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君と心の奪還戦
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しおりを挟む元が熱々だったのか、幸いな事に食事はまだ温かい。
早苗はふわふわのパンケーキを嬉々として切り分けている所だ。
嬉しい事にパンケーキには、別容器に果物の砂糖煮やたっぷりのホイップクリームが添えてあった。
甘さ控え目でアッサリした冷たいクリームと甘酸っぱい果物の砂糖煮を合わせ、大きめに切り取ったホカホカのパンケーキと一緒に口いっぱい頬張った。
「ん~~っおいひいっ!!」
美味しいに決まっている。合わない筈が無いのだから。口の中が幸せだ。
「君って本当に美味しそうに食べるよね」
「違う。美味しそう、じゃなくて美味しいんだよっ」
「ははっ、そうだね」
口が甘くなって来たら腸詰め肉や野菜の煮込みを頂く。
腸詰め肉は皮がパリッとしていてレモンに似た風味が付けてあり、爽やかな味で朝にピッタリである。
アッサリ味の野菜の煮込みは、この時期の旬の野菜を使っている為か甘味が強い。甘味を胡椒でピリッと締めてあり、野菜の味なのかほんのりとした酸味も感じられる。これも寝起きでぼんやりしていてもすぐに食べられそうな一品だ。
「あ~美味しかった! 朝から食べ過ぎた~」
ぽんぽんと腹を叩く。満足そうな笑顔の早苗を、アルも微笑ましく見詰めた。
「……さて、腹ごしらえが済んだらミリウス様の部屋に行くよ? そろそろアムータスに帰るから」
「え? そうなの? あの宝石は?」
急な話に驚く。もう仕事は良いのだろうか。
「大分長居したからね。虹星石の件も終わったよ、三分の一近くこの国が買い取ってくれたし」
「え?! そうなんだ?!」
「何でも国宝にするらしいよ」
「へぇ~凄~い……あ、でもアル、身体は平気なの?」
心配した早苗が問うと、彼は艶っぽい笑みを作り近付いて来た。腰を抱いて引き寄せられる。
「もう平気だって、散々実地で証明した筈だけど……?」
「ひゃ……」
耳元で囁かれ、背中がゾクリと粟立つ。彼は早苗の頬にチュッと口付けてから続けた。
「……もう一度確かめてみる?」
「う……ちょ、もう腰とかお腹とか股関節とか痛いし……その……」
早苗の言葉に、アルは目を丸くした。そして徐々に顔を歪めて行く。
「……ごめん、無理させたね……」
アルは彼女の腰と下腹部を擦さする。そして苦渋の決断を下したようだ。
「しばらく、我慢する……っ」
絞り出すように続ける。アレを我慢するのはそんなに辛いのだろうか。
「そ、そんなに辛い? しないのって」
「…………でも、君が痛いのは嫌だから」
辛いのは否定出来ないようだが、気遣ってくれるのは嬉しい。頬が緩む。
「……しない代わりに、いっぱい触る」
「えっ?」
アルは早苗をぎゅうっと抱き締める。唇にはちゅっちゅっと口付けを始めた。
「……ん、あの、ミリウスさんの、ふっ、所に行くんじゃ……?」
「…………そうだった……はぁ……」
忘れていたらしい。彼は物凄く残念そうに溜め息をつき身体を離すと、早苗の手を引いてミリウスの部屋へ向かった。
アルは繋いだ手を離そうとしない。指を絡ませ、時々手の甲を親指で撫でられる……恥ずかしい。
「やあ、アル君サナエちゃん……お、仲良しだね~」
出迎えたミリウスは、ニ人の繋がれた手を見てにこにこ笑う。
「……口ん中が砂糖でジャリジャリする……」
アウインも居たらしい。彼は物凄く嫌そうな顔をしている。居たたまれなくなった早苗はアウインから目を逸らした。
「……いや、サナエが悪い訳じゃねーぞ? リフィーが所構わず砂糖振り撒いてるだけだかんな?」
早苗に目を逸らされたアウインがフォローしてくるが、どちらにしても恥ずかしい。
「ふふ。さて皆集まったし、どうしよう? やっぱりアウに夜連れてってもらうのが一番安全で速いかな」
「俺が疲れるがな」
ミリウスの提案にアウインが突っ込む。
「あはは、ごめんね? よし、じゃあ皆また変装しよっか」
「「「え?」」」
ミリウス以外の全員で声が揃ってしまう。今何と言っただろうか。
「ほら、念の為、ね? 服装は動きやすいのが良いかな? でも可愛くしてあげるから期待しててね、アル君」
「………………」
やはりアルは女装なのだろうか。ミリウスは楽しげに笑った。
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