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革命の聖女
3 聖女拉致
しおりを挟む浜辺で、わたしは、聖女としての最後の禊を行った。
複雑な形に組んだ両手を海の水に浸す。海水を掬い上げ、祝詞を唱える。
女官が屈んで、形代を流した。引いていく波に誘われ、それは沖へと流されていく。
毎日やってきた禊の、総ざらえだ。
この後首都に向かい、革命政府に身を委ねる。
そして……恐らく処刑されるのだろう。
わたしは王家の一員だ。
立ち上がり、ミエの湾を見渡した。
沖に行くほど青く広がる海の上を、白いカモメが舞っている。
生ぬるい、磯の香りが体に染み込むようだ。
わたしは全てを受け容れるつもりだ。
王家の娘として、恥ずかしくない死を迎えてやる。
先に身罷られた、父上のように。母上のように。
毅然として、処刑台の階段を上ってみせる。
メイドの差し出した布で手を拭っている時だった。
「せいじょーーーーーーっ! 聖女はどこだーーーーっ!」
とんでもない蛮声が聞こえた。こんな野蛮な声、深窓に暮らすわたしは、初めて聞いた。
遥か向こうの浜辺を、馬に乗った男が駆けまわっている。
言い忘れたが、私たちの乗り物は、自動車である。魔法石があるのだから、エネルギーは無限だ。車を動かすなんて、お茶の子さいさいというもの。
ただ、ミエでは、伝統が重んじられている。神の住居の静けさは守られねばならない。ミエでは無粋なモーター音は禁じられている。
だからこの男は、馬で来たのだろう。大声で叫ぶ当たり、野蛮人に見えなくもないが、案外、気遣いの人なのかもしれない。
馬に乗った男を見て、女官達がわたしの前に立ちはだかった。
聖女は、神の花嫁だ。男性と接してはいけない。解任されたとはいえ、革命政府に出頭する前のわたしに、万が一のことがあったらいけないと思ったのだろう。
「あっ! そこだな!」
女官達が囲っているのでは、ここに聖女がいると告げているようなものだ。過たず、男はこちらへ向かって突進してきた。
「無礼者! 名を名乗れ!」
女官の一人、武道の心得のある者が、身構えた。
「革命軍旅団長、ノギだ!」
革命軍……早くもわたしを迎えに来たのだろうか。処刑台へと向かわせる為に?
「ノギ准将、ここは男子禁制ですぞ!」
「うるさい! そこをどけ!」
「どきません!」
毅然として女官は言い渡した。
「俺は聖女に用があるんだ。薹の立ったオバさんではない!」
この将校ったら、言ってはいけないことを……。
「まあっ!」
案の定、女官の怒りに火がついた。懐から小刀を取り出し、斜めに構える。
「そんなおもちゃを振り回してんじゃない!」
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「その子が聖女だな。貰っていくぞ!」
馬が駆け寄ってくる。間近に迫った葦毛の汗が、わたしの二の腕に跳ね飛んだ。
あっと思う間もなく、わたしの体が宙に浮いた。両脇の下が痛い。准将がかかえ上げたのだ。鞍に斜めに引っかかるように乗せられた。
「急いでるんだ。行くぞ!」
将校が叫ぶと、馬はバカみたいなスピードで走り始めた。
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