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獲物にされた猟師ちゃん
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男がスッと手を持ち上げると、巨大な熊がぐぐっと持ち上がった。枯れ葉や草が巨体の下をくるくると回っている。風が渦巻いているようだ。
「……うわ……すごい……!」
「そうか? 風が操れる奴なら普通だろ?」
早苗は本気で感動していた。この世界に魔法があるらしい事は知っていた彼女だが、実際に自分の目で見るのは初めてなのである。
「普通なの? 初めて見た……」
「ここら辺の人間は使える奴が多いぜ。お前東の方の出身か? 東の者は炎の使い手は多いが風はほとんど居ないらしいもんな」
「え? 東?」
東と言われて日本を思い浮かべるが、日本人が炎の魔法を使えるなんて聞いた事が無い。この世界の東の事だろう。
「……何だ、違うのか」
「……やー……ちょっと、事情があって……」
恩人とは言え、会ったばかりの人間に本当の事を話すのは抵抗があった。
以前異世界について人に聞いた時、頭のおかしい奴を見るような顔をされた事が堪えていたのと、勇気を出して打ち明け受け入れてもらえたと思ったら欺かれていたりと、今まで言っても良い事が無かったからだ。
「…………ふーん……」
言葉を濁す早苗を何処か疑わしげにジーッと見下ろした男は、唐突に話題を変える。
「お前名前は? 俺はアウインだ」
「私は、い……早苗です」
飯田早苗とフルネームで言いかけたが、また姓を名と勘違いされると思い当たり、早苗とだけ答えた。アウインと名乗った男も名字は言わなかったし、特に不自然でも無いだろう。
「サナエ……不思議な響きの名前だな」
「よく言われます」
「よしサナエ、お前の宿屋まで岩熊を運んでやる。礼は期待しとくぜ?」
「そこは、礼は要らねえぜ、じゃ無いんですか?」
幾らくらいだろうか、と多少不安も感じつつ、自分はそこそこ金持ちらしいから何とかなるだろうと、早苗はお気楽に考えたのであった。
驚いた事に、なんと早苗達は1日とかからず宿屋のあるアムータスに到着した。
風魔法使いのアウインが岩熊マウアに乗せて一緒に運んでくれたのだ。風魔法とは便利な物なのだな、と感心していた早苗だが、街に降り立った時にその認識が間違っていた事を知る。
何故か周囲が騒然となり野次馬で人だかりが出来たのだ。驚いた早苗がアウインに疑問を投げ掛ける。
「あれ? ここら辺では風魔法は珍しく無いんじゃなかったんですか?」
「あー……」
「何言ってるんだ! ちょっと物浮かしたりするのとは違うんだぞ?! こんなデカイ岩熊に人と自分乗せて高く飛ぶなんざ、普通出来やしねぇよ!」
知らないおじさんが興奮気味に割り込んで来た。
「えええ!! そ、そうなんですか?!」
「そうだっけか? 操るのはそんなに難しくねーんだけどなあ」
飄々と答えるアウインにまたおじさんが噛み付く。
「操る難易度の問題じゃないわ! それだけの重さの物を持ち上げて操るにゃあ相当な魔力量がいるだろう?! お前さん一体何もんだ?!」
「……いや何者って言われてもなあ……別に怪しいもんじゃねーぜ?」
おじさんの勢いを気にする事無く答えるアウイン。
「怪しいとか怪しくねーとかじゃあねーんだよ!」
「あ、あんた落ち着きなよ! 何で喧嘩腰になってんだい!」
「俺ぁ、昔魔導師を目指してたんでー!!」
おじさんは、わあっ!と泣き出してしまう。どうやら、憧れの凄い人物に出会った心境で興奮してしまったらしい。
「俺も魔導師じゃねぇよ」
そう言うと、アウインは岩熊を浮かせて歩き始めた。畏怖の表情をした人々が避けて道が出来て行く。マイナスの感情を持たなかったのは、あのおじさんくらいだったようだ。
「サナエ、行くぜ」
「……あっ、うん」
早苗達は、街の人々に遠巻きに見られながら歩く。
「で、お前の泊まってる宿屋ってのは何処なんだ?」
「此処をずっと真っ直ぐ行った所の、金緑の角兎亭です」
「金緑のだあ?!」
「……うわ……すごい……!」
「そうか? 風が操れる奴なら普通だろ?」
早苗は本気で感動していた。この世界に魔法があるらしい事は知っていた彼女だが、実際に自分の目で見るのは初めてなのである。
「普通なの? 初めて見た……」
「ここら辺の人間は使える奴が多いぜ。お前東の方の出身か? 東の者は炎の使い手は多いが風はほとんど居ないらしいもんな」
「え? 東?」
東と言われて日本を思い浮かべるが、日本人が炎の魔法を使えるなんて聞いた事が無い。この世界の東の事だろう。
「……何だ、違うのか」
「……やー……ちょっと、事情があって……」
恩人とは言え、会ったばかりの人間に本当の事を話すのは抵抗があった。
以前異世界について人に聞いた時、頭のおかしい奴を見るような顔をされた事が堪えていたのと、勇気を出して打ち明け受け入れてもらえたと思ったら欺かれていたりと、今まで言っても良い事が無かったからだ。
「…………ふーん……」
言葉を濁す早苗を何処か疑わしげにジーッと見下ろした男は、唐突に話題を変える。
「お前名前は? 俺はアウインだ」
「私は、い……早苗です」
飯田早苗とフルネームで言いかけたが、また姓を名と勘違いされると思い当たり、早苗とだけ答えた。アウインと名乗った男も名字は言わなかったし、特に不自然でも無いだろう。
「サナエ……不思議な響きの名前だな」
「よく言われます」
「よしサナエ、お前の宿屋まで岩熊を運んでやる。礼は期待しとくぜ?」
「そこは、礼は要らねえぜ、じゃ無いんですか?」
幾らくらいだろうか、と多少不安も感じつつ、自分はそこそこ金持ちらしいから何とかなるだろうと、早苗はお気楽に考えたのであった。
驚いた事に、なんと早苗達は1日とかからず宿屋のあるアムータスに到着した。
風魔法使いのアウインが岩熊マウアに乗せて一緒に運んでくれたのだ。風魔法とは便利な物なのだな、と感心していた早苗だが、街に降り立った時にその認識が間違っていた事を知る。
何故か周囲が騒然となり野次馬で人だかりが出来たのだ。驚いた早苗がアウインに疑問を投げ掛ける。
「あれ? ここら辺では風魔法は珍しく無いんじゃなかったんですか?」
「あー……」
「何言ってるんだ! ちょっと物浮かしたりするのとは違うんだぞ?! こんなデカイ岩熊に人と自分乗せて高く飛ぶなんざ、普通出来やしねぇよ!」
知らないおじさんが興奮気味に割り込んで来た。
「えええ!! そ、そうなんですか?!」
「そうだっけか? 操るのはそんなに難しくねーんだけどなあ」
飄々と答えるアウインにまたおじさんが噛み付く。
「操る難易度の問題じゃないわ! それだけの重さの物を持ち上げて操るにゃあ相当な魔力量がいるだろう?! お前さん一体何もんだ?!」
「……いや何者って言われてもなあ……別に怪しいもんじゃねーぜ?」
おじさんの勢いを気にする事無く答えるアウイン。
「怪しいとか怪しくねーとかじゃあねーんだよ!」
「あ、あんた落ち着きなよ! 何で喧嘩腰になってんだい!」
「俺ぁ、昔魔導師を目指してたんでー!!」
おじさんは、わあっ!と泣き出してしまう。どうやら、憧れの凄い人物に出会った心境で興奮してしまったらしい。
「俺も魔導師じゃねぇよ」
そう言うと、アウインは岩熊を浮かせて歩き始めた。畏怖の表情をした人々が避けて道が出来て行く。マイナスの感情を持たなかったのは、あのおじさんくらいだったようだ。
「サナエ、行くぜ」
「……あっ、うん」
早苗達は、街の人々に遠巻きに見られながら歩く。
「で、お前の泊まってる宿屋ってのは何処なんだ?」
「此処をずっと真っ直ぐ行った所の、金緑の角兎亭です」
「金緑のだあ?!」
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