完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも

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4 同衾(@ロタリンギア王国)

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「カエル! カエルよ!」
部屋に忍び込んできたカエルに、男爵令嬢エリザベーヌは、悲鳴を上げた。
「いや! 来ないで! あっち行って!」

「なんで? どうして? 君のジュリアンだよ」
優しい声で、カエルが話しかける。

「違うわ! いえ、違わないけど、違うのよ!」
ドレスの中で足をバタバタさせて、エリザベーヌが身もだえる。

こらえなさいませ、エリザベーヌさま」
長くから付き従っているメイドが宥める。
「ジュリアン様は、貴女様と同衾しさえすれば、元の姿にお戻りになるんです。たった今、陛下から知らせがあったばかりじゃございませんか」

「マリアの言う通りだよ、エリザベーヌ。君は、もっと喜ばなくちゃ。一番愛する人としとねを共にすると聞いて、僕が真っ先に思い浮かべたのは、君のことなんだ」

「だって、カエルじゃないっ!」
半狂乱で、エリザベーヌが叫ぶ。

「一時我慢すれば、人間の姿にお戻りになります!」
必死でメイドが説得する。
「元の麗しい、王子のお姿に!」

「王子が何よ! どうせ私は、王妃になれないんだわ!」

王が2人の結婚に反対であることは、さすがに、エリザベーヌにも漏れ伝わってきていた。
「あなた、父上を説得するって、言ったくせに!」

「ケロケロ」
カエルは鳴いた。
「今度のことで、よくわかった。カエルになっただけで、継承権を否定するなんて、王位というものは、なんともろいものだろう。それに、父上は、本当は、弟のアルフレッドを、即位させたいのだ。アルフレッドの方が、僕より優秀だと思っているんだ。長男即位が鉄則だから、僕が先に生まれたことを、残念に思っているのさ。ひどい話だ。王位なんぞ、こっちから、願い下げだ!」

「だってあなた、私を王妃にしてくれるって!」

「別にいいだろ? 王妃になんかならなくたって。そんなの、煩わしいだけだよ。いつだって僕は、君の側にいるから。ケロッ」
「そのケロ、止めて!」

「仕方ないだろ、出ちゃうんだから。それよりさ、エリザベーヌ。二人だけで、湖畔の町で、静かに暮らそうよ」

「たとえどのようなお姿でも、ジュリアン様は王族。個人財産をお持ちです」
メイドのマリアが助太刀をする。
「もし万が一、即位なさらない場合でも、ヴェルレ湖近くの荘園は、ジュリアン様の名義のままです」

「でも、カエルよ?」
「すぐに人間にお戻りになります。エリザベーヌ様、あなた様が、ほんのちょっと、気持ち悪い思いに耐えれば!」
メイドに諭され、エリザベーヌは震えあがった。
「いやよ! いやいや!」

「堪えておくれ、エリザベーヌ。これが初めてってわけじゃないんだから」
「おや、そうでしたか」
「そうだよ、マリア。知らなかったの?」

「いやあっ!」
一際大きな悲鳴を、エリザベーヌがあげた。土色のイボガエルが、ぺろんと舌を出して、目の前の蠅を巻き取ったからだ。長いピンク色の舌に巻き取られた蠅は、即座に、カエルの口の中に消えた。
「グェッ」
げっぷをするように、ジュリアンの喉から体全体が波打つ。無事、飲み下せた模様だ。

「ジュ、ジュリアン様! 何をなさいます!」
落ち着いていたメイドのマリアも、さすがに悲鳴に近い声をあげた。

「あ、ごめんよ。動くものを見ると、つい」
悪びれることをなくジュリアンが答える。

「気持ち悪い! 気持ち悪い!」
エリザベーヌは半狂乱だ。真っ青な顔をして、今にも吐きそうに見える。

「気持ち悪い? いや、僕はちっとも変わってないよ」
ぴょんと大きく飛び跳ねて、カエルは、彼女のドレスの裾にしがみついた。

「ウギャーーーーーーッ!」
この世の物とは思われないほどの凄まじい悲鳴が響き渡る。まるでケダモノの咆哮だ。とうてい、淑女の声ではない。
それでもカエルは、彼女のドレスから離れなかった。それどころか、じりじりとよじ登っていく。

「君だって僕のこと、愛してる、って言ったじゃないか」
恐ろしい悲鳴に負けじと、ジュリアンが叫ぶ。

「あの時のあなたは、金髪青い目の、王位継承者だったわ!」
「今だって、変わらず、君を思っているよ!」
「止めて! 吐きそう!」
涙目で喚きちらし、エリザベーヌはえづいた。どすんどすんと、凄い音を立てて、足を踏み鳴らす。

「これ、エリザベーヌ様! かりにも王子ですぞ。そのようにないがしろにしてはなりませぬ!」
慌てた声で、マリアが諫めた。ドレスにしがみついたカエルを、エリザベーヌが、内側から蹴り飛ばそうとしたのだ。
「だってこのカエル、蠅を食べたのよ!」
「お気持ちはよくわかりますが!」
「虫! 蠅! カエル!」
「それでも僕はちっとも変っていないよ!」

大騒ぎになった。
王宮付きの衛兵たちが駆けつけてきた。

「怖い! 気持ち悪い!」
エリザベーヌは目を瞑り、半狂乱だ。

衛兵たちは、顔を見合わせた。カエルが彼女にしがみついている限り、衛兵たちは、手出しができない。というより、そもそもこのカエルは、王子だ。手出しの出来ようはずがない。

「愛しているよ、エリザベーヌ」

カエルが跳ねた。膨らんだ胸に着地し、また跳ねた。
たゆん。
大きく揺れた胸の反発で、カエルは、彼女の顔に着地した。

「何するのよっ!」
顔に貼り付いたカエルを、エリザベーヌが引っ掴んだ。
「王妃にもなれないのに、誰が、カエルとなんか寝るものですか!」
凄まじい形相で、顔に貼り付いたカエルをべりべりと引き剥がし、壁に向かって叩きつけた。






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