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革命の聖女
12 聖女を守る楯 1
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「よかった。まだここにいた」
テントの垂れ幕を割って、中に滑り込んできた者たちがいた。ノギとヨシツネだ。
最初に足を踏み込んだヨシツネが、油断なくテントの中を見回す。
「あっ。聖女の部屋に男性が入ってはいけません」
慌てて私は制した。
「そんなことを言ってる場合か!」
ノギが一喝する。
「派遣議員のやつら、あんたを首都へ連れ帰るつもりだ。悪意ある密告で、無実の人間が大勢処刑されたのは知っているだろう? あんた、処刑されちまうぜ」
「それが国民の意志だとしたら」
父も母も、臆することなく死に赴いた。母など、つい足を踏んでしまった処刑人に謝罪までしたという。
わたしも、両親のように毅然として死に向かいたいと思う。
そこには、密かな希望もあった。死んだら、先に逝った家族と再会できるかもしれない。
「何を馬鹿なことを! いいですか、聖女。ここの軍からも、代々の司令官が無実の罪で逮捕され、処刑されてきました。わずか5年の間に4人の総司令官が殺されたんですよ? 総司令官だけじゃない。数えきれないくらいの将校達が無実の罪を疑われ、処刑されました」
ヨシツネが割って入る。わたしは愕然とした。
「そんな……。だって、国を護った戦士たちでしょう?」
「理由なんてなんでもいいのです。わずか一度の敗戦、それは、味方の士気を指揮官自らが喪失させたせいだ、とか、甚だしきに至っては、司令官自らが敵と密通していたからだとか、証拠もないのに決めつけられて。勇敢で誠実な彼らは、潔白のまま、処刑されたのです」
なんてことだろう。
将校達は、唯々諾々と死に赴いたというのか。政府の臆病者から名誉を傷つけられ、毅然としてその侮辱に対抗しようとして。
私の両親のように。
「わたくし、せいいっぱい醜く死んでいきますわ」
死を美談にしてはいけないと、私は思った。死とはこんなに醜く恐ろしいものだと、それを与えた者どもにしっかりと教え込まなければ。
「処刑人の手に噛みつき、髪を振り乱し、世界中を呪いながら死んでいきますわ」
「聖女……」
ノギとヨシツネが顔を見合わせた時だった。
「安心しな、聖女」
「俺達が守るべ。あんたの楯になったる」
「派遣議員のやつらに、決して渡しはしねえから」
どやどやと大勢の兵士達が、テントの中になだれ込んできた。
「まあ、皆さん……」
「神の花嫁とか男子禁制とかは、なしだぜ」
前歯の欠けた兵士が笑った。
「俺ら、あんたの楯だから」
「ここが市民アオイのテントだな」
鼻にかかった首都のアクセントが聞こえた。
「市民アオイ。貴女には、母の実家中花国との密通容疑がかけられている。ここを出て、すみやかに首都の裁判所に出頭せよ」
彼らにとって、もはやわたしは、王女でも聖女ではないと言いたいのだろう。しきりと「市民」を連呼している。
しかし王女はともかく、聖女としての能力は、生涯続く。それを剥奪できるのは、ミエの神だけだ。
「トーキョーの裁判所になんか行ったらいかん。それこそ処刑台へ一直線だ」
ノギが囁いた。
「出て来きなさい、市民アオイ。言いたいことがあるのなら、裁判官の前で証言するといい」
「裁判なんか行われるものか。即死刑に決まってる。王族っていうだけでアウトだろ。つか、中花国との密通ってなんだよ。」
ヨシツネがつぶやく。
「出て来ぬというのなら、こちらから参りますぞ」
「勝手にしろ」
ノギが吐き捨てたのと、凄まじい風圧でテントが吹き飛ばされたのは同時だった。
「うわっ!」
思わず蹲ったわたしの上に、ノギとヨシツネが覆いかぶさって来る。
「いくらなんでも、おふたかた、男性が神の花嫁に触れるような真似は……」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
「怪我したいのか!」
二人から同時に怒鳴られた。
テントの垂れ幕を割って、中に滑り込んできた者たちがいた。ノギとヨシツネだ。
最初に足を踏み込んだヨシツネが、油断なくテントの中を見回す。
「あっ。聖女の部屋に男性が入ってはいけません」
慌てて私は制した。
「そんなことを言ってる場合か!」
ノギが一喝する。
「派遣議員のやつら、あんたを首都へ連れ帰るつもりだ。悪意ある密告で、無実の人間が大勢処刑されたのは知っているだろう? あんた、処刑されちまうぜ」
「それが国民の意志だとしたら」
父も母も、臆することなく死に赴いた。母など、つい足を踏んでしまった処刑人に謝罪までしたという。
わたしも、両親のように毅然として死に向かいたいと思う。
そこには、密かな希望もあった。死んだら、先に逝った家族と再会できるかもしれない。
「何を馬鹿なことを! いいですか、聖女。ここの軍からも、代々の司令官が無実の罪で逮捕され、処刑されてきました。わずか5年の間に4人の総司令官が殺されたんですよ? 総司令官だけじゃない。数えきれないくらいの将校達が無実の罪を疑われ、処刑されました」
ヨシツネが割って入る。わたしは愕然とした。
「そんな……。だって、国を護った戦士たちでしょう?」
「理由なんてなんでもいいのです。わずか一度の敗戦、それは、味方の士気を指揮官自らが喪失させたせいだ、とか、甚だしきに至っては、司令官自らが敵と密通していたからだとか、証拠もないのに決めつけられて。勇敢で誠実な彼らは、潔白のまま、処刑されたのです」
なんてことだろう。
将校達は、唯々諾々と死に赴いたというのか。政府の臆病者から名誉を傷つけられ、毅然としてその侮辱に対抗しようとして。
私の両親のように。
「わたくし、せいいっぱい醜く死んでいきますわ」
死を美談にしてはいけないと、私は思った。死とはこんなに醜く恐ろしいものだと、それを与えた者どもにしっかりと教え込まなければ。
「処刑人の手に噛みつき、髪を振り乱し、世界中を呪いながら死んでいきますわ」
「聖女……」
ノギとヨシツネが顔を見合わせた時だった。
「安心しな、聖女」
「俺達が守るべ。あんたの楯になったる」
「派遣議員のやつらに、決して渡しはしねえから」
どやどやと大勢の兵士達が、テントの中になだれ込んできた。
「まあ、皆さん……」
「神の花嫁とか男子禁制とかは、なしだぜ」
前歯の欠けた兵士が笑った。
「俺ら、あんたの楯だから」
「ここが市民アオイのテントだな」
鼻にかかった首都のアクセントが聞こえた。
「市民アオイ。貴女には、母の実家中花国との密通容疑がかけられている。ここを出て、すみやかに首都の裁判所に出頭せよ」
彼らにとって、もはやわたしは、王女でも聖女ではないと言いたいのだろう。しきりと「市民」を連呼している。
しかし王女はともかく、聖女としての能力は、生涯続く。それを剥奪できるのは、ミエの神だけだ。
「トーキョーの裁判所になんか行ったらいかん。それこそ処刑台へ一直線だ」
ノギが囁いた。
「出て来きなさい、市民アオイ。言いたいことがあるのなら、裁判官の前で証言するといい」
「裁判なんか行われるものか。即死刑に決まってる。王族っていうだけでアウトだろ。つか、中花国との密通ってなんだよ。」
ヨシツネがつぶやく。
「出て来ぬというのなら、こちらから参りますぞ」
「勝手にしろ」
ノギが吐き捨てたのと、凄まじい風圧でテントが吹き飛ばされたのは同時だった。
「うわっ!」
思わず蹲ったわたしの上に、ノギとヨシツネが覆いかぶさって来る。
「いくらなんでも、おふたかた、男性が神の花嫁に触れるような真似は……」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
「怪我したいのか!」
二人から同時に怒鳴られた。
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