ピュアなカエルの恋物語

せりもも

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1章 ハーレム・ハーレム

6 ロンウィ将軍のハーレム

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 「気に入らない。気に入らないわ!」

馬が俺を嗅ぎまわっている。いや、馬じゃない。上半身が人間で、下半身が馬の「形の獣人」だ。

「新しい仲間よ、ルイーゼ」

 優しく諭すように言ったのは、人間の少女だった。彼女は椅子に座っていた。ロングスカートの裾が、床に、波打つように広がっている。
 大変な美少女だった。金髪に白い肌、茶色がかかった薄青い瞳は、透き通るようだ。

「私の名は、シャルロット。ケンタウロスのこの子は、ルイーゼよ。カエルさん、あなたは?」

「グルノイユ。バーバリアン公子だ」

どうせ通じまいと思ったが、礼儀正しく俺は答えた。

「あら、この国の小公子なのね!」

 驚いたことに、シャルロットには、俺の言葉が通じた。彼女は、人の姿をしている。何かの獣人が、発情して、人型になったのかもしれない。
 ハーレムというからには、いうまでもなく、あのロンウィに発情させられたのであって……、

 胸が悪くなった。


「敗戦国の領主の子よ」

 馬鹿にしたように、ルイーゼが嘶いた。
 上半身は人間なのに、下半身が馬だと、つい、嘶いてしまうものとみえる。

「新しいお仲間に失礼よ、ルイーゼ。さっきから、いったい、何が気に入らないというの?」

 咎めるようにシャルロットが諭すと、ルイーゼは再び、嘶いた。

「私たちのハーレムに入れるなんて。あなたは平気なの、シャルロット? ライバルが増えるのよ?」

 ひどい誤解だ。
 俺は、単なる戦争捕虜だ。ここには、副官のレイに放り込まれたのだ。
 俺がそう言うと、ケンタウロスのルイーゼは、鼻を鳴らした。

「だって、将軍の許可がなければ、ここには入れないはずよ? 入り口を宦官が守っているもの」
「か、かんがん……?」
「何を驚いているの? ハーレムにはつきものでしょ?」

 そこまで本格的なハーレムだったのか。
 軍の要塞にありながら。
 いったい、ロンウィって将軍は、どういうやつなんだ?


 ケンタウロスのルイーゼは、薄桃色の、光る素材のチュニックを着ていた。襟ぐりが深くえぐれていて、豊かな胸の谷間が見える。栗色の髪は柔らかくカールしており、浅黒い肌は健康的だ。

「大丈夫です、ルイーゼさん。俺はあなた方のライバルにはなりえませんから」

俺が言うと、ケンタウロスの美少女は、柳眉を逆立てた。

「そんなわけないでしょ! ロンウィ将軍の魅力に逆らえる人が、この世にいるわけないわ!」
「いや、俺、カエルですし?」
「いずれ人型になるくせに。キーーーーーーッ、悔しい!」

どうやら、下半身が馬であることは、ルイーゼにとって、大きなコンプレックスらしい。

「そんな風に言うもんじゃないわ。同じハーレムで暮らすのだから。仲良くしましょうね、グルノイユ」
 シャルロットがとりなす。

 シャルロットは、うちの姉さんより少し、年上のようだ。ルイーゼは、姉さんと同じくらいか。
 認めたくないが、2人とも、姉さんを上回る美少女ぶりで、いや、こんなことを言ったら、俺、姉さんに殺される……、


 「わーい、男の子が来た!」
窓の外に、小鳥が止まった。翡翠色の尾羽を持つ、きれいな鳥だ。
「仲間仲間!」

「あっ、こら、アミル、うるさい。あっちへお行き」
「やだね。ルイーゼこそ、牧場へ行けよ」
「まあ! ナマイキ! ここへいらっしゃい。踏みつけてやるから」
「やなこった」

鳥とケンタウロスの少女は、にぎやかに言い争っている。


 えと。
 ここにいるってことは、この鳥も、将軍のハーレムの住人か?
 姿はまだ鳥だけど、いずれ将軍は、この子とつもりなのか? 、人型になったら!


 「こんな乾燥したところにいて、辛くないかい?」

 唖然としていると、足元で声がした。茶色の小さな動物が、鼻をひくひくさせている。
 もぐらだ。
 将軍は、もぐらとも、つもりなんだ!

 もう、頭がおかしくなりそうだ。

「君は?」

尋ねる声が震えないようにするのが、せいいっぱいだった。

「ラフィー。僕に乗りなよ。水場へ連れてってあげる」

 この子も、雄だ。

「土の中を行くの?」

恐る恐る尋ねると、もぐらのラフィーは笑い出した。

「吸血鬼じゃないんだぜ? 陽の光くらい、へっちゃらさ」

 そこで俺は、ありがたく、その背に乗った。
 本当は、さっきから、肌がひりひりしてしようがなかったのだ。

「あら、どこへ行くの、ラフィー」

「キフル川。すぐ帰る」

キフル川は、ゴドヴィ河の支流だ。リュティス軍の要塞のすぐ近くを流れている。

「気をつけていくのよ」

シャルロットが気遣う。

「僕も! 僕も行く!」
「あ、お待ち、アミル!」
「やだね。待つもんか」

 鳥のアミルとケンタウロスのルイーゼは、まだ、もめている。
 俺を背に乗せ、もぐらのラフィーは、素晴らしい勢いで走り出した。


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