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うつつに潜む翳り
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「や……尭司……助け……」
目を覚ますと、白々とした朝日が窓から射し込んでいた。
頬にひんやりした感触があり、目元に触れると涙に濡れていた。
「……いやな夢、見ちゃったな」
せっかく尭司と結ばれた夜だったと言うのに。
起き上がろうとして、下腹部や股間に何かが挟まったような異物感を覚える。鈍い痛みもあり、力が入らない。
尭司と結ばれた現実の名残だと分かるが、先程の夢と相まって、複雑な気持ちになる。
あれほど好きな尭司相手でも、やはり初めての体験は体には負担がかかっているのだろうか?
あんな優しい尭司でさえも、欲望には逆らえず亜夜果に痛みを与えたことに、どこか受け入れられていない自分がいるのだろうか?
亜夜果に囁いた淫語だって、夜を共にする恋人同士の戯れ言だとちゃんと理解しているつもりなのに。
それとも、あんな風に乱暴に扱ってもらいたい気持ちが、自分の中にあるのだろうか?
……いや、そんなはずはない!
夢とはいえ、尭司の声で告げられた冷酷で残酷な言葉の数々は、今も亜夜果の胸に刺さる。
そして、そんな言葉と共に嬲られ続けたことで、千切れるほど心も体も痛い。
ありとあらゆる性感帯を刺激され、強引にイカされ、けれどそれが去ったあとは、ただただむなしいばかり。
そこには満足感も悦びもない。
あるのは、空虚な喪失感。思い出すだけで目に涙がにじむ。
「……うぅ……たかし……尭司ぃ……」
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら、亜夜果は耐えきれず泣き出した。
あんなに幸せな夜だったのに、あんなに満たされた気持ちで眠りに入ったのに。
何故、その夜に、こんな酷い夢を!?
「ひっく……尭司……会いたいよ……グスッ……早く会いに来て……違うよって、あんなの……うぅ……尭司じゃないって言って……」
まだ尭司の匂いが残っているような気がして、亜夜果はシーツを引き剥がし、抱き締める。
止めどなく流れ落ちる涙が抱き締めたシーツを濡らし、泣き濡れた亜夜果は、陽光の中で、再び眠りに落ちた。
着信音に気が付いて、亜夜果は目覚めた。
「子安先輩……」
スマホの画面に表示された名前に、亜夜果は反射的に通話のアイコンにタッチしそうになり、手が止まる。
絵巳子の顔を見たら、いや声を聞いただけで泣きそうだ。着信が絵巳子だと思っただけで、もう鼻がすんと痛くなる。
やがて、着信音は止まる。
おそらく昨日の約束通り、食材を買って持ってきてくれる心積もりなのだろう。
時刻を確認すれば、ちょうど昼休み中だ。こちらからかけ直すべきなのだろうが。
「……きっと、寝ているって思ってくれるわよね……」
自分を納得させるように呟いて、亜夜果はスマホから手を離す。
昨日、尭司の連絡先を聞きそびれたのも幸いだったかも。もし知っていようものなら、尭司の迷惑も省みず、問いただすような電話やメールをしてしまったかもしれない。
第一、なんて問いただすのだ?
夢の中であなたの言った言葉は本当ですか? なんて訊けやしない!
「……会いたい」
事の真偽を問いただすのではなく、ただ会いたい。会って優しく抱き締めて欲しい。
「……会いに、いく?」
今日は日勤だと言っていた。勤務場所は一番近くの交番。
遠くから眺めるだけでもいいから。
せめて一目その姿を目に焼き付けたい
会いに行こう。
まだ左頬の青アザは目立つが、昨日に比べるとやや薄くなってきた感じがする。痛みはかなり治まってきた。
午前は眠ってしまい、薬を飲んでいなかった。
食欲がないので絵巳子が買ってきてくれたヨーグルトにジャムを混ぜて、小鉢ほどの量を何とか飲み下す。熱もなかったので抗生剤だけ飲んだ。
Tシャツに夏用の薄いパーカーを羽織る。持っている衣類で薄手の長袖はこれだけだった。一昨日着ていたカーディガンは破れてしまったので。
かなり目立たなくなってきたが、まだ腕の引っ掻き傷が気になるので、通勤用に購入も考えなくてはいけない。
ジーンズとスニーカーを履いて、帽子を被る。
キャスケットだが、無いよりマシだ。
前髪を頬を覆うように垂らして帽子を目深に被れば、左頬も自然に隠れる。
それからふと思い付いて、絵巳子にメールを送る。
『連絡ありがとうございます。気が付かなくてすみませんでした。今日は少し体調も良さそうなのでリハビリ代わりに買い物に出てみます。なので買い出しは大丈夫です。ありがとうございました』
言外に来訪しなくてもよいことを匂わせて。
察しのよい絵巳子なら、気付いてくれることを期待して。
もう午後の仕事が始まっている時間だから、返信は夕方だろう。
鍵と財布とスマホをポシェットに入れて、身軽な格好でマンションを出た。
交番は駅前にある。
亜夜果はいつもの通勤経路をたどる。
途中の公園の前で、一瞬、身がすくんだ。昼間で人影も多いと言うのに。
なるべく見ないようにして、公園の外側を通りすぎる。
「……が出たらしいのよ。この近所らしいんだけど。でも、捕まったって」
「そう言えば一昨日の夜、パトカーや救急車が近くに来ていたし、それかな?」
「襲われたのは高校生だって聞いたけど?」
「え? 私は女子大生って聞いたよ?」
公園の中から聞こえてくるおしゃべりに、亜夜果の足が止まる。
「道を歩いていたら突然殴りかかって来たって」
「あとをつけられたんじゃなくて?」
「ケガしたって言ってなかった?」
憶測とデマが入り交じった情報交換をする若い母親達に、亜夜果は半ばあきれ、半ば安心する。
実際とは微妙に違うが、かといって亜夜果を限定する内容ではない。もっと酷い事実は伏せられているし。
足早にその場を去り、駅前に向かう。
平日とは言え大型スーパーや書店などもあり、近所に高校も2つあるため、駅前は賑やかだった。
亜夜果のマンションとは駅舎の正面入口を挟んで逆方向に交番があるため、今まで通りかかることはなかったが、まさかここに尭司がいるとは思わなかった。よく3ヶ月近くすれ違いもせず過ごしたものだ。
駅前交番は、新しいきれいな建物で、正面はほぼ全面ガラス張りで中がよく見える。
少し離れて中を覗くが。
警察官の姿が二人見えるが、尭司はいない。
今日は日勤だって言ってたのにな。
交番に何人の警察官が勤務しているのか分からないし、そもそも勤務形態もよく知らないので、日勤という言葉の意味も、普通とは違うのかもしれないけど。
「何かお困りですか?」
気が付いたらかなり近付いて覗き込んでしまい、中からお巡りさんが声をかけてきた。
「いえ、あの……えっと困り事じゃなくて……その」
しどろもどろの亜夜果をその警察官は笑顔で見守る。
40歳くらいの優しそうなおじさん。
「あの、間宮さんってお巡りさん、こちらにいないですか? お世話になって……」
「間宮?」
「はい、近所の交番にいるって言っていたから、ここかなって思って……」
「失礼ですが、おうちは?」
亜夜果が住所を告げると、警察官は中に一度入って、もう一人といくつか言葉を交わし。
「すみません。間宮の風体……年格好とかは?」
「……若い男の人で、背丈はこのくらいで、やせ形で……」
「ありがとうございます。間宮はここの勤務ではないんですよ。お嬢さんのお宅あたりがちょうど境目になっていて、反対方向にもうひとつ交番がありましてね。市役所の近くなんですが」
「え? そっちなんですか?」
「ええ。もともとそこでこの辺りを全て管轄していたんですが、駅前が開発されて、ここにも交番が出来たんですよ」
「そうなんですね。引っ越してきたばかりで知らなくて……」
「駅を利用される方は、こっちの交番しか知らない方も多いので、同じように勘違いされる方もいらっしゃいますよ。こちらもお知らせがきちんとしていなくてスミマセン。あ、困ったことが、あれば、もちろん、こちらでも対応できますから安心してください」
「いえ」
「で、間宮ですが、今、巡回……外に出ているので、そちらの交番に行っても不在なんですよ。もし用件があれば伝えますが」
「いえ、急ぎではないので。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそお役に立てず。これからも遠慮せず、何かあればおっしゃってくださいね」
丁寧に言われて、亜夜果も丁寧にお辞儀をして交番から離れる。
警察って怖いイメージがあったけれど、あんな風に優しいお巡りさんもいるんだ。
遠目にもう一度交番を振り返る。
やっぱり、カッコいいな、お巡りさんの制服って。
尭司の制服姿を思い浮かべて。
うん、絶対似合う!
……見たかったな。
本来の目的からだいぶズレたことを考える。けれど、あれほど思い詰めていた気持ちが、ガス抜きできた。
やはり、家にこもりきりなのが良くなかったのかも知れない。
夢の内容で塞ぎ込むなんて、バカらしい。
絵巳子に『リハビリ代わりに』なんてメールをしたが、実際によいリハビリになったようだ。
もし今夜、尭司が訪れてもいいように、少し食材を買い足してマンションに戻る。
夕方近くなってしまったが、洗濯をして、待っている間にお米を磨いだり、掃除機をかけたりして。
洗濯の終わったシーツや衣類をベランダに干す。今は気候が良いので夕方でも何とか乾くだろう。
一通りやり終えると、スマホにメールが届いた。
『返信が遅れてごめんね。体調はいかが? 大丈夫そうなら今日は遠慮するわ。明日の金曜日はそっち方面にいるので、何かあれば遠慮せず言ってね。課長から、来週になったら一度電話でいいので連絡下さいって伝言です』
期待した通り、亜夜果の意図を察した絵巳子のメール。もっとも気を取り直した今は、来てもらっても全然構わないのだが。
いや、買い物もしてきたし、絵巳子に負担をかけないに越したことはない。
が。
『ところで、彼とは上手く行った? 今夜ももしかして会うのかな? ケガに響かない程度に楽しんでね』
メールの最後にそう書かれていて。
……違います! そういう意味じゃないんです!
察しの良すぎる絵巳子の、穿った洞察に亜夜果は赤面する。
ただそれが現実になりそうな予感もあって、なおいっそう恥ずかしさに身をすくませる亜夜果だった。
目を覚ますと、白々とした朝日が窓から射し込んでいた。
頬にひんやりした感触があり、目元に触れると涙に濡れていた。
「……いやな夢、見ちゃったな」
せっかく尭司と結ばれた夜だったと言うのに。
起き上がろうとして、下腹部や股間に何かが挟まったような異物感を覚える。鈍い痛みもあり、力が入らない。
尭司と結ばれた現実の名残だと分かるが、先程の夢と相まって、複雑な気持ちになる。
あれほど好きな尭司相手でも、やはり初めての体験は体には負担がかかっているのだろうか?
あんな優しい尭司でさえも、欲望には逆らえず亜夜果に痛みを与えたことに、どこか受け入れられていない自分がいるのだろうか?
亜夜果に囁いた淫語だって、夜を共にする恋人同士の戯れ言だとちゃんと理解しているつもりなのに。
それとも、あんな風に乱暴に扱ってもらいたい気持ちが、自分の中にあるのだろうか?
……いや、そんなはずはない!
夢とはいえ、尭司の声で告げられた冷酷で残酷な言葉の数々は、今も亜夜果の胸に刺さる。
そして、そんな言葉と共に嬲られ続けたことで、千切れるほど心も体も痛い。
ありとあらゆる性感帯を刺激され、強引にイカされ、けれどそれが去ったあとは、ただただむなしいばかり。
そこには満足感も悦びもない。
あるのは、空虚な喪失感。思い出すだけで目に涙がにじむ。
「……うぅ……たかし……尭司ぃ……」
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら、亜夜果は耐えきれず泣き出した。
あんなに幸せな夜だったのに、あんなに満たされた気持ちで眠りに入ったのに。
何故、その夜に、こんな酷い夢を!?
「ひっく……尭司……会いたいよ……グスッ……早く会いに来て……違うよって、あんなの……うぅ……尭司じゃないって言って……」
まだ尭司の匂いが残っているような気がして、亜夜果はシーツを引き剥がし、抱き締める。
止めどなく流れ落ちる涙が抱き締めたシーツを濡らし、泣き濡れた亜夜果は、陽光の中で、再び眠りに落ちた。
着信音に気が付いて、亜夜果は目覚めた。
「子安先輩……」
スマホの画面に表示された名前に、亜夜果は反射的に通話のアイコンにタッチしそうになり、手が止まる。
絵巳子の顔を見たら、いや声を聞いただけで泣きそうだ。着信が絵巳子だと思っただけで、もう鼻がすんと痛くなる。
やがて、着信音は止まる。
おそらく昨日の約束通り、食材を買って持ってきてくれる心積もりなのだろう。
時刻を確認すれば、ちょうど昼休み中だ。こちらからかけ直すべきなのだろうが。
「……きっと、寝ているって思ってくれるわよね……」
自分を納得させるように呟いて、亜夜果はスマホから手を離す。
昨日、尭司の連絡先を聞きそびれたのも幸いだったかも。もし知っていようものなら、尭司の迷惑も省みず、問いただすような電話やメールをしてしまったかもしれない。
第一、なんて問いただすのだ?
夢の中であなたの言った言葉は本当ですか? なんて訊けやしない!
「……会いたい」
事の真偽を問いただすのではなく、ただ会いたい。会って優しく抱き締めて欲しい。
「……会いに、いく?」
今日は日勤だと言っていた。勤務場所は一番近くの交番。
遠くから眺めるだけでもいいから。
せめて一目その姿を目に焼き付けたい
会いに行こう。
まだ左頬の青アザは目立つが、昨日に比べるとやや薄くなってきた感じがする。痛みはかなり治まってきた。
午前は眠ってしまい、薬を飲んでいなかった。
食欲がないので絵巳子が買ってきてくれたヨーグルトにジャムを混ぜて、小鉢ほどの量を何とか飲み下す。熱もなかったので抗生剤だけ飲んだ。
Tシャツに夏用の薄いパーカーを羽織る。持っている衣類で薄手の長袖はこれだけだった。一昨日着ていたカーディガンは破れてしまったので。
かなり目立たなくなってきたが、まだ腕の引っ掻き傷が気になるので、通勤用に購入も考えなくてはいけない。
ジーンズとスニーカーを履いて、帽子を被る。
キャスケットだが、無いよりマシだ。
前髪を頬を覆うように垂らして帽子を目深に被れば、左頬も自然に隠れる。
それからふと思い付いて、絵巳子にメールを送る。
『連絡ありがとうございます。気が付かなくてすみませんでした。今日は少し体調も良さそうなのでリハビリ代わりに買い物に出てみます。なので買い出しは大丈夫です。ありがとうございました』
言外に来訪しなくてもよいことを匂わせて。
察しのよい絵巳子なら、気付いてくれることを期待して。
もう午後の仕事が始まっている時間だから、返信は夕方だろう。
鍵と財布とスマホをポシェットに入れて、身軽な格好でマンションを出た。
交番は駅前にある。
亜夜果はいつもの通勤経路をたどる。
途中の公園の前で、一瞬、身がすくんだ。昼間で人影も多いと言うのに。
なるべく見ないようにして、公園の外側を通りすぎる。
「……が出たらしいのよ。この近所らしいんだけど。でも、捕まったって」
「そう言えば一昨日の夜、パトカーや救急車が近くに来ていたし、それかな?」
「襲われたのは高校生だって聞いたけど?」
「え? 私は女子大生って聞いたよ?」
公園の中から聞こえてくるおしゃべりに、亜夜果の足が止まる。
「道を歩いていたら突然殴りかかって来たって」
「あとをつけられたんじゃなくて?」
「ケガしたって言ってなかった?」
憶測とデマが入り交じった情報交換をする若い母親達に、亜夜果は半ばあきれ、半ば安心する。
実際とは微妙に違うが、かといって亜夜果を限定する内容ではない。もっと酷い事実は伏せられているし。
足早にその場を去り、駅前に向かう。
平日とは言え大型スーパーや書店などもあり、近所に高校も2つあるため、駅前は賑やかだった。
亜夜果のマンションとは駅舎の正面入口を挟んで逆方向に交番があるため、今まで通りかかることはなかったが、まさかここに尭司がいるとは思わなかった。よく3ヶ月近くすれ違いもせず過ごしたものだ。
駅前交番は、新しいきれいな建物で、正面はほぼ全面ガラス張りで中がよく見える。
少し離れて中を覗くが。
警察官の姿が二人見えるが、尭司はいない。
今日は日勤だって言ってたのにな。
交番に何人の警察官が勤務しているのか分からないし、そもそも勤務形態もよく知らないので、日勤という言葉の意味も、普通とは違うのかもしれないけど。
「何かお困りですか?」
気が付いたらかなり近付いて覗き込んでしまい、中からお巡りさんが声をかけてきた。
「いえ、あの……えっと困り事じゃなくて……その」
しどろもどろの亜夜果をその警察官は笑顔で見守る。
40歳くらいの優しそうなおじさん。
「あの、間宮さんってお巡りさん、こちらにいないですか? お世話になって……」
「間宮?」
「はい、近所の交番にいるって言っていたから、ここかなって思って……」
「失礼ですが、おうちは?」
亜夜果が住所を告げると、警察官は中に一度入って、もう一人といくつか言葉を交わし。
「すみません。間宮の風体……年格好とかは?」
「……若い男の人で、背丈はこのくらいで、やせ形で……」
「ありがとうございます。間宮はここの勤務ではないんですよ。お嬢さんのお宅あたりがちょうど境目になっていて、反対方向にもうひとつ交番がありましてね。市役所の近くなんですが」
「え? そっちなんですか?」
「ええ。もともとそこでこの辺りを全て管轄していたんですが、駅前が開発されて、ここにも交番が出来たんですよ」
「そうなんですね。引っ越してきたばかりで知らなくて……」
「駅を利用される方は、こっちの交番しか知らない方も多いので、同じように勘違いされる方もいらっしゃいますよ。こちらもお知らせがきちんとしていなくてスミマセン。あ、困ったことが、あれば、もちろん、こちらでも対応できますから安心してください」
「いえ」
「で、間宮ですが、今、巡回……外に出ているので、そちらの交番に行っても不在なんですよ。もし用件があれば伝えますが」
「いえ、急ぎではないので。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそお役に立てず。これからも遠慮せず、何かあればおっしゃってくださいね」
丁寧に言われて、亜夜果も丁寧にお辞儀をして交番から離れる。
警察って怖いイメージがあったけれど、あんな風に優しいお巡りさんもいるんだ。
遠目にもう一度交番を振り返る。
やっぱり、カッコいいな、お巡りさんの制服って。
尭司の制服姿を思い浮かべて。
うん、絶対似合う!
……見たかったな。
本来の目的からだいぶズレたことを考える。けれど、あれほど思い詰めていた気持ちが、ガス抜きできた。
やはり、家にこもりきりなのが良くなかったのかも知れない。
夢の内容で塞ぎ込むなんて、バカらしい。
絵巳子に『リハビリ代わりに』なんてメールをしたが、実際によいリハビリになったようだ。
もし今夜、尭司が訪れてもいいように、少し食材を買い足してマンションに戻る。
夕方近くなってしまったが、洗濯をして、待っている間にお米を磨いだり、掃除機をかけたりして。
洗濯の終わったシーツや衣類をベランダに干す。今は気候が良いので夕方でも何とか乾くだろう。
一通りやり終えると、スマホにメールが届いた。
『返信が遅れてごめんね。体調はいかが? 大丈夫そうなら今日は遠慮するわ。明日の金曜日はそっち方面にいるので、何かあれば遠慮せず言ってね。課長から、来週になったら一度電話でいいので連絡下さいって伝言です』
期待した通り、亜夜果の意図を察した絵巳子のメール。もっとも気を取り直した今は、来てもらっても全然構わないのだが。
いや、買い物もしてきたし、絵巳子に負担をかけないに越したことはない。
が。
『ところで、彼とは上手く行った? 今夜ももしかして会うのかな? ケガに響かない程度に楽しんでね』
メールの最後にそう書かれていて。
……違います! そういう意味じゃないんです!
察しの良すぎる絵巳子の、穿った洞察に亜夜果は赤面する。
ただそれが現実になりそうな予感もあって、なおいっそう恥ずかしさに身をすくませる亜夜果だった。
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