全力でBのLしたい攻め達 と ノンケすぎる悪役令息受け

せりもも

文字の大きさ
2 / 41
1 悪役令息

2.クーデターではなく怨恨による暗殺

しおりを挟む
「おお、サハル、わが愛しの弟よ。よく帰って来た。無事か? 悪魔のようなあの女に、ひどいことはされなかったか?」

エメドラードの宮殿実家に帰ると、第一王子である兄のダレイオが出迎えた。王座から立ち上がり、近づいてきた。大きく広げられた腕の下を、俺は掻い潜って逃れた。
両腕が空を抱きしめ、兄はよろめいた。

おい。そんな馬鹿力で俺を抱きしめようとしたのかよ。

「あんな女ごときに、この俺が、なんかされるわけないだろ」
「だが、心配したぞ。サハル、お前、少し痩せたか」
心配そうに眉間が曇る。

ダレイオの肌は緑色だ。エメドラードでは、王位継承者の肌は、緑なのだ。
ちなみに、一般的なエメドラード人の肌は褐色に近い健康的な色をしている。どういうわけか俺の肌は白いのだが。病的な印象で、我ながらあまり好きではない。

「元々白かった肌が透けるように白くなって……そんなお前もまた……」
ダレイオは言葉を濁した。心配してくれているのだろうと、俺は思った。
「大丈夫だ。病気じゃねえから。部屋から出ない日が多くてな」
一応、王女の婚約者だったわけだから、監視がきつかったのだ。
「それより、なあ、ダレイオ。あんた、また、肌の緑が濃くなってねえか?」

さり気なくダレイオとの間に距離を置きつつ、俺は尋ねた。この兄は、接触過多なのだ。油断すると、肩や腰、下手をすると尻の辺りなど、あちこち触って来る。

正直、ダレイオからの接触は苦手だ。男同士だし、兄弟だから気にすることはないんだけど、なんとなく、愛玩動物にされているような気がする。

「ああ。前王をしいし奉ったからな」
「弑し……?」
「殺したのだよ」
「そっか。父さんを……。なんだって!?」

俺は驚いた。今ダレイオの奴、父を殺したって言わなかったか?

「そうだよ、愛しいサハル。お前をインゲレに嫁がせようとするなんて、父王は、頭がおかしくなったに違いないのだ。頭がおかしい者に、この国を統治させるわけにはいかない。そういうわけで俺は、父王を殺した」

超絶三段論法である。わけがわからない。
俺をインゲレへ送り込んだのは間違いだと、そこは認めてもいい。でも、それがどうして、前王の殺害へと繋がるのか。
しかも、自分の父親だぞ? 俺にとっても父親だが。つまりこれは……。

「ダレイオ、お前、クーデターを起こしたのか?」
「違う。個人的な恨みによる、単なる暗殺だ」
「はあ」
「臣民もみな、俺の味方をしたぞ」

それは単に、憑かれたようなダレイオの眼差しが怖かっただけでは……と言いたいところを、危うくこらえた。
いくら兄弟でも、言っていいことと悪いことがある。それくらいのことは弁えているつもりだ。

「だがお前は、俺が迎えをやる前に、自力で帰って来た。さすがはわが弟だ。愛しているよ、サハル」

再びダレイオが距離を詰めて来る。俺はじりじりと後じさった。

「逃げることはない。わが愛しの弟よ……」
「いや、兄さん、怖いから」
「都合のいい時だけ、兄と呼ぶな」

テーブルにぶつかり、俺は追い詰められた。にやりとダレイオが笑う。緑の両腕が伸ばされてきた。すかさず椅子の背を掴み、振り下ろした。
全くの脊髄反射だ。ほぼ何も考えずに、俺の体は動いていた。
椅子は木っ端みじんに砕け、ダレイオの両腕から血が噴き出した。

「あ……ごめん」
そこまでするつもりはなかったのに。

「何、気にすることはない。お前につけられた傷だと思うと、吹き出る血潮もまた、愛おしい」
「変態かよ」

それは確かにその通りだった。
言い忘れたが、肌が緑だけあって、ダレイオの血液も緑色だ。噴き上げられた緑色の血は、あっという間に治まり、それどころか、ぐしゃぐしゃになった傷の上に、みるみる新しい皮膚が再生されていく。

これが、エメドラード王の魔力なのだ。王は太陽と生命を司り、高度の白魔法を発現する。つまり、治癒魔法だ。
ゆえに、王は民の絶大な信頼を得ることができる。

ある意味、王は不死身だ。彼を殺すことができるものは、同じく緑の肌を有する者。つまり、王の後継者のみ。

同じ王族であっても、肌の白い俺には、王位継承権がない。ダレイオを傷をつけることはできても殺すことはできない。その傷も、ご覧の通り、あっという間に修復されてしまう。

「それはそうと、弟よ。長旅で疲れたであろう。酒を飲むがいい」

すっかり傷が治ったダレイオの手には、盃が握られていた。
かぐわしい酒の香りが漂ってくる。
思わず、喉が鳴る。
だが、ダレイオの酒だ。なんとなく不安を感じる。たとえば、毒が入っているとか? つい最近、父を殺したばかりだっていうし。

「何をためらっているのだ? お前を思って醸した、特別な酒だ。心地よく疲れを癒してくれるぞ」

 俺の為を思って醸した?
 もう、怪しさしかない。

「いや、今日は止しておくよ。疲れている時に酒なんか飲んだら、一発で寝ちまうからな」

両手を背中に回し、強い拒否の姿勢を見せる。
ダレイオが眉を顰めた。

「そのまま眠ってしまえばよいではないか。俺が添い寝をしてやろう」
「遠慮しとく」

大の男が二人で同じ寝床に寝るとか、想像するだに気色が悪い。
くどいようだが、男同士で何か起こるとは思えないけど。これもまたくどいけど、兄弟だけどな。

「それに俺、タビサにもまだ会ってないし」

タビサというのは、ダレイオの妃だ。
そして、彼女の妹が、俺の許嫁だ。
もとい、許嫁だった。
父王に強引に、インゲレへ送り込まれるまでは。

ダレイオがにやりと笑った。
「わかっている。タビサは口実であろう? エルナに会いたいのだな?」

エルナはタビサの妹だ。そして俺の……。

「え? まあ……」

さすがに俺は言葉を濁した。
だって、本心はどうであれ、形の上では俺は、彼女を捨てて、隣国の王女と結婚しようとしたわけだから。

「エルナなら息災だ。早速、会いに行くがいい」

引き留められるかと思ったが、意外とあっさりと、ダレイオは俺を送り出した。
やっぱり、タビサの名を出したのが良かったのだろうか。兄とタビサは、仲のいい夫婦だ。俺の目に映った二人は、いつだって、理想の夫婦だった。

「あ、サハル」
兄が呼び止めた。

「なんだ?」
「いや、何でもない」
「なんだよ……」
「エルナにあまりひどいことはするなよ」
「そんなことするわけないじゃないか!」

彼女を置き去りにしたのは俺だ。彼女が俺を引っ掻くことはあっても、俺が彼女に乱暴したりするわけがない。
ダレイオが意味不明なのは、今に始まったことではない。俺は振り返りもしなかった。だが、今に思えば、もっと深く追及すべきだった……。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,8時,12時,18時,20時に2話ずつ更新

王太子殿下は悪役令息のいいなり

一寸光陰
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼不定期連載となりました。 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...