玉ねぎの値段が4倍にっ! 一揆起こしていいですか?――聖女と戦う革命戦争

せりもも

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革命の聖女

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青年将校、ヨシツネを生き返らせたという話は、あっという間に戦場に広がった。
死ぬしかないと思われていたのに彼は回復し、それどころか、元気いっぱい、戦場を駆けまわっている。

戦争で瀕死の重傷を負ったというのに、懲りない男だ。


噂を聞きつけ、大勢の怪我人が押し寄せてきた。
わたしのテントの前に長い行列ができた。

戦争でこんなにたくさん怪我人が出たのかとひるむほどだった。

だが、ミエの台風では何千人もの命を救った。大丈夫。わたしはできる子。
一人一人に対峙し、夜を昼に継いで、わたしは兵士らの治療を続けた。




「この人を優先して治療してくれ」

衛生兵らが、担架を運び込んできた。将校服を着た男が載せられている。意識を失っているが、顔色はそこまで悪くない。

「人の命に軽重はありません」
わたしは反論した。

基準として、なるべく重傷者から治療を始めることにしている。順番を待っているうちに死んでしまったら困るからだ。

患者は、頭に包帯を巻いていた。赤く血がにじんでいる。だが、脈は安定しており、まだ待てそうだった。


「頼む。ゲンパク先生には仕事があるんだ!」

そういう衛生兵らの目は必死だった。
単なる割り込み問題ではないらしい。
わたしはここへきてまだ日が浅い。軍には軍の流儀があるのかもしれない。

「わかりました。あまり時間はかからないと思います」
この程度の怪我なら、すぐに治癒するはずだ。



「ふん。これが聖女の白魔法か」
治療が終わり、意識を取り戻すと将校は言った。
「なにやら頭がふわりと温かくなり、それからどくんどくんと波打って、あれは、失われた血液を補充したのか?」

「神の御わざです」

軽くいなしたつもりだった。だが男はしつこかった。

「幻惑魔法ではないようだな。白魔法というのは、大変高度な技だという。なぜ、王女だけがそれを習得できるのだ?」
「それはいにしえの……」
「昔話は結構。科学的に説明してくれ」

知ったことか! そう答えたかった。だがわたしは聖女だ。品格というものがある。
「それが伝統というものでしょう」

「ふうん。伝統ねえ」
馬鹿にしきったように言う。

「俺は、論理的に説明できないことは信用しねえ主義なのだが……」
言いながら頭を撫で繰り回す。
「でも、こうして傷がきれいに消えちまうとなあ」

「革命は、神を否定したのでしょう?」
皮肉に聞こえないようにわたしは言った。この将校が言いたいことはそういうことなのだろう。

「うむ。魔法は全て、魔法石に集約する必要があるからな」
電力などエネルギーを生み出す魔術は全て、魔法石から生み出されている。

「だから、魔法と名のつくものは全て、政府が管理しなければならないのだ」

そうか。
だから革命政府は、イツキ神殿を取り壊そうと……。エネルギーの生産を管理する為に。

「けれど、ミエの神の魔法は白魔法、癒しの魔術です。エネルギー生産とは何の関係もありません」
わたしは抗議した。

男は肩を竦めた。
「だが、王室の守り神だ」

「あ……」

処刑された父と母。
否定された立憲王政。
革命政府が否定したかったものは、王室自身だ。

「ま、あんたも気を付けることだ。白魔法も魔法には違いないからな。うっかり人前で『神』などと口走ると、ツボ衝かれるぞ」

ぞっとした。


わたしを脅して満足したのか、男はにやりと笑い立ち上がろうとした。

「あっ、まだ……」

いきなり立ち上がったら危ない。案の定、男は尻もちをついた。貧血から、立ち眩みを起こしたのだ。

「俺としたことが……」

慌てて駆け寄り、助け起こそうとしたわたしの手を、彼は振り払った。わたしより、一回りは確実に年上だ。それにどうやら、軍の高官らしい。恥をかかせるわけにはいかない。

「お急ぎなのですね?」
先ほどの衛生兵達の必死な様子をわたしは思い出した。

「戦闘中の軍の駐屯地で、急いでいないものなんているのかね?」
皮肉な口調で男は言った。

「お気持ちはわかります。ですが今夜一晩くらいはゆっくりなさった方がいいですよ」
「ま、礼は言っておく」

ついでのように言って、彼は出て行ってしまった。






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