上 下
20 / 28

20 ヴァーサ公の評価

しおりを挟む




 幸いにも、グスタフ・ヴァーサは、フランツの評価を落とすようなことはしなかった。報告書に、ライヒシュタット公の技量を褒めたたえた後、彼は、健康状態も申し分ないと、書き添えた。
 当時、フランツは、体調を崩しがちだった。兵舎には、医師が出入りしていたというのに。
 けれど、彼は、訓練に邁進した。壁をよじ登ったり、寒い河原での演習にも、積極的に参加した。


 ……もし、もっと早く、軍務を諦めさせることができたのなら。
 ヴァーサ公が、フランツの健康状態に疑念を持ってくれたら。
 後々、ゾフィーはそう思わずにはいられなかった。
 もしかしたら、グスタフは、知っていたのかもしれない。自分の本当の恋敵は、ナポレオンの息子だったのだ、と。









 長男フランツ・ヨーゼフを授かり、ゾフィーは、未来の皇帝の、母となった。身の周りに、にぎやかに人が集まってきた。彼女は、自分が孤独から抜け出したことを悟った。
 忙しく、張りのある生活がやってきた。初めての妊娠、そして出産。ゾフィーは、幸せだった。

 一方で彼女は、フランツのことが心配だった。自分だけが、幸せのある方向へ進んでしまった。子どもと一緒に。

 ……「もし、僕が、戦火の洗礼を受けずに死んだら、僕の死後、最初に起こった戦争に、僕の柩を送り出してくれますか? 柩の上を飛び交う弾丸や、砲弾の炸裂音は、僕の骸に、この上もない慰めを、与えてくれるでしょうから」

 彼がそう言ったと、どこからともなく、ゾフィーの耳に入ってきた。
 彼の父、ナポレオンは、戦争が好きだった。その影響か、彼は、戦争に憧れていた面がある。
 しかし、この言葉は、あまりに悲しすぎた。柩という言葉は、不吉だった。
 演習ばかりで実務にもつけず、彼が、たったひとりで、憂愁の淵に残されたのかと思うと、ゾフィーは、たまらない気持ちになった。






しおりを挟む

処理中です...