孤児院のドロボーさん

るい

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いい人の、ドロボーさん 1話

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あるところに、とっても悪い男がいた。
男は毎晩街に忍び寄っては、銀行や宝石屋さん、パン屋やお肉屋さんなど、ありとあらゆるお店に忍び込んでは、お宝や食料をたくさん盗んで行った。

男が盗むのは、ものだけではない。
男はお宝や宝石の他に、あるものを好んでいた。
それは、小さな子供だ。

男はとうとう、平凡な家庭に忍び込み、その家の小さな子供を盗んで行った。

子供の行方はわからずじまいで、男は何年経っても捕まらなかった。



ある晩、男はある男の子を狙い、また平凡な家に忍び込んだ。

コンコンコン。

「やあ、ぼうや。おじさんと一緒においでよ」

男は窓に張り付き、優しそうな声をかけた。

「おじさん、誰?」

男の子がそう聞くと、男はにっこり笑って、また優しそうに声をかけた。

「ここを開けてくれないかい?」

男の子は優しい声に騙され、言われるがまま窓を開けてしまった。

男は窓から中へ入ると、男の子にナイフを向けた。

「おい、今からお前を連れ去るが、決して騒ぐんじゃねぇぞ。わかったな」

男はそういうと、小さな男の子を抱えあげ、窓から飛び降りた。



男は走った。前が見えないほどの暗い道を、ひたすら。


「さあ、着いたぞ。ここが俺の家だ。」

男の子はやっと下ろされると、男の家へと案内された。

男がドアノブに手をかけ、扉を開けた途端、中からはライトの眩しい光とたくさんの子供たちが男を迎えた。


「ドロボーさん、おかえり!」

「やあ、ただいま。遅くなってすまないね。」

男と子供たちは、そんな会話をしている。
子供たちは、男のことを「ドロボーさん」と呼んでいる。
ドロボーさんと話す子供たちは、みんな笑顔だった。

そんな様子に男の子がぽかんとしていると、同じくらいの背丈の女の子と目が合った。

「この子だあれ?」

女の子が聞くと、ドロボーさんは男の子の横に並んで、肩に手を置いた。

「この子は我々の新しい家族だ。みんなで迎え入れようじゃないか。」

ドロボーさんがそういうと、子供たちから次々に拍手が起こった。

「そうだ、名前はなんて言うんだい?」

ある少年が聞いた。

「えっと...」

男の子は、自分の名前を知らなかった。
大好きなママやパパにも、生まれてから1度も呼ばれたことがない。

「そうだ、みんなで新しい名前を考えよう。1人ずつ案を出していって。」

ドロボーさんがそういうと、みんな次々に手を挙げた。

「ケニーはどう?」

「私はジャイロが似合うと思うわ。」

「オリバーがいいと思うな。かっこいい名前だろ?」

子供たちは、みんなそれぞれ違う名前を出し合った。
どれもいい名前だ。男の子はそう思った。

「ドロボーさんはどれがいいと思う?」

「うーん、ジャックって言うのは、どうかな?」

「それ、それがいい!」

男の子の名前は、ジャックに決まった。



来たばかりのジャックを、子供たちは暖かく迎え入れてくれた。
同じくらいの歳の子もいれば、お兄さんお姉さんもいて、暖炉のそばにはまだまだ小さい赤ちゃんもいた。
みんなで食卓を囲んで、みんなで作った夜ご飯を食べた。
子供たちはみんな笑っていて、ドロボーさんも笑っていて、ジャックも笑っていた。


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