【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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52 与えられたスキル

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 「あなたが、メレンクールの王女、デジレ・フォン・メレンクールね」
聖女は言った。

 草原に、わたしたちは二人きりだった。散々抵抗したけれど、バートラフは取り上げられてしまった。


 ……「彼は、大した傷を負っていない。君が聖女と話している間に、俺が治癒させてやろう」

 魔術師が申し出た。さっき、白い竜はカミラを浮島に追いやったと指摘した彼なら、バートラフに危害を加えたりしないだろう。バートラフを殺せと命じた聖女に治療を任せるよりは、安心だ。


 「デジレ・フォン・メレンクール。貴女も転生者ね?」

 最初、わたしには意味がわからなかった。だんだんに聖女の言葉が頭に沁みてきて、はっとした。

「貴女? 聖女、貴女も転生者なの? 現代日本から転生してきたの?」

 うっすらと聖女は笑った。

「ええ。現代日本がどこだか知らないけど。私は、あなたとは別の世界、別の時間軸から転生してきた」

「私が転生者だって、なぜわかったの?」

問うと、聖女は笑い出した。

「空から落ちてきたバートラフを、あなたは受け止めたわ。この世界の人間がそんなことをしたら、死んでしまう。あなたには、強大な力がある。それなのに、ねえ、デジレ。貴女はなぜ、無能のふりをして生きてきたの?」

「え?」

 わたしには大した能力がない。無能のふりどころか、人に誇れる実力というものがまるでない。それは、日本にいた時からそうだった。生きるために好きでも嫌いでもない仕事を黙々とこなし、特に人生を楽しむでもなく、大きな目標も持たず、その日その日を淡々と生きていた。

「あなたは、契約結婚などという最も愚劣で非効率的な手段で、祖国を救おうとした。あなたほどの力があったのなら、もっと別な手段があったはずよ? その上あなたは、メレンクールの王女という恵まれた地位に転生した。あなたの実力をもってすれば、この世界は、ここまで荒廃せずに済んだはず」

 わたしは激しく混乱した。

「そんな力が、わたしにあるはずがないでしょう!」

「あなたねえ……」
聖女の顔に軽蔑が浮かんだ。
「転生者は、ギフトと呼ばれる強大なスキルを与えられる。わたしはその力を使って、竜の瘴気に苦しむ人々の治療に尽力してきた。王女という強い身分を持ちながら、あなたはなぜ、スキルを使わなかったの?」

 聖女は、何を言っているのだ? このわたしに、そんな素晴らしい能力があるわけがないではないか。
 この世界に転生してからだって、メレンクール王家の居候だの無駄飯食らいだの罵られ、王宮から遠ざけられていたのに。

「ブルジョワ出身の私には、絶対的な支援者が必要だったわ。公子や魔術師など、力のある騎士がね。あなたはそれを、生まれながらに持っていたというのに、全く使おうとしなかった。聖騎士団の騎士たちを集めるのに、わたしがどんなに苦労したことか!」

ため息をつき、聖女は続けた。

「彼らの信頼と愛情を得て、思い通りに動かすには、大変な努力が必要だった。いつだってわたしは、いい人でなければならなかった。それがどんなに大変なことだったか、あなたにわかる?」

 つまり聖女は、猫を被っていたわけね? 自分をひたすら、いい人に見せかけていたわけだわ。

 わたしが考えていたことが伝わったとは思えないけど、聖女はムキになった。

「強い求心力が必要だったの! 私以外に、忠誠を誓うことは許さない。聖騎士たちには、命の最期の一片まで、私に差し出す義務がある」

 聖女は、騎士たちを操ろうとしていたのだ。相手の意志を無視して、操り人形のように自分に従わせようなんて、そんなの、聖女と呼ばれる人のすることなのだろうか。

 ゆっくりと聖女は続けた。
「それなのに、聖騎士たちの均衡を、貴女が壊した」

 さすがに怒りがこみあげた。

「さっきから、何を言っているのよ。わたしにはあなたが言っていることがさっぱりわからない」

「バーサプロン……バートラフよ。彼はどうしても、わたしに心を開かなかった」

「……え?」

 小説の中のバートラフは、聖女を慕うあまり、彼女を連れ去り、監禁までしてしまったというのに?
 なおも聖女は続ける。

「セティもそう。ま、彼のことは、そのうち篭絡する自信があるけど。でも、まさか貴女が生きていたなんてね。てっきり竜の瘴気で死んだと思っていたのに」

 わたしは聞き咎めた。

「篭絡ですって? 人を、自分に都合のいい人形のように思っているのね。バートラフとセティが貴女に真心を捧げなかったのは、わたしのせいだって言いたいの?」

「そう。あなたのせい。わたしに絶対の忠誠を誓わせるには、他の人間の影響力があっては邪魔なのよ。特にバートラフは、いつだって貴女のことを考えていた。だから彼は、わたしの計画を批判し、思い通りに遂行させなかった。最終的には、勝手に騎士団を離れ、一足先にロシュフォイユ城内に侵入した。あなたがいたからよ」

 ワッツァが生きていることを知ったバートラフは、わたしを助けに来てくれたのだ。大事な騎士団の仲間を置き去りにして。

 そのことに思い至り、胸が熱くなった。

 ことの是非はわからない。彼はわたしなんか捨て置いて、騎士団と共に働くべきだったのかもしれない。けれどバートラフは、わたしの窮地を救おうとした。

 これ以上、何を望むというのか。

 怒りに満ちた目で、聖女がわたしを睨む。

「わたしではなく、あなたを選ぶなんて。聖騎士団の一員でありながら」

「だから、バートラフを見殺しにしようとしたの? 浮島に閉じ込めて?」

「仕方なかったのよ。結界を閉じるには、あの時しかなかった。時にリーダーには、冷酷な判断が必要なの」

「あなたは、バートラフを殺すと言った」

「レムリカ大陸に竜がいたらいけないの」

 この人には、決定的に何かが欠けていると思った。能力も人望があって騎士たちからは慕われているけれど、大切なものが欠落している。

「あなたは、バートラフの信頼にふわしくない」

「そうね。彼はあなたを選んだ」

苦々し気に聖女は口を歪め、続ける。

「その貴女ときたら。転生者としての能力を使おうともせず、有利な王女の地位もフイにしてしまった。そんな覇気のない人を選ぶなんて」

 たまりかねてわたしは叫んだ。

「わたしに与えられたスキル? なんなのよ、それは!」

「自分に付与された能力も知らないの?」

「知るわけないでしょ」

「……まさか、本当に知らないとか?」
聖女は呆れ顔をしている。

 こんな女に何かを頼むのはしゃくだった。けれど、彼女には、転生者としての世知があるのは確かだ。

「教えて」

 聖女は探るような目でわたしを見た。すぐに目線を変え、遠慮なく全身をねめまわす。
 その顔に、驚愕が浮かんだ。

「教えなさいよ。わたしのスキルは何?」

 いつまでも口を開こうとしない聖女に、しびれを切らしたわたしは叫んだ。

「プロットを破断する者」

 一言、彼女は告げた。


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