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26、終末の景色
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まわりの瓦礫を押しのけ、アリサたちは立ち上がる。
もちろん、アリサの魔法によって守られていた拓光もマクスウェルも無事だ。
辺りを見渡してみるものの、さっきまでのド派手で夢の中のようだった空間はない。その名残さえも感じさせないほどに、園内は崩れ去り、砂塵が未だにうっすらと園内中を満たしている。
「ちょっと派手にやらかし過ぎたんじゃない?」
と、拓光は少し咳き込む。
「こうして生きてるんだから、文句言わないで」
と、アリサは服についた埃をはらう。
「いや、ホンマによう助かったわ。もうアカンと思ったけどな」
と、マクスウェルは大きく伸びをして首を鳴らす。
一面に広がる瓦礫の山。その山の一角に、人影をひとつ見つける。今、この遊園地跡にアリサ、拓光、マクスウェル以外の影があるとするのならば、それは間違いなく青の魔女だ。
ゆっくりと、その人影はアリサたちに近付いてくる。その影を睨みつけるようにして、アリサはその場に立ち尽くす。
青の魔女が徐々に迫ってきているという恐怖に、足がすくんで動けない。
ここで逃げたのなら、きっと街は永遠に元に戻らない。だから動かない。
理由はきっと、その両方だ。
影は徐々に大きくなり、輪郭は鮮明になっていく。
「ああ、ちょっと酷いんじゃない?」
と、青の魔女は真冬の夜空を思わせるほどに黒く美しい髪をかき上げる。その顔は、なんだか楽しそうに笑っていて、ちっとも酷いことをされた、というような表情ではない。
「せっかくお城の中に貴方たちをもてなすための準備をしていたのに。パーティはお嫌いなのかしら?」
そう言って、青の魔女は立ち止まる。
「遊園地が崩壊したのは貴方が創り出した龍が崩れ落ちたからよ。あんなに巨大でなければ、ここまで酷い有様にはならなかったはずでしょうに」
青の魔女との距離は約十メートル。この距離が有利なのか、不利なのかはアリサにはわからない。
「ま、そう言われればそうね。あれだけ大きな龍なら、貴方も怖気づくと思ったのだけれど。意外と優秀で怖いもの知らずなのね、貴方」
「あら、貴方は未来の私なんでしょう? かつての自分の有能さを忘れていただなんて、長生きしすぎて耄碌したんじゃないの?」
さっきまで、随分と騒がしかった園内がとても静かで、風の音しか聞こえない。何百頭もの馬が嘶きながら回っていたメリーゴーランドも、大量に湧いていたふあふあちゃんも、走り回っていたゴーカートも、高速で回転していたコーヒーカップも、入口の巨大なふあふあちゃんも、みんな潰れてしまった。どこからともなく聞こえていた派手な音楽も、いつのまにか聞こえなくなっていた。世界の終わり、世界の果てを具現化すれば、こんな風景になるのだろうか。
終末の景色。
かつて青の魔女が見てきた光景。それを彼女はこの場に再現しただけなのではないか。だとすれば、ここでこうしてアリサが龍を倒したことさえ、彼女の思惑通りだということだ。
――未だ私は彼女の手の平の上だというのか。
それでも、アリサは青の魔女を認めることはできない。確かに、すべてが崩壊し、なにもかもが無くなったこの光景は、少し寂しい。こんな世界でたったひとり、取り残されてしまうのは怖い。でも、自分勝手な理想郷に逃げ込んでしまうその弱さを許すことはできない。しかも、多くの人を巻き込んでまで。
無言でアリサと青の魔女は視線をぶつける。
もはや、交わすべき言葉は無いだろう。相互理解は不可能だ。ならば、どちらかの精神が折れるまで、戦い合うしかない。
なにかの合図があったわけではない。
ただ、二人が動き出したのは同時だった。
もちろん、アリサの魔法によって守られていた拓光もマクスウェルも無事だ。
辺りを見渡してみるものの、さっきまでのド派手で夢の中のようだった空間はない。その名残さえも感じさせないほどに、園内は崩れ去り、砂塵が未だにうっすらと園内中を満たしている。
「ちょっと派手にやらかし過ぎたんじゃない?」
と、拓光は少し咳き込む。
「こうして生きてるんだから、文句言わないで」
と、アリサは服についた埃をはらう。
「いや、ホンマによう助かったわ。もうアカンと思ったけどな」
と、マクスウェルは大きく伸びをして首を鳴らす。
一面に広がる瓦礫の山。その山の一角に、人影をひとつ見つける。今、この遊園地跡にアリサ、拓光、マクスウェル以外の影があるとするのならば、それは間違いなく青の魔女だ。
ゆっくりと、その人影はアリサたちに近付いてくる。その影を睨みつけるようにして、アリサはその場に立ち尽くす。
青の魔女が徐々に迫ってきているという恐怖に、足がすくんで動けない。
ここで逃げたのなら、きっと街は永遠に元に戻らない。だから動かない。
理由はきっと、その両方だ。
影は徐々に大きくなり、輪郭は鮮明になっていく。
「ああ、ちょっと酷いんじゃない?」
と、青の魔女は真冬の夜空を思わせるほどに黒く美しい髪をかき上げる。その顔は、なんだか楽しそうに笑っていて、ちっとも酷いことをされた、というような表情ではない。
「せっかくお城の中に貴方たちをもてなすための準備をしていたのに。パーティはお嫌いなのかしら?」
そう言って、青の魔女は立ち止まる。
「遊園地が崩壊したのは貴方が創り出した龍が崩れ落ちたからよ。あんなに巨大でなければ、ここまで酷い有様にはならなかったはずでしょうに」
青の魔女との距離は約十メートル。この距離が有利なのか、不利なのかはアリサにはわからない。
「ま、そう言われればそうね。あれだけ大きな龍なら、貴方も怖気づくと思ったのだけれど。意外と優秀で怖いもの知らずなのね、貴方」
「あら、貴方は未来の私なんでしょう? かつての自分の有能さを忘れていただなんて、長生きしすぎて耄碌したんじゃないの?」
さっきまで、随分と騒がしかった園内がとても静かで、風の音しか聞こえない。何百頭もの馬が嘶きながら回っていたメリーゴーランドも、大量に湧いていたふあふあちゃんも、走り回っていたゴーカートも、高速で回転していたコーヒーカップも、入口の巨大なふあふあちゃんも、みんな潰れてしまった。どこからともなく聞こえていた派手な音楽も、いつのまにか聞こえなくなっていた。世界の終わり、世界の果てを具現化すれば、こんな風景になるのだろうか。
終末の景色。
かつて青の魔女が見てきた光景。それを彼女はこの場に再現しただけなのではないか。だとすれば、ここでこうしてアリサが龍を倒したことさえ、彼女の思惑通りだということだ。
――未だ私は彼女の手の平の上だというのか。
それでも、アリサは青の魔女を認めることはできない。確かに、すべてが崩壊し、なにもかもが無くなったこの光景は、少し寂しい。こんな世界でたったひとり、取り残されてしまうのは怖い。でも、自分勝手な理想郷に逃げ込んでしまうその弱さを許すことはできない。しかも、多くの人を巻き込んでまで。
無言でアリサと青の魔女は視線をぶつける。
もはや、交わすべき言葉は無いだろう。相互理解は不可能だ。ならば、どちらかの精神が折れるまで、戦い合うしかない。
なにかの合図があったわけではない。
ただ、二人が動き出したのは同時だった。
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