【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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50 白と緑の戦い

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 あまたの竜を弾き飛ばし、見る間に白い竜は、緑の竜に近づいて行った。

 白い竜バートラフは、緑の竜カミラの側面を狙った。しかし、体は、緑の竜の方がはるかに大きかった。緑の竜は鼻で笑い、尻尾でバートラフを突き飛ばそうとする。

 鞭のような一撃を巧みによけて、バートラフはカミラの懐に飛び込んだ。

 これは、カミラも予想していなかったようだ。

 2体の竜の体が絡まった。ぐるぐると互いの体に巻き付き、締め上げようとする。

「バートラフ!」
わたしは金切声を上げた。

 白い竜が顔を上げ、安心しろというように頷いた気がする。

 周囲の竜たちは、それでも、島へ向かう流れを止めようとしない。白と緑の渦を除け、一定の速度を保ち、次々と浮島へ到達している。

 竜たちの流れが次第に細くなっていった。

 「結界の準備を!」

 澄んだ女性の声が命じた。
 聖女の声だとわかった。

 地上の空気が変わった。金気を帯び、ずしんと重く澱んだ。

 地上の魔力は、天上のバートラフとカミラにも伝わったようだ。下へ向かおうとするカミラを、バートラフが体当たりで止めた。

 そのまま、彼女を浮き島掛けて突き飛ばそうとする。

 1回。2回。

 次第に浮島へ近づいていく。

 竜たちはほぼ全員、島に到達していた。

 バートラフの体が大きくしなり、緑の竜を打つ。カミラの体がはねて、浮島の大地に入った。勢いで、バートラフの体も浮島に触れる。

 聖女の声が命じる。
「今よ! 結界を張るのです!」

「待って! まだバートラフが!」
金切声でわたしは叫んだ。

 次の瞬間、眩しいばかりの光が四方から浮島を照射した。
 島全体が発光したかのように輝き、強烈な熱が地上に降り注ぐ。

 白く燃え上がる空から、その空にもまして純白の竜が落ちてくるのが見えた。




 アンジェリカ・トムソンが覚醒したのは、12歳の時だった。
 ツェデイの町の、徴税請負人の家に彼女は生まれた。貴族ではないが、ブルジョワの家柄だ。
 裕福な実家のおかげで、彼女は王都の学園で教育を受けることができた。

 アンジェリカには実力があった。学業だけでなく、音楽絵画などの芸術部門でも、常にトップだった。普通なら嫉妬でいじめにあってもおかしくはなかったが、あまりに図抜けた才能に、学友たちは、彼女を遠巻きにして離れていくに留めた。
 もちろん、親しい友人などできなかった。

 寂しくはなかった。アンジェリカは、自分が優秀なことを知っていたから。絶対的な自信は、孤独を感じさせない。

 そんなある日、乗馬の時間に、バーデル公国の公子が落馬した。馬から落ちた彼の脚は変な風に曲がっていて、骨が複雑に折れてしまったことがわかる。気の毒に、彼は一生、足が不自由な人生送るのだろう。

 公子は痛がって泣き喚いた。教師たちは焦るばかりで、なにひとつ有益な治療ができなかった。
 生徒たちは、遠巻きにこの惨状を眺めている。

 その時だった。
 身内に力が漲るのを、アンジェリカは感じた。
 同時に、彼女は思い出した。
 自分が、「ここではないどこか」から転生してきたことを。

 ……私ならできる。

 アンジェリカはバーデル公子に近寄り、ねじ回ったその足の上に手をかざした。目を閉じ、力を送る。
 温かい波動が、手から彼の体へ伝わるのを感じた。

 まもなく、公子は痛みを訴えるのを止め、それどころか自らの足で立ち上がった。

 バーデル公子の骨折を瞬く間に治癒させたアンジェリカの高名は、町中、いや、国中に轟いた。
 彼女が「ツェディの聖女」として聖騎士団を結成したのは、その数年後のことだ。




 ごうごうと風が吹き、周囲の空気が歪んだ気がした。全てが流れるように消え去り、再び視界が蘇った時、わたしは、どこか知らない叢の中にいた。

 重い摩擦音がして、上から何かが落ちてくる。

 「バートラフ!」

 考えている暇などなかった。
 あの高さから落下し、地面に激突したら、彼の体は粉々に砕けてしまうだろう。

 衝撃を和らげなければならない。城の窓から外へ出たわたしを、バートラフが受け止めてくれたように。

 彼が落ちてくる真下へ走り、両手を広げ、歯を食いしばった。
 バートラフに怪我をさせたりなんかしない。どんな痛みも、彼に感じさせるわけにはいかない。
 それしか考えていなかった。

 竜となった竜人の大きさとか、重力に引かれて加速度が増し、落下の衝撃を強めるとか、そんなことは全く頭に浮かばなかった。

 わたしはただ、バートラフへの想いに身を委ねた。それはとても簡単なことだった。だってわたしにとって、一番自然で幸せな感情だから。

 頭上の空気を伝って摩擦音が落ちていた。風が髪をかき乱す。
 世界の全てがわたしから遠のいた。




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