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メッテルニヒの人選
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メッテルニヒからの文書での下問に対し、ハルトマンは、立派なフランス語で答えてきた。
どうやら、語学が堪能なモルに書かせたらしい。
……「ライヒシュタット公は、いつも身ぎれいで清潔、その服装は、ファッションのロールモデルになれるほどだった」……。
軍務や交友関係の合間に、モルの視点が挟み込まれている。
「Quelles étaient les personnes qu'il affectionnait le plus?(彼が最も愛していたのは誰か?)」
ブルボンの遺臣、モントベール伯爵に、ナポレオンの息子に関する本を書かせる。
オーストリアで彼は、申し分ない待遇を受けていたと、フランス人民に知らしめるために。
そのためにモントベールの取材に応じる人選が必要だった。プリンス本人が信頼し、愛情を抱いていた相手を選ばなければならない。
メッテルニヒの口頭での問い掛けに対し、ハルトマンは、皇族の他、ディートリヒシュタインをはじめ、フォレスチ、オベナウスら、家庭教師の名を上げた。
まずは、無難な人選と言えよう。
さらにハルトマンは、アントン・オースティン=プロケシュの名も付け加えていた。
……プロケシュか。
彼のことなら、メッテルニヒもよく知っている。中東外交での堅実な働きは、評価に値する。プロケシュは、相手が誰であれ、すぐにその懐に飛び込むことができるのだ。トルコの太守とも、プロケシュは、よい関係を築いた。
秘書長官だったゲンツを通して、メッテルニヒは、プロケシュを知った。
だが、ゲンツは次第にメッテルニヒから離れていき、それに呼応するように、プロケシュも、メッテルニヒを避けるようになっていった。
さらに悪いことに、ライヒシュタット公の家庭教師のディートリヒシュタイン伯爵が、彼をプリンスと引き合わせた。
昔、プロケシュは、ナポレオンを擁護する本を書いた。その本は全く売れなかったが、ドイツ語で書かれたそれを、2ヶ国語に翻訳してしまうくらい熟読した者がいた。
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公だ。
ディートリヒシュタインが、プロケシュを教え子に引き合わせたのは、そういう経緯があったのだ。
2人は、すぐに意気投合した。プロケシュは、プリンスの「親友」となった。
……プロケシュには、突拍子もないところがある。
……プリンスと二人でいると、何をしでかすかわからない無謀さがあったな。
あっさり二人で、フランスへ逃亡しかねなかった。
それで、メッテルニヒはプロケシュを、ボローニャへ送った。断るかと思ったが、オーストリア帝国とメッテルニヒに忠誠を示しておく必要を感じたのか。プロケシュは、素直に赴任していった。
実は、教皇領ボローニャでの彼の任務は、大した仕事ではなかった。プロケシュは、有能な人材だ。もっと活躍してもらわねばならない。
プリンスの死後、すぐに、彼を召喚した。そろそろ、ウィーンへ到着するだろう。
……プリンスの「親友」だった、プロケシュ。彼なら、モントベール伯爵に、プリンスの、素晴らしい思い出話をしてくれるだろう。
プロケシュは、結婚を控えている。そして、頼みの綱のゲンツは、もう、いない。
メッテルニヒには、確信があった。
プロケシュは、メッテルニヒの評判を落とすようなことは、決して、話さないだろう。
どうやら、語学が堪能なモルに書かせたらしい。
……「ライヒシュタット公は、いつも身ぎれいで清潔、その服装は、ファッションのロールモデルになれるほどだった」……。
軍務や交友関係の合間に、モルの視点が挟み込まれている。
「Quelles étaient les personnes qu'il affectionnait le plus?(彼が最も愛していたのは誰か?)」
ブルボンの遺臣、モントベール伯爵に、ナポレオンの息子に関する本を書かせる。
オーストリアで彼は、申し分ない待遇を受けていたと、フランス人民に知らしめるために。
そのためにモントベールの取材に応じる人選が必要だった。プリンス本人が信頼し、愛情を抱いていた相手を選ばなければならない。
メッテルニヒの口頭での問い掛けに対し、ハルトマンは、皇族の他、ディートリヒシュタインをはじめ、フォレスチ、オベナウスら、家庭教師の名を上げた。
まずは、無難な人選と言えよう。
さらにハルトマンは、アントン・オースティン=プロケシュの名も付け加えていた。
……プロケシュか。
彼のことなら、メッテルニヒもよく知っている。中東外交での堅実な働きは、評価に値する。プロケシュは、相手が誰であれ、すぐにその懐に飛び込むことができるのだ。トルコの太守とも、プロケシュは、よい関係を築いた。
秘書長官だったゲンツを通して、メッテルニヒは、プロケシュを知った。
だが、ゲンツは次第にメッテルニヒから離れていき、それに呼応するように、プロケシュも、メッテルニヒを避けるようになっていった。
さらに悪いことに、ライヒシュタット公の家庭教師のディートリヒシュタイン伯爵が、彼をプリンスと引き合わせた。
昔、プロケシュは、ナポレオンを擁護する本を書いた。その本は全く売れなかったが、ドイツ語で書かれたそれを、2ヶ国語に翻訳してしまうくらい熟読した者がいた。
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公だ。
ディートリヒシュタインが、プロケシュを教え子に引き合わせたのは、そういう経緯があったのだ。
2人は、すぐに意気投合した。プロケシュは、プリンスの「親友」となった。
……プロケシュには、突拍子もないところがある。
……プリンスと二人でいると、何をしでかすかわからない無謀さがあったな。
あっさり二人で、フランスへ逃亡しかねなかった。
それで、メッテルニヒはプロケシュを、ボローニャへ送った。断るかと思ったが、オーストリア帝国とメッテルニヒに忠誠を示しておく必要を感じたのか。プロケシュは、素直に赴任していった。
実は、教皇領ボローニャでの彼の任務は、大した仕事ではなかった。プロケシュは、有能な人材だ。もっと活躍してもらわねばならない。
プリンスの死後、すぐに、彼を召喚した。そろそろ、ウィーンへ到着するだろう。
……プリンスの「親友」だった、プロケシュ。彼なら、モントベール伯爵に、プリンスの、素晴らしい思い出話をしてくれるだろう。
プロケシュは、結婚を控えている。そして、頼みの綱のゲンツは、もう、いない。
メッテルニヒには、確信があった。
プロケシュは、メッテルニヒの評判を落とすようなことは、決して、話さないだろう。
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