石川五右衛門3世、但し直系ではない

せりもも

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花瓶の穴

4 五右衛門の受難

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「だがなあ。ひでえ目に遭ったぜ」

 大きな獰猛な犬をけしかけられ。家中総出で追い回され。挙句の果てに、腕の立つ者でもいたのか、矢まで射かけてきた。

「まさに命がけだったわけよ。如信尼様の為にな」
 愛する女性の為に、命を賭ける。何と素晴らしいことであろう。まさに、武士道の鏡だ。俺は、盗賊だが。

「お前のような子どもにはわからないかもしれないがな、おえん。男は、これと思った女性には、命を賭けて、」


「あれ、五右衛門。これ、出来損ないだよ?」
無粋な幼女が遮った。

「聞け。俺は、それだけ如信尼様を……、」
「あんたも、出来損ないだもんね。如信尼さまへの気持ちもね」
「何を言う。俺の気持ちは、満月のごときだ。欠けたところのない、完璧な、」

「だって、ここ。穴が開いてる。あ。こっちにも!」
「何だって!」

飛び上がって、俺は、おえんの手から、陶磁器をひったくった。

「てっぺんと、くびれの上を見てごらんよ」
 確かに、小さな丸い穴が開いている。

「虫にでも食われたのかな」

 ほとぼりを冷ます為に、2~3日、家に置いておいたのがいけなかったかと、俺は後悔した。なにしろ、俺のボロ屋には、ありとあらゆる害虫が跋扈しているからな。

「馬鹿だねこの人は。虫が器を食べるわけ、ないだろ」

「なあ、おえん。ひとつ相談だが、」
とりあえず俺は、彼女を懐柔する必要を感じた。
「この穴のことは、如信尼様には、黙っといてくれないか? なに、小っけえ穴だ。殆ど、開いてないのと同じだ。そんなんで、この器の価値が減じるとは思えねえ」

「だから馬鹿だって言うんだよ! 花瓶にすんだろ、道端から引っこ抜いてきた花を入れる。水を入れたら、一発じゃないか」
「道端じゃない。田んぼの畦だ!」
「この、ドケチ!」
「ケチじゃない! 陶磁器は、高価なんだぞ! しかもそれは大きい。俺より高いぞ、その花瓶は!」
「けっ、情けない奴。できそこないの花瓶より安いなんて」
「だから、その穴は、」


「ああ、これ。この孔には、わけがあるんだ」すぐ近くで声がした。

「独歩!」
驚いたおえんが、花瓶を落としかけた。危ういところで、俺が掬い上げる。

「おい、おえん。割れたら穴どころじゃないだろ。お前もだ、独歩。いつ来たんだ?」
「たった今」

 独歩は、俺の手から花瓶を受け取り、しきりとひねくり回している。
 川端独歩は、十代中ごろのはずだが、正確な年齢は知らない。大柄なので、この寺、椿寿院の寺男として、重宝がられている。

「穴にわけがあるって、おめえ。花瓶に穴があったら、使えねえだろ」
「さっきは、穴なんか隠しとけって言ったくせに」
おえんがむくれた。

「だからね、」

 独歩は言い、頭を掻いた。口の中で飴玉を転がすように、頬を内側から舌でつつき、考え込んでいる。ちょうどいい言葉が出てこないのだ。

 この子は、少し、言葉が追い付かない時がある。知能は子ども、体はおとな、と言われるゆえんである。

 だが、オツムが足りないわけではない。反対だ。彼は、素晴らしく頭がいい。前にちょっとした事件が起きた時、謎を解き、解決に導いたのは、この子だ。

きんで、蓋と取っ手を作るんだよ。そして、繋ぎの部分をこの孔に差し込んで、取れないようにするんだ」

「金!?」
素っ頓狂な声を、おえんが上げた。
「金なんて、どこにあるのさ! 蓋と取っ手を作る? いったいどれだけ、金がいると思ってんだい!」

「だって、そうなんだもん!」
珍しく、独歩が言い返した。

「嘘おつき! 江戸中探したって、そんなにたくさんの金はないよ。あるわけない」

「それでも、金で蓋や取っ手を作るんだ!」

「かりに、金をかき集めたとしてもだよ。土で作ったものに、金物の蓋や取っ手を付けるなんて、誰が考えるものか!」

「作るんだ! 金で!」

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