【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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48 裏切り者バートラフ

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 メレンクール騎士団の剣が、いっせいにバートラフに向けられた。

「答えろ、この裏切り者め。聖騎士団で何をしていた? ワッツァのスパイをしていたのか!」

「ひどい! バートラフはそんな卑怯なことをしないわ!」

「お前は黙ってろ、デジレ。そもそもこいつが、竜の弱点について誤った情報を流すから、俺の軍は壊滅させられたんだぞ」

「それはわたしのせいよ! バートラフが話したことを、間違って受けて止めて、」

 膝頭ががくがく震えた。
 わたし。わたしが悪いんだ。バートラフが軽い気持ちで話したことを、切羽詰まった叔父に伝えたりしたから。

  たくさんの剣先が向けられているにも関わらず、バートラフは全く動じていない。

「首の下の鱗は竜の弱点であることは、間違いのない事実です。ただ、攻撃効果が発動するまでに時間がかかる」

「なんだと。この期に及んでまだそのような言い訳をするのか!」

「バートラフの言う通りだわ。首の鱗の下の管に気が巡っているって言ったら、ワッツァはひどく焦っていたもの。それに、わたしの言ったことが誤りだと知っていたら、バートラフはきっと、姿を現し、作戦を訂正したはずよ!」

「デジレ! まだ、たぶらかされているのか! こいつは、竜王の息子なんだぞ」

 すらりと叔父は剣を抜いた。ぬめるような刃が、月の光を浴びてぎらりと光る。
「軍を動かすまでもない。この俺が、成敗してくれるわ」

「叔父様、止めて!」
わたしはバートラフの前に立ち塞がった。
「バートラフは、父王を諫めたのよ。人間と戦争したらいけないって! あんなにワッツァを尊敬し、慕っていたというのに!」

 言いながら、わたしは泣きそうになった。

 彼なら、人間と竜の橋渡しになれると思った。尊敬するワッツァに蔑まれ、それでも彼は、父を正道に戻そうとした。それが難しいと知ると、父から離れ、聖女の騎士団に仲間入りした……。

「デジレ、そいつから離れろ。さもなければお前もただじゃ済まんぞ」

 なんてこと。
 物語の筋が完全に置き換わっている。
 聖女の騎士たちが彼を追いつめるのではなく、わたしの叔父、祖国の騎士団長が彼を殺そうとしている!

 静かに、バートラフはわたしを自分の後ろに押し戻した。

「首の鱗を狙うという同盟軍の作戦は、間違ってはいませんでした。それどころか、あの場合、唯一の有効な手段でした」
口を噤んだ。空を見上げ、静かに続ける。
「聖女の計画が時期尚早だという僕の考えは、変わっていません。ですが、その時が近づいたようです」

 空の遥か彼方から、ざわめきが伝わってきた。たくさんの生き物が、集まってくる気配がする。

「御覧なさい」

 それは、竜の群れだった。

「な……」

 叔父の剣がだらりと下がった。
 空を覆いつくさんばかりの竜たちが、ロシュフォイユ上空に厳かに浮かぶ浮島めがけて、天を滑空してくる。

 「デジレ! それに、フリート公爵も! よかった。ご無事だったんですね!」

 頭上から、よく知った声が降ってきた。

「セティ!」

 城の一番高い塔のてっぺんに、わたしの乳兄弟が仁王立ちしていた。

「デジレ、君の無事を信じていたよ! フリート公爵! 騎士団を取り戻されたんですね。よかった。間に合ったんですね!」

 聖騎士団に入ったセティは、バートラフ(バーサプランと名乗っていたらしいが)のことは知っているはずだ。けれどセティは、露骨に彼を無視した。

「セティウス・バーモント、聖女はどうした?」
上を向き、叔父が尋ねる。

「彼女は全体の指揮を執っています。必要に応じて、手薄な部隊を支援する手はずです。今、南の山にテルア魔術師、北の丘に騎士ゴリアーテ、西にはマックス将軍とケレルパニエ公爵、東には俺の部隊が待機しています」

「万全だな」

「最後の竜が浮島に到着したら、行動を開始します」

 島の周辺に結界を張るのだ。その為に今、聖騎士団の騎士たちが、コンディエンヌ城を囲む高所各所で待ち構えている。

 竜たちを浮島に追い込み、すかさず結界を張り、閉じ込める。

 これが、聖女の計画の全貌だった。さっき、外壁を伝って下へ降りる前、まだ城の中にいる時に、叔父が話してくれた。

「助かった。脱獄が間に合った」
その脱獄を助けてくれたのは誰だったか、叔父は忘れてしまったようだ。
「よし。わが師団も聖女とともに、君たちの援護にまわる」

「ならば、城内中央へ」

 バートラフをひと睨みすると、軍を引き連れ、高らかに甲冑の音を立てて叔父は立ち去って行った。

 セティも塔の中になりを顰め、この場に残されたのは、わたしとバートラフだけになった。
 
「あなたを無視するなんて、セティはひどいわ。それに叔父さまも、貴方に助けてもらったくせに」

 思わずわたしは吐き捨てた。
 セティはまるで、バートラフなどいないかのように振舞っていた。思い出すだけで腹が立ってたまらない。

「仕方ないよ。僕は、聖騎士団を抜け出して、勝手に行動したのだから」
格別悪いことをしたと思っている風でもなく、バートラフが言う。

「一人で行動していたの? 危なくはなかった?」

「別に。一足先に、コンディエンヌ城ここに乗り込んだだけだから。それよりセティウスのやつ、僕が竜王の息子だということを、知っていたみたいですね」

「貴方は別の名前を名乗っていたのよね。目や髪の色を変え、変装して」

「ええ。貴女には見抜かれてしまったわけだけど。でもまさか、セティウスにまで……そうか。聖女か」

 わたしもそうだろうと思った。
 バートラフの変装は完璧だった。けれどわたしにわかったのだから、聖女に見破れないわけがない。

「聖騎士団を置き去りにして、一足先に、父の城に乗り込んだわけですから、疑われて当然です」

「ひょっとして……」
わたしは口ごもった。
「もしかして、あなたが一人で行動したのは、わたしがワッツァに連れ去られたと知ったから?」

 なんてことだろう。
 もしこれが、バートラフが聖騎士たちから疎まれる原因になったら?

 継母のわたしが、幼いバートラフを虐めて、性格を歪める過去は回避した。けれどこれでは、彼の不幸の原因がわたしであることに変わりがないではないか。

「自分の一番大切なものがさらわれたからです」
毅然として、バートラフは答えた。

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