竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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7 坊やはいくつ?

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 どうやらバートラフ少年は、わたしを自分の母親だと認めないぞと宣言しているらしい。パパとわたしの結婚なんて許さない、というわけだ。
 普通なら、自分のオシから、こんな扱いを受けたらショックだと思う。
 でも、わたしにはわかった。だって、見ればわかる。
 彼は照れてるんだ。
 このわたしの前で。
 ……幸せ。

「なに、わらってるんだよ!」
 小さなバートラフが怒っている、真っ赤になって、階段の上で地団駄踏んでいる。
 かっ、かわいい。
「おぎょうぎよくしろ、ってマティがいったからがんばったのに! ぼくは、お前なんか大っきらいだ!」

 「あなた」から「お前」になった。わたしへの親しみが増したのね。それとも、お行儀よくできなくなって、いらいらしてるのかしら。
 「大嫌い」って言うのは、うまく言葉が出ないからよ。ほんの軽い挨拶って感じ? わあわあ怒っているバートラフって、ほんと、チャーミング。

「わらうなよ! わらうなったら!」
「はいはい」
「まだわらってる!」
「もうわらってません」

 大真面目でわたしは請け合う。バートラフの真っ赤な頬が、ぷうーっとふくれた。
 やだ。可愛いったらありゃしない。
 もう、食べちゃいたい。

「きらい! あっちけ!」

「バートラフ様」
 厳粛な声で割り込んだのは、執事だった。
「皇妃様に対し、そのような失礼な態度をお取りになりますと、私としても皇帝陛下にご報告申し上げないわけには参りませぬぞ」
 とたんに、バートラフの口がぴたりと閉じた。
 半眼になって、わたしを睨む。

 あの。ぜんぜん怖くないんですけど。むしろ、長いまつ毛がチャーミングで、魅入られてしまいそう。
 わたしを脅すことができないと気がついたのか、ふいとバートラフは目をそらした。くるりと後ろを向き、全速力で階段を駆け上がっていく。

 「妃殿下」
 精一杯虚勢を張って走っていく小さな背中を、にまにましながら見送っているわたしに、執事が声をかけた。
「殿下のご無礼、どうぞお許しください」
くるっと振り返り、わたしは問う。
「『マティ』って、マティルドのこと? あなたのことね?」
「そ、そうでございますが」
たじたじと執事が答える。
「無礼なんて思ってないわ! 全然まったくよ!」

 彼は、なおも不安げだった。
「この件、どうか皇帝陛下にはご内密に」
「そもそもなんの無礼もなかったのだから、陛下にお話しすることなんかないわ」

 それにわたしは、ワッツァから相手にされてないしね。

「妃殿下はお優しくていらっしゃる」
 マティルドの目線が柔らいだ。
「バートラフ殿下があのような態度をお取りになるにはわけがあるのです」
「わけ? 聞かせて!」
 バートラフのことなら、どんな些細なことでも知りたい。
 執事は頷いた。
「妃殿下におかれましては、長旅でお疲れでしょう。お茶でもいかがですか?」

 この国に入ってから、人間らしい扱いを受けたのは初めてだ。
 温かい気持ちがこみあげきた。



 執事のマティルドが案内したのは、サン・ルームだった。太陽の光が満ち溢れていて、明るく暖かい。
 香り高いお茶が供された。テーブルには、クリームをかけたケーキが切り分けられている。甘い香りが疲れた体に染み渡るようだ。
 わたしがお茶を口に含むのを待って、マティルドは切り出した。

 「バートラフ殿下のお母上が、人間だということはご存知でしょう?」
気のせいか、彼は緊張しているように見える。
「ええ」
わたしは頷いた。

 竜の帝国ロシュフォイユにも、人間はいる。彼らは竜に使役されていることが多い。あるいは、辺境の地でひっそり暮らしているか。

「ジュリア様は、アガテ辺境伯の令嬢でした。山間の地で静かに暮らしておられたのですが、たまたま訪れたワッツァ陛下……その当時は王子でしたが……と恋に落ち、バートラフ殿下が生まれたのです」
「皇帝の女官は、陛下は、人間は相手にしないと言っていたわ」
「カミラですね」
苦虫を噛みつぶしたような顔になった。
「妃殿下のお迎えにまでついていって、まったく、あの娘は!」
「彼女は、皇帝の愛人ね?」

 だって、ワッツァが連れて来たのは、彼女一人だけだった。夜だって、ワッツァと一緒に寝室へ引き上げたし。
 マティルドは俯いて答えなかった。そうだと言っているようなものだ。
 いずれにしろ、ワッツァが竜人しか相手にしないというのは、カミラの嘘だとわかった。だって彼とジュリアさんとの間には、バートラフが生まれた。

 そして恐らくカミラは、わたしに敵意を持っている。敵意は言い過ぎなら、敵愾心てきがいしん? 
 竜人にとって結婚は意味がないかもしれないけど、愛人にとって、「正妻」しかも「王妃」はライバルだという事実は、人間と同じようだ。


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