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革命の聖女
8 フジカワの合戦 1
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重い響きを立てて、戦車が行き来している。時折、どおん、どおんという砲弾の発射音が聞こえる。
あちこちに、傷ついた兵士らが、ある者は岩に寄りかかり、ある者は倒れ伏しているのが見える。
「聖女。君は車の運転ができるか?」
せかせかとゲンパク医師が問う。
「一応免許はありますけど……」
一度も運転したことがないと言おうとしたが、医師に遮られた。
「それは好都合。運転手に人員は割けないからな」
「はあ」
ま、なんとかなるでしょ。運転ぐらい。
ゲンパク先生が説明を始めた。
「衛生兵らが戦場を駆けまわって、怪我人にリボンをつけている。死に瀕した重傷者には赤、その次が黄色、緑、青の順だ」
「ラベリングですね?」
わたしが問うと、医師は頷いた。
「そうだ。君のやり方だ。重傷者から順に診ていく。敵味方は関係ない」
「え? 敵兵も治療するのですか?」
驚いた。再び医師が頷く。
「見るのはリボンの色だけだ。軍服の色ではない。それとも、神の御わざとやらは、ジパング人にしか効かないものなのか?」
「そんなことはありません」
憤然とわたしは答えた。神を侮辱された気がしたのだ。
「よかろう。君は赤いリボンを優先して診てくれ。黄色から下は俺が引き受ける」
「わかりました」
この医師に従おうとわたしは思った。
彼のやり方は、とても合理的だ。
「このバンを使え。患者が動かせる状態なら、中で治療するといい」
「どいてーーー! どくのよーーーー!」
バンの運転席でわたしは叫ぶ。ありがたいことにバンには拡声器がついていた。
「うおっ! 誰かと思ったら、聖女!」
顔見知りの兵士が叫ぶ。わたしは車の窓を開けた。
「そこをどきなさい! ひき殺されたいの!?」
「名誉の戦死以外はいやです」
「つべこべ言ってないでどくのよ! ブレーキはどのペダル?」
「左です。左の……わっ、それはアクセルだ!」
勝手に急発進したバンは、積み上げた柔らかい何かに乗り上げ、止まった。
だから言ったでしょ。
わたしは運転が下手なのよ。イツキ神殿外苑はとても広かったが、そこで運転することは固く禁じられていたし。
危ういところで身をかわした兵士が、わたしを運転席から引きずり出してくれた。
「ふう。助かったわ。横転するところだったわ。ぶつかったのが柔らかくてよかった」
「聖女……」
一瞬絶句し、兵士は続けた。
「これで戦友たちの死も無駄にならなかったというものです」
ぎょっとしてわたしは、車が乗り上げた山を見た。
それは、戦死者たちを積み上げた山だった。
狭い戦場を、わたしとゲンパク医師は駆け回って、怪我人の治療に専念した。
とにかく、赤いリボンを探す。見つけたら、敵味方関係なく、白魔法を施す。
その殆どは、動かせない重傷者だった。バンに運び込むことさえできない。
まさに野戦の状態で、わたしは必死に呪文を唱えた。
気がつくと、わたしの服は血だらけになっていた。白かったバンは泥だらけだ。
少しは運転に慣れたことだけが救いだ。少なくとも、生きた人を轢いたりはしていないし。
銃弾が飛び交い、血や肉がはじけ飛ぶ戦場は、凄まじかった。
もちろん、わたしやゲンパク医師も撃たれる可能性はあったのだが、衛生兵含め、誰も気にしなかった。
少なくともわたしたちは生きて動いている。
それが重要だった。
一人でも多く、救わねばならない。
目の色を変えて戦場を行き来するわたしたちを、しかし、銃撃してくる者はいなかった。ジパング軍にも。そして敵の中花国軍にも。
時折目の端に、ジパング兵と中花兵が戦闘を止め、わたしたちに敬礼しているのが映った。
わたしは聖女だ。怪我人の救済は当たり前の任務だ。存在意義でもある。
敵味方、双方から捧げられる敬意の籠った敬礼は、むしろゲンパク医師に向けられるべきだと思った。
あちこちに、傷ついた兵士らが、ある者は岩に寄りかかり、ある者は倒れ伏しているのが見える。
「聖女。君は車の運転ができるか?」
せかせかとゲンパク医師が問う。
「一応免許はありますけど……」
一度も運転したことがないと言おうとしたが、医師に遮られた。
「それは好都合。運転手に人員は割けないからな」
「はあ」
ま、なんとかなるでしょ。運転ぐらい。
ゲンパク先生が説明を始めた。
「衛生兵らが戦場を駆けまわって、怪我人にリボンをつけている。死に瀕した重傷者には赤、その次が黄色、緑、青の順だ」
「ラベリングですね?」
わたしが問うと、医師は頷いた。
「そうだ。君のやり方だ。重傷者から順に診ていく。敵味方は関係ない」
「え? 敵兵も治療するのですか?」
驚いた。再び医師が頷く。
「見るのはリボンの色だけだ。軍服の色ではない。それとも、神の御わざとやらは、ジパング人にしか効かないものなのか?」
「そんなことはありません」
憤然とわたしは答えた。神を侮辱された気がしたのだ。
「よかろう。君は赤いリボンを優先して診てくれ。黄色から下は俺が引き受ける」
「わかりました」
この医師に従おうとわたしは思った。
彼のやり方は、とても合理的だ。
「このバンを使え。患者が動かせる状態なら、中で治療するといい」
「どいてーーー! どくのよーーーー!」
バンの運転席でわたしは叫ぶ。ありがたいことにバンには拡声器がついていた。
「うおっ! 誰かと思ったら、聖女!」
顔見知りの兵士が叫ぶ。わたしは車の窓を開けた。
「そこをどきなさい! ひき殺されたいの!?」
「名誉の戦死以外はいやです」
「つべこべ言ってないでどくのよ! ブレーキはどのペダル?」
「左です。左の……わっ、それはアクセルだ!」
勝手に急発進したバンは、積み上げた柔らかい何かに乗り上げ、止まった。
だから言ったでしょ。
わたしは運転が下手なのよ。イツキ神殿外苑はとても広かったが、そこで運転することは固く禁じられていたし。
危ういところで身をかわした兵士が、わたしを運転席から引きずり出してくれた。
「ふう。助かったわ。横転するところだったわ。ぶつかったのが柔らかくてよかった」
「聖女……」
一瞬絶句し、兵士は続けた。
「これで戦友たちの死も無駄にならなかったというものです」
ぎょっとしてわたしは、車が乗り上げた山を見た。
それは、戦死者たちを積み上げた山だった。
狭い戦場を、わたしとゲンパク医師は駆け回って、怪我人の治療に専念した。
とにかく、赤いリボンを探す。見つけたら、敵味方関係なく、白魔法を施す。
その殆どは、動かせない重傷者だった。バンに運び込むことさえできない。
まさに野戦の状態で、わたしは必死に呪文を唱えた。
気がつくと、わたしの服は血だらけになっていた。白かったバンは泥だらけだ。
少しは運転に慣れたことだけが救いだ。少なくとも、生きた人を轢いたりはしていないし。
銃弾が飛び交い、血や肉がはじけ飛ぶ戦場は、凄まじかった。
もちろん、わたしやゲンパク医師も撃たれる可能性はあったのだが、衛生兵含め、誰も気にしなかった。
少なくともわたしたちは生きて動いている。
それが重要だった。
一人でも多く、救わねばならない。
目の色を変えて戦場を行き来するわたしたちを、しかし、銃撃してくる者はいなかった。ジパング軍にも。そして敵の中花国軍にも。
時折目の端に、ジパング兵と中花兵が戦闘を止め、わたしたちに敬礼しているのが映った。
わたしは聖女だ。怪我人の救済は当たり前の任務だ。存在意義でもある。
敵味方、双方から捧げられる敬意の籠った敬礼は、むしろゲンパク医師に向けられるべきだと思った。
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