたになるとか、逆にちょっと素っ気ないとか、ベタベタするとか、淡白とか」
「えぇ……なにそれ、わかんないんだけど。好きなヤツとかいないし」
「なに言ってんの。彼女いるだろ」

呆れたように笑われて、ふと気付く
そうか、普通は『好きな人=彼女』なのか
そう思い直し考えてみるけれど、やっぱりわからない

「……普通、かな」
「普通?」
「ん、普通」

それ以外言いようがなくて繰り返したら、湊人が腕時計を外しながら小さく笑った。

「いいな、普通」

なにが?と聞こうとした時に、サイドデスクへ腕時計を置いた湊人の左耳が目に入って
さりげなく光るその青い石はタンザナイトだと、なんとなく覚えてしまった。
湊人が、恋人から貰ったものだと

「湊人はどうなの」
「俺?俺は……どうかな、多分」
「やっぱりいいや」

興味ないし、と付け加えた言葉は余計だった。
咄嗟に言い直そうとしたけれど、それよりも先に湊人が笑いながらシャツを脱ぎ出したからタイミングを逃してしまう

「あははっ、ほんと素直だな」
「……素直じゃないよ、俺」
「ふふ、悠ってさ、好きなものあるの?」
「俺をなんだと思ってんの」

あるよ、犬とか、こどもとか……と思いつくままに並べながら服を脱いでベッドに上がると、同じく上半身裸になった湊人が体勢を変えて向き合った。
あまり日焼けしていない身体はしっかりと鍛えられているのにどこかしなやかで
女性的なわけではないのに、どう見ても男なのにーーー綺麗

「ふふ」
「……なに」
「いつか結婚して、こどもができて、犬を飼ったら……悠は幸せになれるね」

好きなものに囲まれた、普通の幸せ
そう呟いて浮かべたそれは、笑顔のつもり?
だとしたら全然できてないよ
その顔も嫌いじゃないけど、少し胸が苦しくなる

「好きなものなら、他にもいっぱいあるよ」
「へぇ、たとえば?」
「ハンバーグ、唐揚げ、ウインナーとか……あと玉子焼きも」
「ふはっ、なるほど。あとは?」
「あとは……」

伸ばした指先でそっと顎をすくい、唇を重ねる
厚く柔らかな湊人の唇はいつも気持ちが良くてたまらない
何度も角度を変えて押し付けながら舌を差し込めば、甘い吐息とともに熱い舌が絡まって
味わうような深いキスを繰り返すたび、体温がじわりと上がっていく
しばらくそうして溶け合ってから離した唇は、その瞬間からまた触れたくてどうしようもないんだってこと……きっと湊人は知らない

「ふっ、はぁ……」
「湊人」
「……キスが、好きなんだな」

そのひとことで、湊人が見えない線を引いたことくらい俺にもわかる
その理由はわからないし、わかりたくもないけれど

「俺も好きだよ」

そう囁いて笑う湊人はきっと狡い男で

「セックスも好き」

そう返す俺も、きっと狡い

微笑む唇が俺の名を呼ぶのを合図に、さっきよりも深く口付けてその身体をシーツの波に沈み込ませた。

そんな、なんでもない夜の話ーーー
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