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宰相の喉に刺さった棘
しおりを挟む一ヶ月前、ライヒシュタット公が亡くなった。
彼は、オーストリア皇帝の孫だった。そして、かつてのフランス皇帝ナポレオンの息子だった。
革命戦争時代から、オーストリアはフランスの敵だった。戦争で負けたオーストリアに対し、ナポレオンは内親王を妻に要求してきた。
そして生まれたのが、彼だ。
ナポレオンの凋落は早く、彼は3歳の時、父と別れ、母の実家であるオーストリア宮廷にやってきた。
その時から、この、フランスとオーストリアの間に生まれたプリンスは、オーストリア宰相メッテルニヒの喉に刺さった骨となったのだ。
やがてワーテルローでナポレオンは破れ、パリは陥落した。皇帝は退位し、エルバ島へ封じられた。翌年、百日天下の夢も虚しく、彼は絶海の孤島、セント・ヘレナへ幽閉され、その地で没する……。
父ナポレオンが死んでからも、メッテルニヒは、プリンスを守り続けた。
彼は、皇帝の孫だったからだ。
フランスにはまだ、帝政の記憶を捨てきれない者が多く、反面、復古したブルボン王家は、彼の命を狙った。諸外国の民衆運動の高まりも、不安要素だった。
そのすべてから、メッテルニヒは、彼を守り続けた。
ウィーンの帳の下に隠し、決して外へ出さない、というやり方で。
そうして彼は、結核で死んだ。
何もなさぬまま、何処へも行けぬまま。
23歳だった。
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