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3 英雄トーナメント
4.第一試合
しおりを挟む大会予選は、3ブロックに分けて行われた。ブロックの全員が一つの競技場に入り、戦いが繰り広げられる。最後に生き残った者が、ブロックの勝者だ。
生き残るというのは、誇張でもなんでもない。武器は何でも許された。生死は問わない。要は勝ち残ればいいのだ。戦闘不能になった者から、離脱していく。そして、最後に残った一人が、次の戦いに臨むことになる。
ホライヨンは、第三ブロックだった。
既に第一・第二ブロックの勝者は決まっていた。残るは第三ブロックだけ。
会場は岩場になっていた。貴賓席は宙に浮いており、空から見下ろす形だ。貴賓席中央には王座もあるはずだが、生憎と雲がかかっていて、観客の姿は見えない。
張り詰めた空気の中、最終ブロックの戦闘が始まった。
開始直後から、まさに混乱のるつぼだった。
正統派の騎士は、剣で戦っていた。背後に大岩を背負い、後ろを固めたつもりだったのだろう。だが、その大岩から、石を持って飛び降りた男に頭を直撃され、あえなく退場となった。
岩場では馬は使えない。走るスピードも制限される。戦いは、早々に隣接戦になっていた。こうなると、弓矢はおろか、剣さえもあまり役に立たない。力自慢はハンマーを振り下ろし、あちこちで取っ組み合いが起きている。
ホライヨンは、一人で10人ほどを相手にしていた。どういうわけか、この10人は共闘し、ホライヨンに向かってくる。
「ようよう、俺と仲良くしておきゃよかったな」
先頭にたって突っ込んできた男がにやりと笑った。
その顔に見覚えがあった。
「あっ、お前、無銭飲食野郎!」
思わずホライヨンが叫ぶ。先日、屋台で菓子の代金を踏み倒そうとした男だ。
「金はちゃんと払った! 無銭飲食言うな。俺の名はロンダだ!」
「ふうん、名前があったのか」
「ないやつがいるか!」
「こいつらはお仲間か? 無銭飲食の?」
残る9人を見回し、ホライヨンが尋ねる。彼は落ち着き払っていた。
「だから、俺は、無銭飲食なんかしてない!」
喚くロンダを斥け、別の一人が口を出す。
「俺たちは、あんたより頭がいいんだよ。一人より二人、二人より三人が強い。こういう大会は、集団で戦う方がずっと有利なんだ」
ホライヨンは首を傾げた。
「だが、優勝者は一人だけだぞ?」
「その一人はちゃんと決めてある。じゃんけんで!」
あんぐりとホライヨンの口が開いた。
「じゃんけん? それでいいのか?」
「構わんさ。賞品は山分けだからな!」
思わず天を仰いだホライヨンの目が、偶然、王座の据えられた上空に向けられた。彼の目に、ひらひらと涼し気に翻る水色の、布のようなものが映った。
かぐわしい記憶が脳裏に瞬いた気がする。何かはわからない。だが、とても甘美で懐かしい……。
一瞬の隙を、敵は、見逃さなかった。
直近の一人が、ホライヨンに体当たりした。たまらず、ホライヨンは倒れる。その上に次々と、男たちがかぶさっていく。あっという間にホライヨンの上には6人の男が山積みになった。
「やった!」
てっぺんの男がガッツポーズをして、人の山を下りようとした時だ。
背後の土がポコッと崩れた。同時に、人の山も数十センチほど、下に沈んだ。
「わっ!
ガッツポーズをしたままだった男の頭を、背後から飛び立った何かが、軽く小突いた。軽くではあったが、男は前方に吹っ飛んだ。
「何っ!」
人の山の上から、次々と、男たちが吹き飛ばされていく。
「お前、なんでここに……」
下から二人目にいたロンダが叫ぶ。彼の現前には、ホライヨンが立っていた。
ロンダは自力で立ち上がった。一番下で気を失っていた仲間を横に転がした時に、彼の疑問は解けた。仲間の体が塞いでいた地面には、大きな穴が開いていた。
人の山に埋もれたホライヨンは、地面に穴を掘り、縦横の穴を通って、彼らの後方に出て来たのだ。
戦っていた者達が集まってきた。その中に、ロンダの仲間はいない。彼らはホライヨンに弾き飛ばされ、戦闘不能になっていた。
集まってきた敵も、ここまでの死闘で、ボロボロの状態だった。まともに立っているのは、ほんの少ししかいない。彼らは、ホライヨンとロンダに照準を定め、じりじりと間合いを詰めてくる。
最後の一人に残らなければ、勝利は掴めないからだ。
「地面を掘ったんだよ。君らが俺を沈めた後ろ側まで。そんなことより……」
まっさきに向かってきた男を、ホライヨンは、軽く投げ飛ばす。
「さっき、見たあの布は……」
きょろきょろ辺りを見回した。隙ありとばかりに飛び掛かって来る敵を、ろくに見もせず、平手で弾き飛ばす。
「あの布は、きっといい匂いがするに違いない。なぜだかわからないけど、俺にはわかるんだ」
「たわけたことを!」
ロンダが叫び、敵の一人を殴り倒した。
ホライヨンはその場から一歩も動いていなかった。夢見るような瞳で、上空を見上げている。そうしていながら、背後から襲ってきた敵を打ち倒す。彼としては、軽く肘を曲げただけだった。目は、上空の王座の辺りから離さない。
「あれは、とても素敵な布なんだ。いや、布じゃなくて中身が。それなのに、あんたたちが俺を埋めるから、見失っちゃったなじゃないか」
憤懣やるかたないといった風に、ホライヨンは、前から突っ込んできた男の襟首をつかんだ。ろくに力もこめずに投げ飛ばす。
大勢いた敵は、あっという間に一人になった。周りにはたくさんの敵、即ちトーナメント参加者が倒れている。
最後に残ったのは、ロンダだった。
「あんたは殺さない。でも、いつかこの落とし前は、きっちりつけてもらうからな」
怯え切ってがくがくと頷くロンダを、ホライヨンは遠くへ投げ捨てた。
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