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革命の聖女
9 フジカワの合戦 2
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「聖女! こちらへ!」
衛生兵が赤いリボンを振りかざしている。
「すぐ行くわ!」
わたしはバンに飛び乗った。
あんな風に呼ぶからには、重傷者がいるに違いない。
急いでいたわたしは、運転席に腰を下ろす間もなく、右足で思いっきりペダルを踏んだ。
「あれ?」
走らない。
左足の下に何か……ブレーキだ。
わたしは、右足でアクセルペダルを、左足でブレーキペダルを踏んでいた。
「あらら、わたしとしたことが」
慌てて左足を離す。
車はフルスロットルで前方へ飛び出した。
「うおぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!」
聖女にあるまじき雄叫びを上げてしまったけど、仕方がない。いや、もしかしたら、周囲にいた兵士たちの叫び声だったのかもしれない。そうであることを祈る。
凄まじい勢いで車が前進している。
「どいてーーーーっ! お願いだから、どいてぇーーーーーーっ!」
悲鳴のように叫び続ける。
ブレーキを踏むという考えは頭に浮かばなかった。というか、左のペダルのせいで(正確にはペダルから足を離したせい、だが)、このような仕儀に立ち至ってしまったと、体が認識しているのだ。つまり、もう二度とペダルなんか踏んじゃダメ、と体が警告している。
そして当然のように、右足は固まったようになっている。アクセルを踏んだまま、ぴくりとも動ず、上へあげることができない。
もう、人にぶつからないようにハンドル操作をするのでせいいっぱいだった。
けど、高速で走る車を、ハンドルで操ろうとしてはいけない。盛大にタイヤが横滑りし、わたしはフジカワに突っ込んでしまった。
ばさばさばさ。
驚いた水鳥が、大量に飛び上がっていく。
タイヤが川底の水藻に絡め取られたのだろうか。ようやく車はストップした。同時にエンジン音も止まった。
「聖女!」
遠くで誰かが叫んだのが聞こえた。
「しっ!」
その誰かを別の誰かが諫めた。
「援軍だ! 西からわが軍に、援軍が来たぞーーーっ!」
同じ声が力強く叫ぶ。
「コジヒ総司令官! 聖女をダシにするなんて。この、人でなし!」
怒声と共に、水を蹴り分けるばしゃばしゃという音が近づいてくる。
「大丈夫か、聖女! まさか死んじゃいねえだろうな」
空いた窓から顔が覗く。ノギ准将だった。言った本人の方が、まるで死人のように青ざめた顔をしている。
「い、生きてます……」
かろうじてわたしは答えた。
よろよろと運転台から外へ出た。車は川底の岩に乗り上げていたので、危うく水の中に落ちそうになったのを、ノギが支えた。
「どこへいくんだ、聖女」
「衛生兵のところに決まってます。あそこで赤いリボンを振っている」
衛生兵はリボンを振ってはいなかった。あんぐりと口を開けてこちらを見ている。わたしが手を振り返すと、ようやく我に返ったようだ。
「全くあんたって子は」
呆れたようにノギが首を横に振っている。
「自分より怪我人優先か?」
「とりあえずわたしは、元気で動けます」
余計なお世話だとわたしは思った。
敵は水鳥の羽音を聞いて、ジパング軍に援軍が来たと勘違いした。私の車が川に突っ込んだせいで水鳥が飛び立つのを見て、コジヒ総司令官が機転を利かせ、援軍が来たと叫んだからだ。
中花国軍の司令官が采配を振り、撤退の合図をした。すみやかに、敵は、フジカワから引き上げて行った。
「お前なあ。俺のことを人でなしはないだろう、人でなしは!」
愚図愚図とコジヒ総司令官が文句を言っている。
「あの状態で、水鳥の羽音を援軍の音だなんて、良く言えましたね、総司令官。聖女は怪我をしてたかもしれないんですよ?」
ノギ准将はひどく怒っているようだ。
「使えるものは何でも使え、さ。士官学校で習わなかったか?」
「習いませんでした!」
「不勉強だなあ。まあ、いいじゃないか。聖女は無事だったわけだし」
それはその通りだった。わたしはかすり傷ひとつ、負っていなかった。きっと神の加護があったに違いない。
ただ、医療班のバンを一台、廃車にしてしまったが。
トオトウミまで逃げた敵軍から、大使がやってきた。
ジパング国軍との間で休戦協定が結ばれ、中花軍はいったん、祖国へ引き上げて行った。
衛生兵が赤いリボンを振りかざしている。
「すぐ行くわ!」
わたしはバンに飛び乗った。
あんな風に呼ぶからには、重傷者がいるに違いない。
急いでいたわたしは、運転席に腰を下ろす間もなく、右足で思いっきりペダルを踏んだ。
「あれ?」
走らない。
左足の下に何か……ブレーキだ。
わたしは、右足でアクセルペダルを、左足でブレーキペダルを踏んでいた。
「あらら、わたしとしたことが」
慌てて左足を離す。
車はフルスロットルで前方へ飛び出した。
「うおぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!」
聖女にあるまじき雄叫びを上げてしまったけど、仕方がない。いや、もしかしたら、周囲にいた兵士たちの叫び声だったのかもしれない。そうであることを祈る。
凄まじい勢いで車が前進している。
「どいてーーーーっ! お願いだから、どいてぇーーーーーーっ!」
悲鳴のように叫び続ける。
ブレーキを踏むという考えは頭に浮かばなかった。というか、左のペダルのせいで(正確にはペダルから足を離したせい、だが)、このような仕儀に立ち至ってしまったと、体が認識しているのだ。つまり、もう二度とペダルなんか踏んじゃダメ、と体が警告している。
そして当然のように、右足は固まったようになっている。アクセルを踏んだまま、ぴくりとも動ず、上へあげることができない。
もう、人にぶつからないようにハンドル操作をするのでせいいっぱいだった。
けど、高速で走る車を、ハンドルで操ろうとしてはいけない。盛大にタイヤが横滑りし、わたしはフジカワに突っ込んでしまった。
ばさばさばさ。
驚いた水鳥が、大量に飛び上がっていく。
タイヤが川底の水藻に絡め取られたのだろうか。ようやく車はストップした。同時にエンジン音も止まった。
「聖女!」
遠くで誰かが叫んだのが聞こえた。
「しっ!」
その誰かを別の誰かが諫めた。
「援軍だ! 西からわが軍に、援軍が来たぞーーーっ!」
同じ声が力強く叫ぶ。
「コジヒ総司令官! 聖女をダシにするなんて。この、人でなし!」
怒声と共に、水を蹴り分けるばしゃばしゃという音が近づいてくる。
「大丈夫か、聖女! まさか死んじゃいねえだろうな」
空いた窓から顔が覗く。ノギ准将だった。言った本人の方が、まるで死人のように青ざめた顔をしている。
「い、生きてます……」
かろうじてわたしは答えた。
よろよろと運転台から外へ出た。車は川底の岩に乗り上げていたので、危うく水の中に落ちそうになったのを、ノギが支えた。
「どこへいくんだ、聖女」
「衛生兵のところに決まってます。あそこで赤いリボンを振っている」
衛生兵はリボンを振ってはいなかった。あんぐりと口を開けてこちらを見ている。わたしが手を振り返すと、ようやく我に返ったようだ。
「全くあんたって子は」
呆れたようにノギが首を横に振っている。
「自分より怪我人優先か?」
「とりあえずわたしは、元気で動けます」
余計なお世話だとわたしは思った。
敵は水鳥の羽音を聞いて、ジパング軍に援軍が来たと勘違いした。私の車が川に突っ込んだせいで水鳥が飛び立つのを見て、コジヒ総司令官が機転を利かせ、援軍が来たと叫んだからだ。
中花国軍の司令官が采配を振り、撤退の合図をした。すみやかに、敵は、フジカワから引き上げて行った。
「お前なあ。俺のことを人でなしはないだろう、人でなしは!」
愚図愚図とコジヒ総司令官が文句を言っている。
「あの状態で、水鳥の羽音を援軍の音だなんて、良く言えましたね、総司令官。聖女は怪我をしてたかもしれないんですよ?」
ノギ准将はひどく怒っているようだ。
「使えるものは何でも使え、さ。士官学校で習わなかったか?」
「習いませんでした!」
「不勉強だなあ。まあ、いいじゃないか。聖女は無事だったわけだし」
それはその通りだった。わたしはかすり傷ひとつ、負っていなかった。きっと神の加護があったに違いない。
ただ、医療班のバンを一台、廃車にしてしまったが。
トオトウミまで逃げた敵軍から、大使がやってきた。
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