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革命の聖女
17 デモ行進
しおりを挟む将校と兵士たちの大群が、トーキョー近郊の飛行場に着陸した。
結局、ほぼ全軍が、ノギ奪還に名乗りを上げた。だが、それでは駐屯地の防衛がおろそかになるということで、くじ引きで減らされたのだ。
不正をしてなんとか当たりを引こうとする者、賄賂を贈って当たりくじを買おうとするもの(これはうまくいかなかった)がいて、大混乱のくじ引きだった。
「ここから先は、軍用機ではいけない。パレードだ!」
「デモと言え、デモと!」
私服姿の兵士達が、ばらばらと歩き出す。いつものように揃って歩くと、すぐに軍隊だとバレてしまうから。
「聖女。何をそんなとこ歩いてるんです。貴女が先頭です」
「えっ、でも……」
人前に立つのは苦手だ。目立つのは苦痛でしかない。
「ノギを救う為です」
「わかった」
列の先頭に私は立った。大勢を従えて歩いて行く。こんな時だけど、とても誇らしい。
「おや、何の行列だい?」
人参畑のおじちゃんが声を掛ける。
「罪なき人が逮捕されたのを、奪還に行くのだ」
私のすぐ後ろを歩いていた大柄な大尉が答える。
「なら、俺も行く」
「私も」
コマツナを収獲していたおばちゃんがエプロンを外す。
パン工場から、作業員が大勢出てきた。
「革命が起こっても、相変わらず非正規なんだよね、俺ら」
コンビニの店員が外に出てきて目を細める。
「この年になっても働かねばならないとは。ワンオペの深夜勤務で過労死しそうじゃ」
今日が初めてのシフトだという、若いバイトもいた。
「おやつのお菓子ね。1ヶ全部食べるのが夢だったの。だっていつも妹と半分こだったから。やっとバイトできるようになって、さあ、食べるぞって思ったら、小さくなってんじゃん。なにこれ。子どもの頃に食べてた半分と、同じ大きさじゃん!」
「なんだこれは。革命前と、何も変わらないじゃないか」
先を歩く兵士たちの間から声が上がった。
「何のために俺達は戦ってきたんだ? 戦争をすれば国が良くなるのではなかったか」
「むしろ悪くなっていないか? 徴兵制で人が取られ、年寄りや子どもまでもが働かされている。彼らは当然、バイトか非正規だ」
「いったい何のために達は敵を殺してきたのだ?」
「死んでいった戦友たちはどうなる!」
「死ぬのか? デモについて行くと死ぬのか?」
途中からついてきた人たちの中から、心配そうな声が上がった。
「死なないよ。ここに聖女がいるから!」
ヨシツネが叫び返す。
「聖女?」
「聖女がいるのか!」
「神は、死んでいなかったのだな!」
「皆さん!」
ヨシツネに袖を引かれ、拡声器を渡された。とりあえず私は叫んだ。が、後が続かない。何を言っていいかわからず、わたしは途方に暮れた。
「聖女、何か言って」
ヨシツネがつつく。
「でも、何を?」
「なんでもいいから。みんな待ってる!」
それでわたしは言った。
「揚げた玉ねぎ、最高!」
「聖女は揚げた玉ねぎ派だったのか!」
「ショック! 俺は新玉サラダ派なのに」
「実は、炊飯器でコメと一緒に炊くとおいしいって、知ってた?」
がやがやと声があがる。
「聖女! まとめて!」
ヨシツネが急かす。
「飴色玉ねぎが好きです。飴色玉ねぎは主役になりません。けれど、わたしにはもはや、飴色玉ねぎの入らないカレーなんて考えられない! ノギ准将は、そういう人です」
一息に言っていのけた。
「?」
パレードに参加した全員の頭にクエッションマークが点灯したのが見えた気がした。
大声で私は叫んだ。
「だから、ノギ准将を救いましょう!」
「ノギ?」
「誰だ。そりゃ」
「偉い将軍か?」
「聞いたこと無いな」
「誰だっていい。革命政府のやり方は間違ってる。そいつを助け出そうじゃないか!」
デモ隊の心がひとつになった瞬間だった。
◇
列は伸びていく一方だった。
ムサシノ、スギナミと通って首都を走る環状線内に入るころには、終わりはどこなのやら、把握できる者はいなくなった。
どこかの中学校から出てきた管弦楽部の部員達がフルートや太鼓を鳴らしながら、賑やかについてくる。歌い、踊りだす者もいて、祭りのような行列が、首都を西から東へと突き進んでいく。
その先頭には、一人の少女……かつて神の花嫁と崇められ、革命政府によりその地位を剥奪され、それでもなお、白魔法で国民を癒そうとする聖女アオイの姿があった。
◇
「全軍配置につけ。大砲用意!」
ユシマ聖堂に陣取り、革命政府に雇われた剣、即ち砲兵隊長ヒデヨシが命じる。
「隊長! 本当にこれを撃ち込むんですか?」
砲兵の一人が尋ねた。
「つべこべいうな。砲身、構え!」
砲兵隊は、散弾を撃とうとしていた。砲弾の中に釘が仕込まれていて、炸裂と同時に、辺り一面に飛び散る仕掛けだ。それを、人が密集する街中でぶっ放そうとしていた。
もうすぐこの下の幹線道路を、北から流れてきたデモ隊が通過するはずだ。
「できません!」
隊員から叫び声が上がった。
「なんだと! 命令に逆らうか!」
ヒデヨシの声が怒りに震えた。しかし、兵士らは動こうとしない。
「あのデモ隊の中には、自分のカノジョが!」
「うげ。俺の弟が手ぇ、振ってんぞ」
「うわあ、母ちゃんまで! 危ないから家でじっとしてろって言ったのに!」
「うるさい! 砲撃準備!」
麾下の大砲の砲身が、一斉に、隊長に向けられた。
あちこちから、デモ隊が集まってきた。散弾砲での砲撃に失敗し、革命政府は、ノギ准将の処刑を諦めた。
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