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獲物は反撃を開始する
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「僕ねぇ、結構日本贔屓だったんだよ」
そろそろと顔を上げると、にこっと無害そうな笑顔の彼と目が合う。
「東京には数え切れないくらい行ったし、京都とか奈良とか沖縄とか、後は広島と長崎にも行ったなぁ。懐かしい」
「……そ、そうなんですか?」
聞き覚えのある地名の数々に、つい反応してしまった。
「うん、特に広島と長崎は考え方が変わったよ。それまでアメリカ人としてはさ、原爆は戦争終結に必要なものだったと思い込んでたけど……実際に記録を見ると……あれは、無いね……他の方法を探すべきだったと思う」
「そうなんですね……」
早苗自身の出身は広島でも長崎でも無いが、原爆の被害が酷いものだったと言うのは何となく知識としてある。アメリカ人だと言うミリウスの言葉が、少し嬉しい。
「東京ではね、秋葉原とか中野とかによく行ってたよ」
「……え?」
あれ?と思った。もしやミリウスは……
「日本のアニメや漫画が大好きだったんだ~」
そういう人だった。
「漫画を読んで日本語を覚えたんだよ」
「え、凄いですね」
「でしょ? 披露したかったなぁ、ここでは地球の言葉が話せないのが少し残念だよね」
「ふふ、そうですね」
思わず笑ってしまう。ミリウスののんびりゆったりとした口調と空気に、早苗の緊張が解れていく。
「お仕事は何をされてたんですか?」
「研究職だよ。主にウイルスの研究をしてたかな。ここに来たのが三十八の時だから、研究者としては道半ばだったけどね」
「へぇ~研究者、凄いな……」
ん?と早苗は思った。今何と言ったか。『38』……三十八と言うのは、まさか三十八歳の事だろうか。
アルが今二十四歳で、十六歳の時には既にアウインの師だった訳だから……つまり…………幾つだ?
計算の苦手な早苗は、すぐには答えが出ない。本人に聞いてみる事にした。
「……あ、あの……」
「ん? なあに?」
可愛く首を傾げられる。その顔はどう高く見積もっても大学生くらいだ。
「ミリウスさんは、お年は幾つで……?」
「年? う~ん、え~とね、多分…………」
多分……??自分の年齢に多分とは何だ。百歳過ぎの老人ならいざ知らず……そう思った早苗だが、ミリウスの口から発せられたのは突拍子も無い数字だった。
「……八百歳くらいかな?」
「は……はっぴゃ……?」
「うん、この所ちゃんと数えてないから正確には分からないけど。大体それくらいかな」
日本はそれなりに長寿な国だった気がするが、アメリカもそうだったのだろうか。早苗は真剣に悩んでしまったが、幾ら長寿だろうと八百歳まで生きた人の記録は無いだろう。そもそも外見の若さはどう説明するのだ。
「……は、八百歳とか、人魚伝説か!」
やっと有り得ない数字だと気付いた早苗は、時間差で突っ込みを入れた。
「人魚伝説! 漫画の題材になったの読んだ事あるよ! 八百比丘尼やおびくにだね!」
早苗の突っ込みにミリウスが喜ぶ。
「残念ながら人魚の肉は食べてないんだけどね~こっちに来てから魔力が発現してね? 面白いから色んな魔法やら魔法薬やらを片っ端から自分の身体で試してたらいつの間にか若返っちゃって、気が付いたら全然老けなくて八百歳?」
少し恥ずかしそうに、ミリウスは舌を出した。八百歳と言うのは本気らしい。八百歳のテヘペロか。
だが話から察するに彼の居た時代と早苗の居た時代は同じくらいかと思っていたのに、この世界に来て七百年以上経つとはどういう事なのだろうか。
「じーさん、サナエが固まってんぞ」
不思議に思っては居た。アウインが彼を『じーさん』と呼ぶのは、年齢のせいだったのだ。
「あれ~? びっくりしちゃった?」
「は、は……ちょっと……本当、なんですよね……?」
「本当だよ」
ミリウスは優しく微笑んだ。その声は真摯な響きに聞こえる。
「でもあの……ミリウスさんは何世紀生まれなんですか?」
「ん? 二十世紀かな?」
「……なのに、八百歳……?」
「不思議だよね~」
彼曰く、ここは地球のあった宇宙とは別の次元の宇宙なのだろうと言う事だった。どんなに技術が発達し、宇宙の別の銀河、いや端から端まで行ける宇宙船が出来たとしても辿り着けない場所。
「宇宙船が行けるのはこのテーブルの上だけ。でも僕達は、この椅子の上に来てしまったんだよ」
テーブルに椅子を近付けると、肘掛けがコツンとぶつかる。
「こんな風にたま~に繋がるんだろうね。でも、いつでも行き来出来るものでは無いし時間軸も同じじゃない。日本ではこう言う言葉があるよね? ……神隠し」
「神、隠し……」
そろそろと顔を上げると、にこっと無害そうな笑顔の彼と目が合う。
「東京には数え切れないくらい行ったし、京都とか奈良とか沖縄とか、後は広島と長崎にも行ったなぁ。懐かしい」
「……そ、そうなんですか?」
聞き覚えのある地名の数々に、つい反応してしまった。
「うん、特に広島と長崎は考え方が変わったよ。それまでアメリカ人としてはさ、原爆は戦争終結に必要なものだったと思い込んでたけど……実際に記録を見ると……あれは、無いね……他の方法を探すべきだったと思う」
「そうなんですね……」
早苗自身の出身は広島でも長崎でも無いが、原爆の被害が酷いものだったと言うのは何となく知識としてある。アメリカ人だと言うミリウスの言葉が、少し嬉しい。
「東京ではね、秋葉原とか中野とかによく行ってたよ」
「……え?」
あれ?と思った。もしやミリウスは……
「日本のアニメや漫画が大好きだったんだ~」
そういう人だった。
「漫画を読んで日本語を覚えたんだよ」
「え、凄いですね」
「でしょ? 披露したかったなぁ、ここでは地球の言葉が話せないのが少し残念だよね」
「ふふ、そうですね」
思わず笑ってしまう。ミリウスののんびりゆったりとした口調と空気に、早苗の緊張が解れていく。
「お仕事は何をされてたんですか?」
「研究職だよ。主にウイルスの研究をしてたかな。ここに来たのが三十八の時だから、研究者としては道半ばだったけどね」
「へぇ~研究者、凄いな……」
ん?と早苗は思った。今何と言ったか。『38』……三十八と言うのは、まさか三十八歳の事だろうか。
アルが今二十四歳で、十六歳の時には既にアウインの師だった訳だから……つまり…………幾つだ?
計算の苦手な早苗は、すぐには答えが出ない。本人に聞いてみる事にした。
「……あ、あの……」
「ん? なあに?」
可愛く首を傾げられる。その顔はどう高く見積もっても大学生くらいだ。
「ミリウスさんは、お年は幾つで……?」
「年? う~ん、え~とね、多分…………」
多分……??自分の年齢に多分とは何だ。百歳過ぎの老人ならいざ知らず……そう思った早苗だが、ミリウスの口から発せられたのは突拍子も無い数字だった。
「……八百歳くらいかな?」
「は……はっぴゃ……?」
「うん、この所ちゃんと数えてないから正確には分からないけど。大体それくらいかな」
日本はそれなりに長寿な国だった気がするが、アメリカもそうだったのだろうか。早苗は真剣に悩んでしまったが、幾ら長寿だろうと八百歳まで生きた人の記録は無いだろう。そもそも外見の若さはどう説明するのだ。
「……は、八百歳とか、人魚伝説か!」
やっと有り得ない数字だと気付いた早苗は、時間差で突っ込みを入れた。
「人魚伝説! 漫画の題材になったの読んだ事あるよ! 八百比丘尼やおびくにだね!」
早苗の突っ込みにミリウスが喜ぶ。
「残念ながら人魚の肉は食べてないんだけどね~こっちに来てから魔力が発現してね? 面白いから色んな魔法やら魔法薬やらを片っ端から自分の身体で試してたらいつの間にか若返っちゃって、気が付いたら全然老けなくて八百歳?」
少し恥ずかしそうに、ミリウスは舌を出した。八百歳と言うのは本気らしい。八百歳のテヘペロか。
だが話から察するに彼の居た時代と早苗の居た時代は同じくらいかと思っていたのに、この世界に来て七百年以上経つとはどういう事なのだろうか。
「じーさん、サナエが固まってんぞ」
不思議に思っては居た。アウインが彼を『じーさん』と呼ぶのは、年齢のせいだったのだ。
「あれ~? びっくりしちゃった?」
「は、は……ちょっと……本当、なんですよね……?」
「本当だよ」
ミリウスは優しく微笑んだ。その声は真摯な響きに聞こえる。
「でもあの……ミリウスさんは何世紀生まれなんですか?」
「ん? 二十世紀かな?」
「……なのに、八百歳……?」
「不思議だよね~」
彼曰く、ここは地球のあった宇宙とは別の次元の宇宙なのだろうと言う事だった。どんなに技術が発達し、宇宙の別の銀河、いや端から端まで行ける宇宙船が出来たとしても辿り着けない場所。
「宇宙船が行けるのはこのテーブルの上だけ。でも僕達は、この椅子の上に来てしまったんだよ」
テーブルに椅子を近付けると、肘掛けがコツンとぶつかる。
「こんな風にたま~に繋がるんだろうね。でも、いつでも行き来出来るものでは無いし時間軸も同じじゃない。日本ではこう言う言葉があるよね? ……神隠し」
「神、隠し……」
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