【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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64 終章 2

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 頭上に揺れる葉の合間から、ゆらゆらと木漏れ日が降り注いでいる。

「この樹が何の樹か知ってる?」

樹の幹を軽く撫でながら、わたしは尋ねた。

「ロンウェイユの木だろ? 君が植えた」

 わたしはバートラフに向き直った。

「ロンウェイユの核が芽を出すように魔法をかけたのは貴方でしょう?」

 そもそもロンウェイユは果実なんかではない。核を埋めたところで、樹に育つわけがない。

 きまり悪そうにバートラフは頷いた。そして、アーヤから、わたしがここにロンウェイユの核を植えたことを聞き、ちょっとしたいたずらをしたんだ、と白状した。

 わたしは大きく息を吸った。

「ロンウェイユをくれたひとは貴方ね、バートラフ。あなたはわたしのために……、」
 全部言い切ることができず、声が詰まる。

 バートラフは、ほうーっ、と深い息を吐いた。

「やっぱりわかっちゃったんだね。まったく、君には隠し事はできないな。あのね。昔からロンウェイユは、あらゆる怪我や疾病に効果があると伝えられてきた。本当のところは定かではない。でも僕は、伝説が真実であると信じた。だからアーヤに渡して、君に服用させてもらったんだ」

 わたしがこの村で瀕死の体を養っていた時に、ロンウェイユを与えたのはバートラフだったのだ。霊薬は抜群の効果を発揮し、わたしは、竜の瘴気からくる病を克服した。

「竜の血には、人を癒す効果があるのね?」

「うん。人の寿命を、自分のと同じだけ伸ばす効果があるんだ」

 だからワッツァは、最初に自分の血を飲ませようとした。せっかく見つけた「子守り」が早死にしないように。ところがカミラが邪魔をして、わたしがワッツァの血を飲むことはなかった。

「でも、僕が君に投与したのは、竜の血なんかじゃない。ロンウェイユという霊薬だ。ごめんね。本当に知らなかったんだ。まさかロンウェイユにも、竜の血と同じ副作用があったなんて」

「副作用?」

「どうやら君の寿命を、残酷なまでに延ばしてしまったらしい」

「それは、ロンウェイユが竜の目だから。貴方がわたしに与えたのは、貴方自身の右の目だったのよ」

「デジレ……」
バートラフは絶句した。
「それも、わかっていたのか」

 取り出された眼球には、竜の血が残っていた。だから、ワッツァは、わたしから彼の血の匂いを嗅ぎ取ったのだ。

 バートラフが、ロンウェイユの薬効について確信が持てなかったのも無理はない。自らの目を犠牲にしてまで、他の誰かの命を救おうとした竜が、そうそういるわけがない。

「自分の目を差し出すなんて。貴方はなんてことしてくれたの!? そうまでして、わたしは、生き延びたくなかった!」

 激情に駆られ、叫んだ。究極の恩人に対し、なんて言い草だろう。けれど、バートラフが取り返しのつかない傷を負ったことが耐え難かった。まして、このわたしの為に。

 バートラフは、上目遣いになった。

「やっぱり怒ってる? 君は父上に、ひどいことを言われたね」

「違う。怒っているのは、貴方が自分を傷つけたことよ。わたしなんかの為に!」

「デジレ。それは違う」
静かにバートラフは諭した。
「自分を低く見るのは止めて。何度も言った。僕は、君がいなければ、この辛い世を生き抜くことができない」

 この辛い世。
 竜からも人からも弾かれた存在だったバートラフ。

 でも彼は、その無慈悲に引き裂かれた立場を利用して、両者の間の懸け橋になろうとしている。聖騎士団に入り、父を殺すことなく、かつ、その怒りを消し去り、将来、竜たちとの和解に一役買わせようとしている。

 竜王の息子は、完全に父を超えたと思った。バートラフ自身が、真に偉大で高貴なのだ。

「父上……黒龍が僕を食いちぎろうとした時、君は僕を助けてくれた」

 あれは、バートラフがつかみ取った未来だ。わたしはただ、物語の結末を変えたにすぎない。だから、転生者であるがゆえに与えられた異能については、明かしてはいない。

「体から血が迸って、意識が遠のいていく中で、僕は確かに感じた。七色に輝く君の気配が、僕を包み込んだのを。その瞬間、傷は癒え、不思議な力が全身に漲っていった。そして僕は、黒龍の急所に食らいつくことができた」

「それは、あなたの力よ」

「君がいたからこそ発揮できた力だ。そのことを忘れないで。僕には君が必要なんだ」

「バートラフ……」

 何といっていいのかわからない。
 彼がわたしを認め、評価してくれたのが、ただただ嬉しかった。

 黙り込んでしまったわたしをどう思ったのか、不意にバートラフは俯いた。

「ずっと謝ろうと思っていた。誓って、わざとじゃない。考えてもみなかった。ロンウェイユには、竜の血が含まれているということ……よく考えればわかることなのに!」

「貴方は、わたしを救ってくれようと必死だったのよ」

「だが、不注意だった。結果として僕は、君に過酷な運命を担わせてしまった。人間の君に、竜と同じ、気が遠くなるほどの長い命を与えてしまった。しかも、許可を得ることもなく。すまない、デジレ」

「なんで謝るの?」

「だって……怖いだろう? そんなに長い時間を生きるのは」

 私に与えられたのは、気が遠くなるほどの時間だろう。親しい友人や親族はいなくなり、たった一人……。

「いいえ」
微笑んで答えた。
「あなたがいるわ、バートラフ」

「デジレ……」

 ぱっとバートラフが顔を上げた。顔が輝いている。

「それにあなたはうぬぼれている。この運命を選んだのは、わたしよ」

 わたしは、。永遠とも思えるほど悠久の時間を共にすごすことは、わたし自らが選んだ、物語の結末なのだ。

「あなたが生きて存在する限り、わたしはここにいる。あなたの傍らに」

 おずおずと、彼の唇がわたしの額に触れた。始めは遠慮がちに。それから、腕を回して抱きしめる。
 壊れ物のようにそっと。すぐに、決して離すまいという強い力を込めて。

 暖かい。彼の胸の鼓動が聞こえる。

 古い本は閉じられ、新たな物語が始まる。
 真っ白なページを、わたしは生きていこう。
 彼と共に。
 七色の光に祝福された未来を。







⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*

お読みいただき、ありがとうございました。
本編は、ここで終了です。

この後、エピローグというか、その後のちょっとしたお話が続きます。
どうか今しばらく、おつきあい下さい。



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