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革命の聖女
16 臆病者?
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大変なことが起った。ノギ准将が逮捕された。
彼は、わたしを迎えに、というか、さらいにミエまで来た。その事実が曲解され、彼は、神の信奉者だと決めつけられたのだ。
革命は神を否定した。それなのに革命政府に逆らい、神の魔術に縋ろうとした。ノギ准将は、革命の戦士にあるまじき臆病者である……。
「ノギ准将は臆病などではないわ」
憤慨してわたしは叫んだ。
「そこだけは違う。このような侮辱を、……政府は彼に謝罪しなくてはなりません」
どこに怒りをぶつけていいのか、わたしにはわからなくなっていた。
ノギ准将が逮捕? ジパングの為に戦う、勇敢な戦士が?
「僕もそう思います。この軍に臆病者はいない」
ヨシツネが一緒になって怒っている。
夜間、歩哨に立っていたノギは、近寄って来た政府の派遣議員により、密かに逮捕されてしまった。あのノギがおとなしく逮捕されるわけがないから、不意を衝かれて襲われ、気絶させられた挙句、拉致されたのだろうと、軍の将校達は言っている。
気絶……。
ショックだった。わたしのほうが気絶しそうだ。ノギ准将は、怖がりはしなかったろうが、さぞや痛かっただろう。打ち所が悪くて、もっとヘンになってしまったかもしれない。
近くに出待ちの女の子でもいれば大騒ぎになったろうに、生憎彼をオシと崇めるコはいない。警護の手薄な場所だったので、盾になって守ってくれる兵士もいなかった。
ノギがいなくなったのがわかったのは、引き継ぎの時だった。時すでに遅く、ノギは、首都へと送致された後だった。
怒りと、それに申し訳なさで、臓腑がよじれるようだ。これは、わたしを逮捕し損ねた派遣議員たちの仕返しであることは明らかだ。
「まずいな。このままでは、ノギは処刑されてしまうぞ」
コジヒ司令官が落ち着きなく歩き回っている。
「なんとか……なんとか助け出さねば」
「一番早い車を貸してください。わたくし、首都へ参ります」
わたしが申し出ると、ヨシツネとコジヒはぎょっとしたように顔を見合わせた。
「僕が運転します」
慌てたようにヨシツネが言う。
「ダメだ。お前は軍人だ。今、軍を動かしたら、大変なことになる」
コジヒが止める。
革命政府に逆らえば、軍は解体の憂き目に遭うだろう。総司令官のコジヒを始め、指揮官たちは悪くすれば処刑、よくても停職は免れない。
そうしたら誰が軍の指揮を執るのか。
今は、戦闘はないが、休戦期間であるだけだ。すぐに中花国との戦争が再開される。そうしたら、いったい誰が、国を護るのか。
滔々とコジヒが語る。まるで自分に言い聞かせているようだ。
なすすべもなく部下を奪われ、彼はどれだけ傷ついていることだろう。気の毒で、聞いていられない。
思わず私は口を出した。
「あなた方がいなくなったら、ジパングは、敗戦あるのみです。そんなこともわからないほど、革命政府の連中は愚かなんですの!?」
「はい。やつらは戦争には完全にシロートです」
コジヒが答える。
わたしはむかっとした。
「そのシロートが、首都から軍に命令してきやがるんですの?」
「そして、経費削減の名のもとに、給料はおろか、食料、武器の補給さえ、滞らせている」
ヨシツネが付け加える。
「僕、たった今から、休暇を取ります」
「なに?」
「聖女と一緒に、トーキョーへ行きます。ノギ准将を奪還しに!」
怒りは、司令部中に広がっていった。
「俺も、休暇を取るぞ!」
部屋の隅から声が上がった。
「俺もだ!」
別の将校も名乗る。
「すぐに出発だ。いいか。遅れるなよ」
ヨシツネが頷く。そうだ。ノギが処刑されてからでは遅すぎる。
「お前ら……」
目頭を揉み、コジヒが言った。
「ヘリを貸そう。輸送機も使っていいぞ」
彼は、わたしを迎えに、というか、さらいにミエまで来た。その事実が曲解され、彼は、神の信奉者だと決めつけられたのだ。
革命は神を否定した。それなのに革命政府に逆らい、神の魔術に縋ろうとした。ノギ准将は、革命の戦士にあるまじき臆病者である……。
「ノギ准将は臆病などではないわ」
憤慨してわたしは叫んだ。
「そこだけは違う。このような侮辱を、……政府は彼に謝罪しなくてはなりません」
どこに怒りをぶつけていいのか、わたしにはわからなくなっていた。
ノギ准将が逮捕? ジパングの為に戦う、勇敢な戦士が?
「僕もそう思います。この軍に臆病者はいない」
ヨシツネが一緒になって怒っている。
夜間、歩哨に立っていたノギは、近寄って来た政府の派遣議員により、密かに逮捕されてしまった。あのノギがおとなしく逮捕されるわけがないから、不意を衝かれて襲われ、気絶させられた挙句、拉致されたのだろうと、軍の将校達は言っている。
気絶……。
ショックだった。わたしのほうが気絶しそうだ。ノギ准将は、怖がりはしなかったろうが、さぞや痛かっただろう。打ち所が悪くて、もっとヘンになってしまったかもしれない。
近くに出待ちの女の子でもいれば大騒ぎになったろうに、生憎彼をオシと崇めるコはいない。警護の手薄な場所だったので、盾になって守ってくれる兵士もいなかった。
ノギがいなくなったのがわかったのは、引き継ぎの時だった。時すでに遅く、ノギは、首都へと送致された後だった。
怒りと、それに申し訳なさで、臓腑がよじれるようだ。これは、わたしを逮捕し損ねた派遣議員たちの仕返しであることは明らかだ。
「まずいな。このままでは、ノギは処刑されてしまうぞ」
コジヒ司令官が落ち着きなく歩き回っている。
「なんとか……なんとか助け出さねば」
「一番早い車を貸してください。わたくし、首都へ参ります」
わたしが申し出ると、ヨシツネとコジヒはぎょっとしたように顔を見合わせた。
「僕が運転します」
慌てたようにヨシツネが言う。
「ダメだ。お前は軍人だ。今、軍を動かしたら、大変なことになる」
コジヒが止める。
革命政府に逆らえば、軍は解体の憂き目に遭うだろう。総司令官のコジヒを始め、指揮官たちは悪くすれば処刑、よくても停職は免れない。
そうしたら誰が軍の指揮を執るのか。
今は、戦闘はないが、休戦期間であるだけだ。すぐに中花国との戦争が再開される。そうしたら、いったい誰が、国を護るのか。
滔々とコジヒが語る。まるで自分に言い聞かせているようだ。
なすすべもなく部下を奪われ、彼はどれだけ傷ついていることだろう。気の毒で、聞いていられない。
思わず私は口を出した。
「あなた方がいなくなったら、ジパングは、敗戦あるのみです。そんなこともわからないほど、革命政府の連中は愚かなんですの!?」
「はい。やつらは戦争には完全にシロートです」
コジヒが答える。
わたしはむかっとした。
「そのシロートが、首都から軍に命令してきやがるんですの?」
「そして、経費削減の名のもとに、給料はおろか、食料、武器の補給さえ、滞らせている」
ヨシツネが付け加える。
「僕、たった今から、休暇を取ります」
「なに?」
「聖女と一緒に、トーキョーへ行きます。ノギ准将を奪還しに!」
怒りは、司令部中に広がっていった。
「俺も、休暇を取るぞ!」
部屋の隅から声が上がった。
「俺もだ!」
別の将校も名乗る。
「すぐに出発だ。いいか。遅れるなよ」
ヨシツネが頷く。そうだ。ノギが処刑されてからでは遅すぎる。
「お前ら……」
目頭を揉み、コジヒが言った。
「ヘリを貸そう。輸送機も使っていいぞ」
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